
2026年1月24日と25日の両日、刑事司法未来の主催で、東京にて第24回薬物依存症者回復支援者養成セミナー(DARS)が開催された。本セミナーは、ダルクや訪問看護などで薬物依存の回復支援を行う方々や、刑事政策、医学の研究者を講師に迎え、薬物をめぐる現状を学ぶ場として企画された。約40名の、依存症からの回復の支援者や薬物政策に関心のある方々が会場に集まった。
薬物使用者の尊厳を踏み躙らない言葉で社会の空気を変える
1日目の冒頭では、回復支援の会・木津川ダルクの加藤武士さんが、薬物使用者に対するスティグマについて解説した。スティグマとは「『不名誉』や『汚名』といった負のレッテルを貼ることで、特定の個人や集団を差別や偏見の対象とする現象」で、3つの種類(社会的スティグマ、構造的スティグマ、自己スティグマ)があるという。
1つ目の社会的スティグマは、日常会話や事件報道において、薬物使用者がネガティブなレッテルを貼られることである。2つ目の構造的スティグマは、薬物使用者であることを話すと医療現場で診療の優先度が下げられるなどの、制度運用上の排除を指す。3つ目の自己スティグマは、社会的スティグマを内面化したり、依存症からの回復途上での失敗に深い恥を感じたりすることである。
これらは、依存症であることの隠蔽による治療の遅れ、孤立や苦痛を深めることによる依存の強化につながるという。この現状に対し、薬物使用者の尊厳を踏み躙らない表現・言葉遣いをする、不当な扱いをされている使用者がいたら介入して助ける、などの実践により、社会の空気を変えていく必要がある、とした。
なお、薬物使用者への社会的スティグマの解消に関連するものとして、現在、全国薬物依存症者家族会連合会(通称:やっかれん)が、「薬物の問題を抱える人の人権を尊重し、彼らが社会のなかで孤立したり、社会参加を阻まれたりすることのない配慮」を理念の一つとする、「薬物依存症対策基本法」の制定を求める活動をしている。
続いて、立正大学法学部教授の丸山泰弘さんが、海外の事例をふまえて、ハーム・リダクションの成果と課題を報告した。ハーム・リダクションとは、薬物使用が止まるかどうかではなく、薬物使用による健康的・社会的・経済的ダメージを少しでも抑えることを目指す政策方針である。この考え方は、約80%の薬物使用者が依存症にはなっていない現状(World Drug Report 2016。World Drug Report 2024も参照)にも即している。
しかし、薬物犯罪を非犯罪化してハーム・リダクションを実践した地域でも、薬物関連死の減少は見られない、などの指摘もある。この課題に対して丸山さんは、薬物使用者が抱えている「生きづらさ」に向き合ってこなかった、と原因を分析する。捜査や逮捕にかけるコストを減らすだけでは不十分で、薬物使用者が必要とするケアに対して十分にコストをかけることが必要である、という。
1日目の最後には、国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也さんが、統計調査や街頭調査に基づき、市販薬のオーバードーズ(OD)の現状を報告した。高校生を対象とした調査によれば、違法薬物と市販薬乱用の過去1年間の経験率を比較すると、後者の方が高く、市販薬乱用経験のある高校生のうち、約10%は習慣的に行なっている(週に数回〜ほとんど毎日)という。
ODからの回復支援のあり方として、支援する姿勢を明示するよりも、気軽に立ち寄れる安全で食事のある居場所を用意することや、肩書きなどの権威性が見えにくい相談の場が必要であると強調した。また、SNSは薬物の入手経路やODの入口にもなるが、相談の入口にもなり得ると指摘した。
回復しようとする人を支える回復者に魅せられる

2日目の冒頭では、刑事司法未来・弁護士の石塚伸一さんが、大麻取締りの現在について解説した。大麻をとりまく法律は2023年に改定され、これまで大麻使用の処罰規定はなかったところ、施用罪が適用されるようになった(麻薬及び向精神薬取締法27条1項、66条の2)。
石塚さんは、取締法の適用につき、従来は、実質的に大麻を持っていることと使ったことを合わせて所持罪として処罰されていたところ、法律上はっきりと分かれている両者を合わせて1つの罪として扱われるようになった、と分析する。法定刑が上がったことも相まって、量刑が重くなることへの危機感を述べた。
大麻事件の弁護活動をふまえた、大麻鑑定についての言及もあった。大麻や尿の鑑定には時間がかかり、科捜研では一つひとつの鑑定に十分な時間をかけられていないのではないか、という。これをふまえ、刑事弁護人に向けて、科捜研での大麻鑑定が適切になされていたかを追求し、争わなければいけない、と訴えた。
続いて、依存症専門の訪問看護師として回復支援を行う伊波陽さんが、回復支援関係者の連携について報告した。伊波さんは、看護師として医療的なケアを行うと同時に、自らも依存症からの回復者であるスタッフ(ピアサポーター)と協働して、当事者と時間をともにしながら回復支援を行なっている。
ピアサポーターには、当事者への圧倒的な共感力や、24時間365日にわたるあらゆる支援を徹底的に行うといった魅力があるという。そのような中で、自らを「ピアサポーターが働きやすいようにサポートする」役割と位置づけ、医療関係者も含めて回復支援のネットワーク構築を目指したいと語った。
最後に、川崎ダルクの岡﨑重人さんが、昨今のダルクの様子や、政府の薬物政策の傾向についての報告を行った。日本には現在、70ほどのダルクがあるとのことだ。実践内容はそれぞれのダルクによって異なるが、薬物使用をやめたい人ならば、誰でも利用できるという。以前は、ダルクに来る人も覚醒剤かアルコールを使う人が多かったが、昨今は、大麻を使う人も増えているようだ。
岡﨑さん自身は、ダルクで見た回復者に惹かれて大麻使用をやめる道に入ったという。他方で、依存症ではない人が治療を受けることになってはいけない、と語った。
近年の大藪大麻裁判(現在は、上告審における判断を待っている段階である)からもわかるように、その人の服装を理由とした職務質問が行われることがある。岡﨑さん自身が大麻を使っていた頃に、大麻が描かれた服を着ていても、職務質問には遭わなかった経験から、近年の警察の大麻への関心の高さがうかがえる、とした。
その後、課題共有型“えんたく”によって、本研修セミナーをふまえての意見交換が行われた。えんたくは、参加者一人ひとりが感じる課題の共有を目的に、立場や肩書きにとらわれずに語り合う場である。
スティグマの再生産に加担することへの危惧
2日間を通じて、社会的スティグマの話が印象的であった。加藤さんの話にあったように、表現や言葉遣いに気をつけることは、明日から自分にもできることだ。ただ、事件報道により薬物使用者がネガティブなレッテルを貼られることへの対応は、慎重に行う必要がある。
事件が取り上げられること自体を望まない当事者もいるからだ。中立的・客観的な立場から、あるいは、スティグマが生じることに批判的な立場からの言及であっても、である。
背景には、当事者の名前が(ときには顔さえも)、違法薬物事件で逮捕された事実と結びついて広まり、(再)記憶されてしまううえに、一度付されてしまったネガティブなイメージを「なかったこと」にはできない、という事情があるだろう。逮捕から刑罰賦課が強く連想され、インターネットやSNSが普及したいまの社会においては、なおさらである。
なお、事件報道の見方については、野田隼人=堀田周吾『事件・裁判報道の「深層」を読む技術』(現代人文社、2026年)が参考になる。
(お)
(2026年02月06日公開)