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第4回山田恵太弁護士に聞く

障がいをもつ人の弁護をめざす

刑確定後の社会復帰も見据えて

アリエ法律事務所にて、2020年3月13日

アリエ法律事務所にて

1 『情状弁護アドバンス』の出版

——昨(2019)年、『情状弁護アドバンス』を編集・出版されましたが、はじめに、この出版の経緯についてお話ししていただければありがたいです。

山田 この企画は、指宿信先生が主催している「治療的司法研究会」で知り合った菅原直美弁護士が発案し、現代人文社で進めていました。

 その当時、私は北千住パブリック法律事務所(以下、北パブ)に所属していたのですが、周りにいる刑事事件に積極的に取り組んでいる人たちの間でも、国選事件の配点を受けたときに、「否認事件をやりたかったのに、配点されたのが認め事件で、残念」「認め事件だから、接見はこんなもんでいいよね」という話をよく耳にしました。それを聞くにつけ、それでいいのかと疑問をもつことがしばしばありました。

 私たちが出会う多くの事件は、被疑事実・公訴事実に争いのない情状事件です。情状事件は、その成果が「無罪」など分かりやすいものではなく、地味と思われるかもしれませんが、被疑者・被告人にとっては、人生そのものです。その人が事件に至ってしまった経緯や背景、そして、今後の生活について一緒に考え、想像しなければ、十分な弁護活動はできません。しかし、情状弁護の内容が多彩だったり、ゴールが見えづらいから、あまり面白くないと思ったり、もういいかなとあきらめたりする人も多いようです。

 最初は、初心者向けのマニュアルとして企画・編集をしていきました。しかし、それでは情状弁護の醍醐味や、無限の広がりがあることを認識できず、面白みがなくなるのではないか。そのように編集会議で意見が一致したので、それぞれ弁護士が実際におこなった弁護活動を集めて、それぞれのアイデアや体験を共有する形で編集することに変更しました。5年以上もかかってようやく昨年10月にできました。

——情状弁護とは一口にいって、どんなことをするんですか。

山田 情状弁護は、ざっくり説明すると、罪を犯したことは間違いないという人を弁護することです。例えば、裁判の段階であれば、起訴されている事実(公訴事実)については争いがない事件について、被告人にとってどんな量刑がふさわしいのかを弁護活動として主張していくことになります。現在では、先ほど言った事件の経緯や背景を被告人とともに考え、法廷に出していくだけでなく、被告人の社会復帰などを見据えて、彼らの生活設計なども視野に入れた弁護実践が要求されています。

2 刑事弁護を志した理由

——刑事弁護というと否認事件が花形で、弁護士になったら誰でもそれをやりたい、そして1回でも無罪を取りたいというのが、刑事弁護を志す人の夢みたいなものとしてあります。山田さんは、情状弁護に関心を持ったのは、どういういきさつですか。

山田 もともと刑事弁護をやりたいということで弁護士を目指していたわけではなく、私は大学では心理学を専攻していて、もともと障がいがある人の心理に興味があって勉強をしていたんです。

——最初から刑事弁護をやりたかったということではなかったんですね。

山田 司法試験受験が終わったタイミングで、ちょうど声がかかったので、特別支援学校という障がいのある子どもたちが通っている学校で臨時教諭を、短い期間ですが、やっていました。

 そのときに、特別支援学校の卒業生が、刑事事件を起こしてしまったというできごとがたまたまあったんです。本来は当たり前のことではあるのですが、そこで初めて、障がいのある人が刑事事件の被疑者・被告人となることがあるんだということに気付きました。そして、警察署に逮捕された段階で、最初に会えるのは弁護士だけになります。そこにも障害のある人がたくさんいるのだと、そこで支援することができるのではないかと考え、刑事弁護をやりたいと思うようになりました。障がいのある人が冤罪(えんざい)に巻き込まれることも多いと思いますが、それだけではなく、実際に犯罪をやってしまったときに、彼らに対して、何か支援ができることはないかを考えていました。

(2020年06月08日公開) 


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