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第4回山田恵太弁護士に聞く

障がいをもつ人の弁護をめざす

刑確定後の社会復帰も見据えて

アリエ法律事務所にて、2020年3月13日


5 被疑者・被告人とのコミュニケーション

——弁護活動の中では、被疑者・被告人とのコミュニケーションをうまく取らなければやっていけないと思います。まして障がいのある人は、コミュニケーションが難しい傾向があると思うのですが、コミュニケーションを取るときに、心理をやっていたので専門かもしれませんが、日頃、留意していることはありますか。

山田 なるべく本人の話をたくさん聞くようにしています。あとは、人に合わせて対応していくことでしょうか。私は、せっかちなので、自分が被疑者・被告人の立場でしたら、すごく話が長い先生だとつらいと思うんです。逆にそうではない人もいる、長く話をしていてほしい人もいます。それを、初回接見とか2回目ぐらいで見極めることが重要かなと思います。最初に、「今日は、これとこれとこれの話をして1時間で終わらせます」とか、「30分で終わらせます」と、先に言っておいたほうがいい人もいるし、逆に、そう言われるとさみしいという人もいる、機械的すぎるって。人に合わせて、オーダーメイドしていくのがすごく大事なんだろうなと思っています。

 あと、これは効果的だという根拠があるわけではないんですが、私は結構自分自身の話をするようにしています。全然事件に関係ないこと、たとえば「自分は最近これで悩んでいる」とか、本当にどうでもいい話です。「この前、大事な財布をなくしちゃったんですよね」とか、自分のプライベートな話も多少するようにしています。

 私たち弁護士は、その人が思っていることを、否認事件でも情状事件でも、ずけずけ聞かざるを得ない立場にいるし、むしろ、話してほしいわけです。でも、一方的に話してほしいと言っても、なかなか難しい部分もあると思っています。単に「この日、何があったんですか」だけ聞けば用事が済むのであればいいんでしょうが、詳しい心情なども話してほしいとなると、「自分はこうだったんですけど、どうですか」とか、自分の話もしながらコミュニケーションを取っていくことを、心掛けています。たとえば、学校時代にいじめがあった話を聞くなら、実際、私もいじめられたことがあるので、「そのとき、僕はこういうふうに思ったんですよね」とか、ですね。

6 捜査機関との対応に違いはあるか

——否認事件では、警察など捜査機関は闘う相手でしょうけれども、情状事件となると、警察・検察との対応は変わってくると思うのですが、その点で気を付けていることはありますか。

山田 情状事件でも否認事件でも、基本的な対応は全く変わらないです。捜査機関に対して、おもねる必要もない。情状弁護でも、被疑事実や公訴事実は争わなかったとしても、経緯や行為態様が争いになることはあります。全く争わないことのほうが、むしろ少ないと思っています。

 たとえば、犯罪に至る経緯や事情がある事件だったら、本当にそういう経緯があったのかどうかが争いになるし、それが量刑上、どう評価されるべきかの点は、検察官と意見が対立するところが多い。なので、争うべきところは争わなければなりません。

 ただ、一番難しいというか、考えなければいけないのは、被害者がいる事件の場合、被害者にそれが影響してくる点は配慮する必要があると思います。よくあるのは、黙秘していることで示談が成立しにくいみたいな話を聞いたりするのですが、そこは説明を被害者の人に対しても尽くさなければいけません。もしも、被害者から「黙秘しているんでしょう」みたいな話が出てきた場合には、「それは、私がお願いしてやってもらっているんです」という説明をします。

7 情状弁護でも黙秘は基本

——黙秘は、こういう情状弁護でも基本ですか。

山田 否認事件でも情状事件でも、基本的なところは変わらないと思います。捜査段階で頻回に接見に行って、黙秘をきちんとしていただくとか、証拠も同意・不同意を的確に検討するとか、そこは変わらないと思います。

——よく障がいのある人は迎合的だと言われていますが、弁護人より捜査側のほうが接する時間はすごく多いわけだから、どうしても迎合するというか、取り込まれてしまう傾向にあります。それについて、弁護側としてはどういう対処をしますか。

山田 他の弁護士から、障がいのある人の事件に関して、「黙秘、無理ですよね」とか、最初から言われることが多いですね。しかし、私は、むしろ、黙秘の方針をとった事件で、黙秘をちゃんとできたのは、障がいのない人の事件よりも、障がいのある人のほうが多いかもしれません。

 もちろん、すごく感情的に不安定な人とか、知的障がいが結構重い人とかは難しかったこともありますが、できることも多くあります。それは時間をかけて説明して、信頼をどこまで得られるかにかかっています。その信頼関係の築き方は難しいところがあるのですが、本人にとって黙秘はつらいことだと思うので、そのつらいことを、何で私がしてほしいと思っているのかを、かなり丁寧に説明します。そのために、特に障がいのある人の場合は、接見に小まめに行って、励ますことをやっていくことが必要不可欠です。

——障がいのある人のほうが黙秘できるとは、驚きです。

山田 それをやれば、意外とそんなに無理なことではないと思います。もちろん、場面々々に合わせて迎合してしまう人たちですが、警察官に迎合するのは、警察からいろいろ言われて怖いからだし、分からないから、それに迎合してしまうのです。「警察官が言っていることを分かる必要もないですよ」「そこを分かる必要もないから、何も話さなくていいですよ」「警察官や検察官の言っていることが分からないで、分からないことに『うん』と言うと、より分からなくなるから、何も言わないのが一番いいですよ」と丁寧に説明することを心掛けています。

 口で言うだけなら、みんな分かりましたって、私に対しても迎合するので、「ちょっとやってみましょう」と言って、何回もシミュレーションします。練習を何回も何回もやって、一つの型を覚えてもらうと、割とそれで進んでいく人は多いかなという感じがします。障がいのある人の場合は、特にシミュレーションが本当に大事です。

——どういうシミュレーションですか。

山田 たとえば、自分が警察官になりますよと言って、「じゃあ、取調べを始めますね」というところからはじめます。ちょっと雑談をしつつ、事件の話に入っていくような、取調べでよくあるパターンをやってみます。1回だけでは、割と普通にしゃべっちゃうから、「最初から、もう一遍しましょう」と何回もします。

 また、違うバリエーションで来たら、これは話してもいいのかなとなってしまうので、いろいろなバリエーションでやって、これもそうなんだということを覚えてもらうようにしています。

(2020年06月08日公開) 


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