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執筆者:村岡美奈 監修者:藤田正隆

【第2回】勾留理由開示公判って、私でもできるかな?


普段は各地の法律事務所で刑事弁護活動にまい進する弁護士らが、全国の被疑者、被疑者家族、新人弁護士らなどの、SOSにこたえて、いまさら恥ずかしくて聞けない素朴な刑事弁護の質問に答えていきます。

●うちに帰りたい

被疑者「わたしベトナム人のドーンといいます。私選弁護人を頼むお金の余裕はないのですけど、なんでも質問に答えてくれる弁護士がいると聞いたので、連絡しました。わたし、早くうちに帰りたいので、どんな方法があるか、教えてください」

弁護人「ドーンさん、はじめまして。ご家族は」

被疑者「奥さんが日本人で、一緒にベトナム料理店をやっています。子どもは1人、小学3年生。奥さんは経営で、私が料理だから、私がいないと料理が出せないよ」

弁護人「それは困ったね。逮捕されたのは、どういった事実ですか」

被疑者「ベトナムから日本に来た友人に、国にお金を送るのに必要だというので、銀行通帳を貸しました。それで詐欺と言われています。私は誰もだましてないのに」

弁護人「なるほど、わかりました。いまは、ドーンさんは逮捕された事実を認めていないのですね」

被疑者「そうです」

弁護人「事実を認めない場合には、認めるまで、うちに帰らせてもらえないことがありますよ」

被疑者「だって本当にだましてないから」

弁護人「ところで、ドーンさんは、いま逮捕されて何日目かな」

被疑者「おととい逮捕されて、昨日、検察庁と裁判所に行ってきました」

弁護人「すると、今日で勾留2日目ですね。当番弁護士は呼びましたか」

被疑者「さっき、被疑者ノートを持って来てくれた。国選でお願いしようと思っています。その弁護士からは、10日間は、裁判所が決めたから、うちに帰れないと言われました。絶対に帰れませんか」

弁護人「いいえ、裁判所から勾留決定されても、勾留に対する準抗告申立てや、勾留取消請求という制度があって、これが認められれば、帰れます」

被疑者「それは、保釈と同じですか」

弁護人「保釈は、起訴された後に、保釈金というお金を裁判所に納付して、うちに帰らせてもらうものです。ドーンさんはまだ起訴されていないから保釈請求はできませんね」

●勾留理由開示公判って何?

被疑者「同じ部屋のフランス人が、勾留理由開示公判というのをしたと聞きました。それは何ですか」

弁護士「その人の勾留決定をした裁判官に対して、『なぜ、私は勾留されるのですか?』ということを公開の法廷で質問して、答えてもらう手続です」

被疑者「私を勾留する決定は、誰がしているのですか」

弁護士「昨日裁判所で、あなたが会った裁判官です。あなたを勾留する必要があるかどうか、その裁判官が判断しています。それが勾留質問という手続です」

被疑者「勾留質問では、1分くらいしか話していないけど、あれで何が分かるのですか」

弁護士「話をしたのは1分でも、警察官の用意した証拠に基づいて、検察官が勾留請求をしているので、よっぽどのことがない限り、裁判官は勾留することを認めているようですね」

被疑者「一方的な警察の言い分だけを信用しているのですか」

弁護士「多くの場合はそうです。裁判官の中には、『勾留決定に文句があるなら、準抗告すればいい』という考えで、基本的には検察官の勾留請求に対し、自動的に勾留を決定しているという話を聞いたこともあります」

被疑者「じゃあ、勾留質問の意味がないね」

弁護士「そのとおりです。勾留質問を意味のある手続にするためにも、そして勾留の要否を慎重に検討する裁判官が増えてくれるためにも、勾留の理由を法廷で開示してもらう勾留理由開示公判は、もっと活用されるべきなんですけどね」

