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第4回山田恵太弁護士に聞く

障がいをもつ人の弁護をめざす

刑確定後の社会復帰も見据えて

アリエ法律事務所にて、2020年3月13日


8 障がいを持った人の裁判員裁判

——裁判員裁判で、そういう障がいをもった人の事件をやったことはありますか。

山田 あります。

——その場合、障がいのある人という特性を裁判員に納得してもらうのは、結構大変だと思うのですが、何かその辺で苦労したことはありますか。

山田 裁判員には、障がいと事件がどのように結び付くのかに関して、かなり慎重に言わなければいけないと思います。一方で、障がいのある人にはこういう特性があるんだという点は、割とすんなり受け入れてくれる人のほうが多いかなという印象です。

 それが責任能力というレベルにまでなってくると、これはまたちょっと違う話になると思うのですが、障がいのある人の特性を、専門家に出てきてもらって丁寧に話していただければ、障がい特性の存在自体は納得してくれる人のほうが、むしろ多い感じはします。ただ、もちろん、立証が不十分であると、「単なる甘え」だとかそういった方向に流れてしまう危険性もあります。

——そういう事件を何件ぐらいやっていますか。

山田 裁判員裁判では、障がいがある人の事件は、国選の2人目とかでやることが多いのですが、捜査段階も含めれば、年間10件ぐらいやっていると思います。むしろ、障がいのある人の事件の方が多いかもしれないですね。人から誘われたら、何かしら障がいのある人のものが多いので。

——やっぱり国選が多いですか。

山田 基本的には国選の事件が多いですね。

9 刑事弁護の専門分化に関して

——今、山田さんは、障がいのある人の弁護や、その代理人になることに、割と特化されていると思うのですが、司法制度改革が始まった頃に話題になったことに、弁護士の仕事もこれから刑事事件専門と専門分化していくだろうと言われていました。その点について、どのように考えていますか。

山田 専門分化の点では、現状ではそういう方向に行っていないと思っています。私自身は、民事・刑事問わず、障がいのある依頼者のためにやりたいと思っていますが、周りを見ていると、意外とそうはいかないのかなという感じはします。

 それがお金を生み出す分野であれば、モチベーションが高くなって、その方向に特化していくことはあるでしょう。しかし、刑事弁護もそうだし、障がいのある人の人権に関することは、現状ではお金になる分野ではないので、そうなると、そこにいろんな人たちが入ってきて、さらにそこで専門化していくのは、ちょっと考えづらいなと思っています。

 もう少し弁護士が増えたりすると、専門特化の流れも強くなるのかもしれませんが。

——現状では難しいということですか。

山田 私は刑事事件だけではなくて、全般的に障がいのある人の事件を多くやっています。もちろんそれ以外の事件もやっていますが、何か戻れる分野があるとそこを起点として、仕事の視野が広がります。そういう意味で、専門分化は必要だし、あっていいと思います。弁護士はそういう仕事の広げ方をしていったほうが、今後は楽しいし、充実するのではないかと思ったりします。

——弁護士業界のあり方として、理想としては、町医者的な弁護士、いわゆる町弁が何でもありで相談を受け、より高度の弁護は、大病院の専門医みたいに、専門的な弁護士にまかせるという協働関係がいいのではないかと思っています。

山田 それは本当にいいなと思うけれど、なかなかうまく調和がとれていないようです。専門分化した人同士が組んでやれればいいのですが、そこが難しいですね。弁護士って我も強いし、そういうふうになりづらい生き物だと思います。

——刑事については、刑事弁護の専門家を養成する目的もあって、北パブや東京パブリック法律事務所など公設事務所を作ったと思います。山田さんは北パブの出身ですね。

山田 そうですね。本当に北パブには感謝しています。私がいた時は北パブでも、刑事弁護の中でも、さらに専門分化した人がいてもいいのではないかという発想がありました。だから、私は採用してもらえたと思います。その後、公設事務所も、だんだん経営が厳しくなってきている中で、どちらかというと、普通に稼がなければいけない側面が強くなってきています。刑事弁護をやりたい人は多いのですが、さらにその中で特化していくことは、なかなか困難な状況になってきているんだろうと思います。

——私は、もうちょっと弁護士会が刑事弁護に財政を投入して、専門分化して自立していけるように支援していただけることを期待しています。

山田 そうですね。しかし、弁護士会の財政の厳しさもあり、なかなか難しいのかなとも感じます。公設法律事務所も独立採算で、財政については弁護士会に頼らない形にしていかざるを得ないのではないかという気はしています。

 むしろ、今後、弁護士会は、国選報酬を上げるように働きかける動きをちゃんとしていくことなどで、刑事弁護を守っていくべきなのかなと考えているところです。

10 事件の減少傾向と弁護の実情

——今、仕事としては、刑事と民事の割合はどのくらいですか。

山田 件数的には、刑事は3、4割です。

——3、4割は刑事ですか。それは多いほうですか。

山田 東京の弁護士の中では多いと思います。多分、地方だともうちょっと国選を受けている先生がいますが、東京は弁護士人口が多いことも関係して、国選当番があまり回ってきません。私の場合は、私選と国選の2人目で誘われるものが比較的多いかもしれません。あとは、本当に引き取り手がないような特別案件などです。

——ここ数年、刑事事件が少なくなっていると言われていますが、そういう傾向は感じますか。

山田 統計的な話ではないですが、当番で待機していても来ないことは、増えているような印象があります。

——刑事もそうですが、民事も結構少なくなっていると言われていますが、仕事がなくて、食えなくなってしまうところまできていますか。

山田 刑事は、もともと刑事事件にならない限り、仕事にはなりませんが、民事はもうちょっと広いフィールドがあると思うので、そこはまだまだ需要として落ちているわけではないと感じます。例えば、障がいの分野で考えれば、まだまだ司法アクセスの問題は大きいです。

(2020年06月08日公開) 


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