1 はじめに
司法へのアクセス権(access to justice)は、人権保障を実現するための不可欠なものである。障害者にとって、適切な制度設計や手続上の配慮がなければ、法律では平等な権利が与えられていても、物理的、情報、またはコミュニケーション上の障壁のために、実質的に司法手続に参加できない可能性がある。2006年に採択された「障害者の権利に関する条約」(CRPD)第12条および第13条は、締約国に対し、障害者の法的能力と司法へのアクセス権を保障することを明確に求めている。
台湾は国連加盟国ではないが、立法院(国会)を通じて2014年8月に「障害者の権利に関する条約施行法」を制定し、CRPDに国内法としての効力を持たせている[1]。2022年、国際審査委員会(International Review Committee、IRC)は、台湾における「障害者の権利に関する条約」の実施に関する第2回国家報告書について、最終見解を提出した。
そのうち第66点目では、政府はさまざまな障害のある当事者団体に積極的に諮問し、司法制度の利用に関する実体験を収集・理解し、国際的な関連ガイドラインに沿って対応する規範を策定し、裁判所職員および裁判官が講じることができる具体的な措置を明確に列挙することにより、障害者が他の者と平等に、効果的に司法へアクセスできるよう確保すべきであると具体的に指摘している。
このような背景のもと、司法院は日本の「裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」および韓国の「障害者への司法支援に関するガイドライン」を参考に、2024年3月に「障害者司法支援指針諮問会議」を開催した。この会議では、各領域から本指針に対して寄せられた提言を踏まえ、「障害者の司法アクセスに関する指針」(以下、本指針)の内容を策定し、各級裁判所の実務運用の参考にする[2]。
本指針には、身体障害者および精神障害者に対する憲法、民事、刑事、行政、少年事件などの手続における司法へのアクセスの具体的な実践方法が含まれている。本稿では、本指針のうち、刑事裁判における精神障害者の司法へのアクセスに関する制度設計の関連規定に焦点を当てて述べ、その課題と今後の方向性について考察する。
2 精神障害者の状態に応じた適切な司法支援の提供とその内容
障害の種類、原因(先天性か後天性か)、程度、および重複障害の有無は障害者それぞれ異なり、司法手続において必要とされる支援の内容に影響を与える。本指針では、司法機関が個々の具体的なニーズ、事件の性質、および裁判所の資源状況に応じて、必要かつ適切な支援を提供し、その効果的な訴訟参加を確保するよう提言している。
認知症患者を例にとると、記憶、思考、判断などの高次脳機能の低下により、言語コミュニケーションや日常生活機能が徐々に制限されるため、絵カード、固定されたレイアウト、スキャン機能付きの音声コミュニケーター、コンピューターやタブレットの音声コミュニケーションソフトウェアなどの補助具を提供し、表現と理解を促進することができる。
また、知的障害者の場合、抽象的な思考や表現が困難であり、注意持続時間が短く、指示の理解と応答に時間がかかる。そのため、裁判長は、平易で簡潔かつ具体的な言葉を使用し、必要に応じて補助具を併用して、手続や他者の陳述を理解させ、自律的な決定を下せるよう支援すべきである。複雑な情報は、読みやすい内容に変換し、簡単な図を添えることが求められている。書面資料については、16ポイントのフォントとコントラストの高い色を使用することが推奨される。使用可能なコミュニケーション補助具は、認知症患者の場合と同様である。
その一方、自閉スペクトラム症のある人は社会的な相互作用やコミュニケーションに困難があり、固定的な行動パターンを示すことに鑑み、審理時には、簡単な言葉で手続を説明し、その実年齢に応じて尊重すべきである。コミュニケーションが困難だからといって、家族のみを対話の対象としてはいけない。開廷前に信頼関係を築くか、信頼できる人に同席してもらうことで、不安を軽減させることが求められている。
その他の慢性精神疾患、例えば統合失調症、気分障害(感情障害)、妄想性障害、老年期および初老期精神病状態、その他の器質性・非器質性精神病状態、児童期に発症する精神病などの場合、当事者によっては出廷が困難なことがある。その場合、信頼できる人の支援を受けるか、ビデオ会議方式で手続を進める方法もある。情報提供の際は、難解な表現や複雑なレイアウトを避け、簡潔かつ明確な表現を用いるべきである。
また、環境からの刺激を減らし、十分な思考時間と休息時間を与えることで、情緒の安定を保つようにする。開廷時間は長すぎないようにし、感情が不安定になった際には、適宜配慮し、必要な支援を行う。司法実務においても、精神疾患と危険性を同一視することを避け、対話においては尊重の態度を保つことが重要である。
注/用語解説 [ + ]
(2026年08月06日公開)
