call4 stories

第15回

『セックスワーク is ワーク』をめぐる訴訟に至るまで(前編)

「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」


12

「これは差別なのだろうか?」

 「今回のことでまず思ったのは、もらえなかった理由が分からない、ということでした」

 「国会などで言われているのは、反社会勢力とつながっていて、犯罪が多く起こっているとか。これまでの給付金との整合性とかです。でも私の店は反社会勢力ともつながってない」

 性風俗業界の事業であることを理由に制限を受けたことは、今までもあったと原告はいう。

 「たとえば、銀行の法人口座が作れないとか、審査に落ちるとか。ほかにも、電話応対を勉強したいなと思って電話応対のセミナーに申し込んだときに、『風俗業の人は参加できません』と断られたこともあった。そのときにはちょっとショックでしたが、企業側にも選ぶ自由はあるだろうと納得はしていました。うちの店だってお客さんを選びますし」

 「でも、国がそういうことをするというのは話が違うよなと思いました。私は納税しているし、国民だし。適法に設立した法人だし」

 「4月ごろは、世の中みんなが辛かった。そういう状況で、自分たちの業種だけは別ですと言われたのは、けっこうショックでした」

 それでも、「はじめは『いつものことか』と思ったんです」と原告。

 「それが差別であるとは、すぐには思わなかった。でも、小学校休業の助成金が性風俗業界に給付されなかったとき、風俗業界の支援団体が国に要望書を出してくれて、そこに『職業差別』という言葉があって、『あ、これは職業差別なのか』と気づいたんです」

支援団体も同席した

「スティグマ」という言葉に行き着くまで

 「風俗業界で働くことに対しては、今までずっと、もやもやした感情がありました。この仕事はしてていいんだろうか、とか、この仕事してるのに恋愛したり結婚したりしていいんだろうか、とか。そんなことをずっと思っていました」

 「でも、自分の中にある『仕事に対するもやもや』と、『国の決定』がつながるとは、考えていなかったんです。国の決定って、公平なものだと思っていたから。『いかがわしい』というような理由で何かを決定することはないと思っていたから」

 「スティグマという言葉があるんだなと、最近知った」原告は、「風俗業という属性に対する差別や偏見の烙印(スティグマ)」について語る。

 「今回の件を深堀りすると、スティグマという言葉に結びつくんだ、そういう言葉にできるんだなって思った」

 「自分の中にもあったかもなと思います。自分の持っていたもやもやも、世間の感覚から植え付けられたものなのかもしれない、自分がもとから持っていたものなのかもしれない、でもその線引きがわからなかった。だからそれは、スティグマだったのかなと思いました」

 性風俗業界は幅広く、そこで働く人たちの属性も、仕事を続ける理由も、彼ら彼女らが仕事をどう考えているかも、とても多様だ。どの職業だってそうだけれども、性風俗業界にもいろいろな人がいて、ひとくくりにはできない。

 「プロとしてプライドを持って長く仕事しているワーカー」もいるし「やむを得ずその業界に入っている人」もいる。業界が労働者の権利の文脈で語られることもあるし、貧困の文脈で語られることもある。一面をとらえて語ることには慎重にならないといけない。

 「業界のことを一般化はできない。でも、今回の給付金の扱いによってさらに性風俗業界へのスティグマが助長されていることは事実で、それを伝えるべきだと思いました」原告は言う。

 原告がこれを差別だと分かるのに時間がかかったこと自体が、スティグマのあらわれなのだろう。

弁護団の井桁大介弁護士(左)と亀石倫子弁護士(右)

裁判を通じて「これは差別であること」をはっきりさせたい

 「自分なりに『これは差別なのだろうか? 根拠のあることなのかどうか?』と考えるようになってから、法律の本を読んだりしたけど、答えは分からなかった。でも、もしそこに合理的な根拠がないのだとしたら、納得できないと思った。除外された理由について、根拠があるなら欲しいと思った」

 憲法14条1項の「法の下の平等」は、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止」する。

 「法律のことを調べながら、どうすれば戦えるのかなと考えていた」と原告。

 原告は、性風俗店・接待を伴う飲食店を守る活動をする「ナイト産業を守ろうの会」の一員でもあるが、6月には、「ナイト産業を守ろうの会」から中小企業庁に対して、陳情書と署名簿を提出した。

 「でも、政治に対して働きかけるうちに、政治家だけじゃなく、世間に対して広く伝えていかなければいけないと思うようになりました」

 「働きかけをしていたころに、憲法学者の木村草太先生が、学校のブラック校則問題の流れで、憲法訴訟のいいところは一人でも戦えるところだ、というようなことを言っているのを見た。それにハッとしました」

 「私は、『この扱いは差別なのか』という個人的な疑問に答えがほしいと思っていた。でも、差別って、大多数が決めたのであれば許されるものではないんだな、一人でも戦っていいんだなと思った。私もそこに違和感を持っていたんだなと思った」

 「声を上げていいのだと思った。『この扱いは許されない差別なのだ』ということを、裁判を通じてはっきりさせたいと思った。そして、『業界を合理的な根拠もなく差別しないでほしい』という思いに行き着きました」

 この訴訟は「スティグマからの解放訴訟」である。しかし単に「性風俗業界に対するスティグマを取り払おうとする訴訟」というだけではない。その中には、「私たちの中にもあるスティグマを明らかにする訴訟」も含んでいる。

弁護団の三宅千晶弁護士

(2021年10月22日) CALL4より転載

12

こちらの記事もおすすめ