裁判員のはらの中──もうひとつの裁判員物語<br>第13回(最終回)

裁判員のはらの中──もうひとつの裁判員物語
第13回(最終回)

裁く側と裁かれる側と

竹山由季乃さん

公判期日:2012年9月20日~9月28日/鹿児島地方裁判所
起訴罪名:傷害致死
インタビューアー:田口真義

 


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竹山由季乃(たけやま・ゆきの)さん(2025年10月8日、筆者撮影)

どうせ選ばれない——呼出状

 2014年初夏、鹿児島地裁で補充裁判員を経験したという方から、LJCC(Lay Judge Community Club)事務局宛てにメールが入った。お名前も性別もわからないその方とやりとりを重ね、初秋の頃になってようやく送られてきたエントリーシートには、「あの時の判断は正しかったのかと、モヤモヤした気持ちが残っています」と直筆の手紙が添えられていた。送り主は、鹿児島県に住む竹山由季乃(たけやま・ゆきの)さんだ。

 九州三大河川の一つである川内川が流れる北薩地域で生まれ育った竹山さんは、大学生活を除いて、ほぼ地元で過ごしてきた。これまで和洋菓子店など様々なアルバイト経験を重ね、現在ではリラクゼーションサロンを開業している。地域で人気のセラピストである一方、一児の母でもある彼女は、忙しくも充実した毎日を送っている。インタビュー当日も、お子さんがお昼寝をしているそばでお話を聴かせていただいた。

 普段の穏やかな表情や口調からは想像もつかないストイックな言葉の数々だ。その真意を探るべく、お子さんのお昼寝を邪魔しないように、静かに耳を傾けたい。

 それまで、司法や裁判の世界は「自分には一切関係ないと思っていた」と言う竹山さんは、候補者登録通知を受け取った時も無頓着だった。

 制度施行時のニュースも見ていたそうだが、「市民に務まるのかな?」と懐疑的だったそうだ。「人を裁けるほどの人間じゃない」と繰り返す竹山さんに、2回目の通知が届いたのは翌年の夏、暑い盛りの頃だった。

 職場の柔軟な対応が素晴らしい。竹山さんは、「どうせ抽選で選ばれないだろう」と気軽に考えながら、指定の期日に裁判所へと向かった。

呼出状(左)と従事証明書(右)

下手をした!?——選任手続~初公判

 竹山さんの予感通り、「下手をして」しまうのだが、その選定を前後して興味深い話を聴かせていただいた。

 気持ちの浮き沈みを整える間もなく、宣誓手続を経て評議室へと通された。選ばれた裁判員は、20代から60代までの男性1名、女性5名の正裁判員に、男女1名ずつの補充裁判員で計8名。補充の1番が竹山さんだ。

 桜島を抱く鹿児島湾を中心に東西に半島、そして多くの離島からなる鹿児島県。なんと奄美群島から市内のホテル宿泊で参加された裁判員もいたそうだ。

 午後からの初公判に備え、各自で昼食を済ませて再び集合という中で、竹山さんは実家と職場に連絡をした。

 入廷リハーサルなどはなく、バタバタと法廷へ向かう。「法廷は、ドラマやニュースで見覚えがある」と言う竹山さんは、男性裁判官3名を含む合議体の一員として入廷した。

 判決文によると、雨が降る事件当日の夜22時過ぎ、2人いる弟のうちの1人と口論になった被告人は、家出をしようと敷地内に駐車されていた軽自動車に乗り込み、車を発進させようとした。そこへ、被告人の行動を制止しようと家から母親が出てきたのだが、敷地内から市道へ出るその通路上で、被告人が乗る車が母親と衝突し、下大静脈損傷、左右肋骨多数骨折等の傷害を負わせた。その結果、外傷性ショックで死亡させてしまったという傷害致死事件となっている。

 当初、捜査機関は殺人事件として被告人を逮捕勾留していたが、処分保留で釈放後、任意聴取を重ねて傷害の故意を認める調書を取り、傷害致死として起訴したという経緯があった。また被告人には、飲酒運転で検挙された過去があり、事件当日も飲酒していた。

蒸発霧(けあらし)で有名な川内川(2025年10月9日、筆者撮影)

百聞は一見に如かず——現場検証

 事件現場は、裁判所がある鹿児島市内から南へ約60キロメートル。薩摩半島のほぼ南端に位置していた。用意されたマイクロバスには、緊急事態に備えて看護師も同乗し、竹山さんたち裁判員と裁判官が乗り込んだ。

 当地が初任地という左陪席からしたら、地物の野菜は珍しかったのだろう。竹山さんたち一行は休憩後も約1時間バスに揺られ、現場近くの公民館で昼食をとり、午後になってようやく被告人と被害者宅の敷地へと入った。

 日常の風景に、黄色と黒の規制線が入り込むだけで、周囲には緊張が走る。約2時間の現場検証が始まる。

 極めて真剣に、実直に現場検証に臨む裁判員たちの姿が目に浮かぶ。被告人との体格差も、事件当時の状況を再現したいというのも、合理的で鋭い。何より、「百聞は一見に如かず」を体感することが貴重なことだろう。

 帰りのバスでは、ほとんどの人が疲れて眠っていたそうだ。竹山さんは、自宅から裁判所までと、裁判所から事件現場までの往復で約8時間をバスで移動したことになる。裁判員2日目にして疲労はピークを迎えそうだ。さらにこの日は金曜日、彼女は週末の土日にアルバイト出勤していた。

 裁判員中に、いつも通り仕事をすることの違和感は、「第10回 同じ裁判、別な視点」(2025年10月15日公開)など、様々な経験者が語ってくれている

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(2026年01月15日公開)


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