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『オアシス・インタビュー』第3回

〈自敬の念〉の欠落が誤鑑定を生む

指紋鑑定にも第三者機関を


警察による指紋鑑識の3つの問題点

——冤罪事件では警察による鑑定不正が明るみに出ていますが、現在の警察による指紋鑑定に問題はありませんか。

齋藤 警察による指紋鑑識の問題点は3つあります。第1に「合致鑑定基準12点法則」はあるが、「不合致鑑定基準」がないこと、第2に逮捕被疑者に合致しない照合可能指紋は、照合不能として処理されること、第3に照合不能指紋は、保管義務の規定がないことです。

 まず第1の「合致鑑定基準12点法則」についてですが、この12点法則とは、被疑者であることを証明するには、指紋の特徴点が12箇所必要であるという基準のことを言います。確かに、犯人であるかどうかを証明するのに12点法則は確実であることに疑いを挟む余地がありません。しかし、指紋の特徴は、万人不同、終生不変ですから、合致と不合致は“排反事象”となります。これが指紋鑑定最大の特徴であり、同一人の証明と別人の証明は同価値なのです。

 そうならば、不合致の基準についても何点が必要なのかという議論があって然るべきですが、それがないのです。そのため、合致鑑定基準に満たないものはすべて照合不能だと決めつけることになります。同等の価値があるものを、一方の基準だけで判断することになるので、理にかなっていません。ここは、不合致と判断する観点から特徴点の基準を設けるのが道理です。

——それでは、不合致の証明ができなくなりますね。

齋藤  警察実務では、事件関係者から任意に提供された協力者指紋(左右10指紋の押捺をしたもの)との選別照合では12点法則があっても、実際の実務では5~6点合致すれば、同一指紋であるとして処理しているのが実態です。協力者合致は、いちいち12点まで指摘しているわけではなく、もっと低い点数で合致として処理しているのです。指紋の合致、不合致の基準は、被疑者か協力者かによって左右されるのは不合理です。

 そこで、私どもでは、照合可能な特徴点保有数を「5点」と定めています。例えば、確実に犯人の指紋である特徴が6点あったとした場合、この指紋に逮捕した被疑者が不合致であれば、犯人ではないという証明ができます。一方、6点が合致すれば、真犯人の可能性が高くなります。しかし、現在の警察の鑑定基準では、12点未満の指紋は照合不能として廃棄されるので、実態解明の観点からすれば極めて不合理です。

  なお、現在の「12点法則」は、1979(昭和54)年12月に制定されてから40年が経過していることから、別人の判断基準とともに見直す必要があります。

——見直す動きはあるのでしょうか。

齋藤 現在のところ、進展をうかがう情報がないのでわかりません。しかし、どこからも情報がないことをもって見直しが進んでいないとは思えません。進んでいない要因は、「別人の判断」は、捜査機関の刑事訴追上の証拠価値が見いだせないからであり、積極的に犯人であることを証明するには適していないためと思います。そのため、捜査機関では、積極的に不合致鑑定基準が論議されてこなかったように思います。これは、捜査機関と弁護側の見解に相違があるからだと思います。

——第2の「逮捕被疑者に合致しない照合可能指紋は、照合不能として処理されること」とはどういうことですか。

齋藤 現場に残っていて、犯行時に付着した照合可能な現場指紋が、犯人として逮捕した者と合致しなかった場合、照合不能として処理されないと矛盾するので排除されます。特徴点の指摘は、鑑定官の取り方で左右されますから、「特徴点の指摘が不十分」として照合不能にすれば簡単に矛盾しなくなってしまいます。

 この例が、冤罪事例③の布川事件です。事件発生から約1カ月後、捜査本部が、隣接県に出張して、指紋・掌紋の照合をしているという新聞記事がありました。指紋は、警察庁に全国の指紋原紙が保管されているので、出張して指紋を再照合する必要はありません。一方、掌紋は警察庁に保管されていないので、出張するとなれば“掌紋”の照合が目的だとわかります。この時、私は栃木県警の鑑識課指紋係にいたので、応援で照合を手伝った記憶があります。

 しかし、公判資料に提出された書面からは、掌紋の存在が消えており、鑑定可能な指紋・掌紋はないとのことでした。逮捕された2人の掌紋は当然、照合しているはずなので、証拠として提出されていないということは、合致していないことになります。そうすると、逮捕した2人は犯人ではないことになりますが、それでは捜査機関にとって不都合なので、隠したということになります。

用語解説

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