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第6回山本了宣弁護士に聞く

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5 一番印象に残った刑事事件

――今まで受任した刑事事件で印象に残った事件は何ですか。

山本  印象深い事件は、いろいろあります。1年目、2年目ぐらいで言えば、一所懸命争った事件が確か3つありました。

 1つは、裁判員裁判で強制わいせつ致傷の事件です。
 関係者に30人以上会ったりとか、いろいろ調べて証人をたくさん請求するというような活動をしました。これは、季刊刑事弁護新人賞(季刊刑事弁護69号〔2012年〕5頁以下にそのレポートがある)で最優秀賞をとった事件です。そのレポートにも書きましたが、証拠のコアになる部分を何とかしなければいけないのが刑事事件というか、否認事件です。周りからつっつくみたいな中途半端な感じになっていたのが一審でしたが、高裁段階で一番大事なところをきちんと調べ直しました。

 当時、証拠の読み方もなっていなかったのでしょう。今の自分だったら絶対すぐに気付くようなものが、検討から漏れていました。とにかくそれを高裁で何とかしてやり直して、一部無罪になりました。裁判員裁判の有罪判決のが破棄されて一部でも無罪になったのは、この事件が史上初でした。

 その時期に、いろいろ見に行ったり、調べたり、話を聞いたりして頑張った事件があと2件ありました。1件は共犯者証言が反対尋問で完全につぶれて無罪になりました。

 ほかに、車椅子放火事件がありますね。この事件もだいぶ頑張りました。現場の病院に何回も行きましたし、反対尋問も非常に成功しました。
 この事件ではクオリティの高い弁論ができたと思います。私は5年目ぐらいまでは弁論に非常に関心があったので、相当研究していました。この事件の弁論については、季刊刑事弁護77号に、レポート(「無罪弁論が形をなすまで」)を書きました。あと、反対尋問の研究成果として、浦功先生編の『新時代の刑事弁護』に「反対尋問」という論文を書いています。
 近年では、先程紹介した2018年の姫路の裁判員裁判ですね。

6 刑事弁護で苦労する点

―― 刑事弁護で苦労する点はどこでしょうか。特に被疑者・被告人とのコミュニケーションが重要と思われますが、どんなことに気を付けていますか。

山本 それなりに意思疎通ができる人であれば、ごまかさずにきちんと正確に情報を伝えるということですね。
 例えば「量刑はどうなりそうか」と聞かれたら、これまで体験した事例を紹介したり、判例の1個でも2個でも持ってくるということです。実例があれば、それは立派な根拠です。そういうことを本人に示すのは、誠意とか真摯さの問題でもあります。
 何にせよ、根拠や事実を示して、分かりやすくきちんと言うことです。それがスタート地点ですが、同時に、それができたら多くの人は納得します。

―― 相手に事実を示して正確な情報を伝えることのほかには何かありますか。

山本 あとは、ちゃんと相手の話を聞くことです。本人が言いたいことを一段落するまでは全部聞いてあげるのが基本です。話の途中で無理に遮って、「そうじゃなくて」と言うのは、いいやり方ではありません。

―― そういうことは、どんなところで学びましたか。

山本 まずは相手の反応をよく見ることが第一ではないでしょうか。「これは納得していない」とか、「これは納得してもらえた」とか、相手の顔をよく見ていれば相当分かります。そういうフィードバックなり試行錯誤を積み重ねると改善します。ほかの弁護人が話しているのを見て、「これはよい」「これはよくない」というのも学びになります。そこはもう習慣として常に考えているので、それで改善してきたと思います。

7 黙秘権の理解

―― もう一点は黙秘権についてですが、一般の人は、やっていないなら正直に話すほうがいいと考える人が多いので、黙秘権について理解が難しいと思います。もし黙秘権について聞かれたら、どんなふうに答えますか。

山本 黙秘権が論理必然に出てくるもののように言うと、おそらくわかりにくくなるのではないでしょうか。
 もし供述義務があったらと考えてみると、そこからマイナスが生じるのは確かです。話をしないと何か制裁が課されるとか、極端な場合は拷問ができるかもしれません。偶然が重なったときなど、「真実を話したら逆に疑われそうだ」なんてことはあると思いますが、それも常にその通り言わないといけないのか。5年前のことで記憶がはっきりしない上に何の資料も見せてもらえない状態でも、とにかく説明しないといけないのか。そして説明しなかったら何かの義務違反になって、不利に取り扱われるのか。

 少なくとも日本の刑事手続では、本人がかつて何を言ったかに非常に細かく関心を持たれますので、間違いや不自然が積み重なれば、すぐに「信用できない」→「やっている」という風に流れていくでしょうね。「やっていないなら正直に話すほうがいい」というほど問題が簡単でないことは確かで、弁護士の実務感覚として言えば、黙秘によってえん罪が防げる場面は確実に存在しています。

(2021年09月17日公開) 

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