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第4回山田恵太弁護士に聞く

障がいをもつ人の弁護をめざす

刑確定後の社会復帰も見据えて

アリエ法律事務所にて、2020年3月13日


3 心理学と法学の違い

——大学では心理学を勉強されたそうですが、どうして法律の世界にいかれたんですか。

山田 大学は筑波大学で、その近辺には入所施設といって、障がいのある人たちが暮らしている施設が、その時代は多くありまして、そういう所でアルバイトやボランティアをする機会がありました。

 その中で、「昔、よく分からない書類にサインさせられたんだけど、今思えば、あれは遺産分割だったんだな」みたいな話を耳にすることがありました。また、私が大学生のときに、障害者自立支援法ができました。この法律については評価がいろいろあると思うのですが、制度がだんだん変わっていく中で、どうしてもそれに振り回される障がいのある当事者の方々を目にしました。そのときにフォローできるのは弁護士なんだろうと思ったのが最初で、そこで法律を勉強することにしました。

——心理学の勉強と法律の勉強は、すごく違うと思いますが、どのように頭の転換をされたのでしょうか。

山田 法科大学院には未修者コースで入りました。入学式のあとで、周りの人に、「どの六法を買えばいいですか」と聞くぐらいのレベルだったので、最初は授業に追いついていくのがきつかったという記憶があります。

 心理学は、どちらかというと、自分でどう研究テーマを考えていくかという形で学んできたのですが、法律は覚える作業が多くて違和感をずっともっていました。

 もちろん、そうではない授業はあったのですが、最初はそれがすごくきつかった。頭の転換が全然できなくて、1年ぐらいはずっと「つらいな、つらいな」と思っていました。しかし、幸い司法試験に合格して弁護士になれました。司法制度改革で法科大学院ができなければ、私は絶対弁護士になれなかったので、法科大学院にはたいへん感謝しています。

——それで何とか法科大学院を修了できた。

山田 もともと記憶力がないので、記憶をするのが苦手です。そういった意味で、最後まで短答式試験は苦手なままでした。つらい、つらいと思いながらやっていたので、1回目の試験に落ちたら、もう受験はしないと、正直、そう思っていたぐらいだったんです。しかし、先ほど話したように特別支援学校で働かせていただくことになり、そこで教えて下さった先生が、いろいろな本を紹介してくれたのです。その中に、『自閉症裁判』(佐藤幹夫著、朝日新聞出版)がありました。これは、自閉症と軽度の知的障害のある男性が起こしてしまった殺人事件を追った本なのですが、この男性は障害を抱えながらも支援に繋がることがなく、事件を起こしてしまう。こうやって、追い込まれていく障害のある人がたくさんいるんだろうなと思いました。そのときに、障害のある人の刑事事件をやりたいと強く感じて、弁護士になって自分がやりたいことのイメージが初めて具体化しました。

——その頃は、特に障がいのある人の事件を担当する弁護士はあまり多くなかったのですか。

山田 学んでいた筑波大学は法学を専攻する学生も非常に少なかったので、弁護士の世界ともあまりつながりがなく、弁護士はずっと遠い存在だったんです。私が知っている限り、そういう弁護士は多くいるようには思えなかった。ところが、実際にこの世界に入って感じたことは割とたくさんいるということです。この法律事務所の大谷恭子弁護士のことも、当時は知りませんでした。

4 印象に残った事件

——現在、弁護士になって何年目ですか。

山田 気付いたら、8年目ですね。あっという間でした。

——その中で、刑事事件で印象に残った事件はありますか。

山田 いろいろあるのですが、やっぱり障がいのある人の事件ですかね。支援中のケースも多くて、詳しい内容は、どうしてもここでお話することは難しいです。ただ、あるケースを念頭に簡単にお話をすると、同じ犯罪を繰り返してしまっている知的障害・発達障害のある人がいらっしゃいました。私が本当にまだ弁護士1年目くらいで受任させてもらった事件です。

——可能な範囲で事件についてお話いただけませんか。

山田 事件のことについて話を伺っていくと、ただ「やりました」「刑務所にいくのは仕方ないです」しか出てこないんです。しかし、1から今までの生活を伺っていくと、学校でいじめられたり、家庭でもつらい思いをしていたり、そして近所でも爪弾きにされていたり、そういうエピソードがすごくたくさん出てくるんですね。そして、その1つひとつのエピソードが非常に克明なものだった。ご本人にとっては、そこがとても大きなものとして残っていて、それが最終的には事件へと結びついているのではないかと感じました。

 これは他の障がいのある人の事件でも一緒なのですが、こういう被虐体験のある人が非常に多い、というかほとんどの方がそうかもしれません。

 それで、そのケースの話に戻すと、ご本人は刑務所に行くのを嫌なことだと思っていなかったんです。ご本人としては、この社会にいると、いじめられたり嫌なことをされたりする。それよりも、刑務所の方が、監視している人もいて、いじめられたりすることもない。そう仰っているのを聞いて、なるほどそれはそうだなと納得してしまうと同時に、ご本人にとっては、それほどまでに、この社会で生きることはつらいことなんだと非常に悲しくなりました。障がいやその他の理由によって、社会から排除されることは、今も本当に多い。結局その排除が、犯罪を生み出している側面があるのではないかと思いました。

(2020年06月08日公開) 


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