裁判員のはらの中──もうひとつの裁判員物語<br>第13回(最終回)

裁判員のはらの中──もうひとつの裁判員物語
第13回(最終回)

裁く側と裁かれる側と

竹山由季乃さん

公判期日:2012年9月20日~9月28日/鹿児島地方裁判所
起訴罪名:傷害致死
インタビューアー:田口真義

 


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竹山由季乃さん(2025年10月8日、筆者撮影)

故意かどうか——公判〜評議

 ほとんど眠れない週末を過ごした竹山さんは、週明けの朝、始発のバスで裁判所へと向かった。約2時間の道中も、目が冴えて一睡もしなかった。そして法廷では、証人尋問や被告人質問が展開していった。

 裁判員5日目の午前中、検察官は懲役6年の論告求刑を行い、一方の弁護人は執行猶予付判決を求めて結審した。両者のポイントはやはり、「故意かどうか」だった。

 各々の立場からの真っ当な主張。2日後の判決公判に向けて、午後から評議が始まる。

 議論の末に、被告人には故意があったという事実認定がなされ、その日は17時頃に解散した。翌日は一日かけて量刑判断となる。しかし、裁判所の庁舎を出ようとしたところで竹山さんの足は止まった。

それでいいのか?——量定

 その行動力には率直に驚いた。「それでいいのか?」と思っても、具体的に行動できる胆力は中々持てない。この時、答えは変わらなくても、「できるだけのことをした」と納得したそうだ。

 降車して母親を確認していることも、「最初から轢く気だったら、確認もしなかったんじゃないかな」と鋭い考察を加える。被告人は、事件後すぐに現場近くの海岸で自殺をしようとしていたところを逮捕されている。

 この日、最終便のバスに滑り込んだ竹山さんが帰宅したのは20時過ぎ。そして、翌日も始発バスに乗った。

 厳しい意見かもしれないが、竹山さんは「そう思うのも普通だから」と理解した。一方で、彼女独自の視点で、執行猶予に対する思いを吐露してくれた。評議室では口にしなかった言葉だ。

 評議2日目の夕方、懲役3年という傷害致死の法定刑のうち最下限の量刑で評決した。

裁判所から配布された鹿児島地裁案内図

二度としたくない——判決~裁判後

 最終日の判決公判、補充裁判員の竹山さんは、法壇ではなく傍聴席になる旨を前日に聞かされていた。

 判決文でも強調されていた最下限の法定刑は、そのまま確定した。この日、日本列島を直撃した台風17号が先島諸島を暴風域に包み込んだ。奄美群島から参加していた裁判員の方は帰れなくなり、追加の宿泊代が出るのかどうか裁判所に確認していたそうだ。一方、裁判員経験者となった竹山さんは最終バスより遥かに早い便で無事に帰宅した。

 なんと稀有なことに竹山さんの約半年後に、職場の店長さんが裁判員を経験していた。

 もしも、呼出状の段階で告白されていたら、「ぜひやってきてくださいとは言えない」と竹山さんは言う。ではあらためて、「人を裁けるほどの人間じゃない」と冒頭で述懐したその胸中に迫る。

 まったくもって同感だ、という一言でまとめたいくらい真理を突く言葉だ。こんなことを竹山さんに聴くのは無粋だが、もう一度、裁判員の機会が巡ってきたらどうだろう?

第1回LJCC鹿児島交流会に参加した竹山由季乃さん(左手前)(2015年8月26日、LJCC提供)

 「もう二度と」という言葉に力が入る。当初、LJCCに寄せてくださった「モヤモヤした気持ち」は、少しは晴れたのだろうか。鹿児島での交流会はまだ2回しか開催できていない。竹山さんが背負ってしまった「責任」と「償い」に寄り添い続けるのがLJCCの役目だろう。インタビュー中盤頃には、お昼寝から目覚めたお子さんが盛大にオモチャを拡げて賑やかな環境だった。はしゃぐお子さんを見つめる彼女の瞳に曇りはない。

(2025年10月8日インタビュー) 


【関連記事:連載「裁判員のはらの中──もうひとつの裁判員物語」】
第10回 同じ裁判、別な視点(山下美紀さん)
第11回 縁あって裁判員(小野利さん)
第12回 言い切れない、割り切れない(宇杉公一さん)

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(2026年01月15日公開)


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