被疑者「私でもできますか」

弁護士「勾留されている人ならだれでもできます。実際は、弁護人に頼んでやってもらいましょう」

被疑者「当番弁護士に勾留理由開示公判のことを聞いてみたけど、やったことがないからよく分からないと言ってました。あなたはやったことありますか」

弁護士「もちろんあります。積極的にやる弁護士もいるけど、実際には、めったに行われませんね」

被疑者「それはなぜですか」

弁護士「勾留理由開示公判をやることによって、劇的な効果がないからでしょうね」

被疑者「勾留の理由を教えてもらうだけだからですか」

弁護士「形式的には、そうです。ただ、手続は公開法廷で行われるので、弁護人としか会えない接見等禁止決定が付けられている場合に、勾留理由開示公判に傍聴に来てもらえば、家族や彼女の顔を見ることが出来るから、そのためにすることもあります。けど、手錠・腰縄付きで法廷に連れて行かれるので、このこと自体も大きな問題ですが、そんな姿を家族や、知らない傍聴人にもみられるのは嫌だなあということで、勾留理由開示の請求自体をあきらめる人もいます」

被疑者「知らない傍聴人は、きますか」

弁護士「勾留理由開示公判は、珍しいので、来ることもありますよ。有名な人だと、マスコミの人も来るでしょう。逮捕された本人のコメントが、直接に公になるチャンスですからね」

被疑者「私も、どうして10日間も勾留されるのか、知りたいです。どんな証拠があるかなど、裁判官は答えてくれますか」

弁護士「裁判官により、いろいろですね。たいていの裁判官は、つっけんどんな感じで、勾留の理由は、勾留状に記載のとおりですなどと、中身のない形式的な説明で事務的に終わらせます。勾留状の勾留理由なんて、住所不定、逃亡、証拠隠滅など、形式的なことしか書いていないので、それだけでは勾留される実質的な理由が分かりにくいですよね」

被疑者「私は住所もあるし、店があるから逃げないし、証拠隠滅もしないよ」

弁護士「それでも、証拠隠滅の可能性がある、ということを裁判官は気にするみたいです。私の経験では、裁判官のなかにも、あなたには、防犯カメラの写真もあるし、共犯のこういう供述もあるから、私は勾留決定したんですよなどと、はっきり時間をかけて、具体的に答えてくれる裁判官もいます」

被疑者「私から裁判官に、意見を言うこともできますか」

弁護士「できます。たいてい10分程度にまとめて話すようにと、裁判官から時間制限されますけど、せっかくの機会なので、裁判官に止められるまで、たくさんしゃべったらいいでしょう」

被疑者「フランス人は、勾留理由開示公判の時は、警察での取調べをうけなくてよかったし、傍聴席の柵越しだけど奥さんと法廷でキスもできたからよかったと、言っていました」

弁護士「裁判所は、弁護人からの公判請求から5日以内に期日を決めないといけないので、取調べで刑事がしつこく同じことばかり聞いて、取調べを休みたくなったら、勾留理由開示公判請求をするのもいいでしょう。しつこい取調べから解放されます。キスは、必ずできるとは限らないけど」

●勾留理由開示公判請求をすると、不利になるの?

被疑者「勾留理由開示公判をしたことは、今後のことに影響しますか」

弁護士「勾留理由開示公判の請求は憲法に基づく権利ですから、それで不利益を受けることはありません。裁判官が勾留理由について具体的な説明をした場合には、弁護人がこれを使って、勾留取消しや勾留決定や勾留延長決定への準抗告の書面を作ったりする材料になりますし、公判廷で被疑者が述べたことを、裁判になってから、弁護人が使うこともあります」

被疑者「逮捕、勾留されているときの私たちの言い分について、公の記録に残してもらうことにもなるんですね」

弁護士「そのとおりです。逮捕、勾留されているときから、一貫した話をしています、といった証拠になります」

被疑者「刑事さんに、取調べで、いじわるされたことなんかも勾留理由開示公判で言ってもいいのですか」

弁護士「いいですよ。ドーンさん、いじわるされているんですか」

被疑者「刑事さんから、このまま認めないと、奥さんも逮捕するとか、子どもの学校に行って子どもにも話を聞かないといけないとか言われた。そんなことになれば、子どもは悲しいし、学校でいじめられる、お父さんとして失格だ、とも言われました」

弁護士「それはいじわるじゃなくて明らかに脅迫ですね、ほかには」

被疑者「認めたら、すぐにうちに帰してあげるとも言われました」

弁護士「それは、利益誘導です。いずれも違法な取調べに当たるので、きちんと被疑者ノートに書いて、国選弁護人がきたら、ちゃんと伝えて、抗議してもらうように。警察官の人権意識向上のためにも、遠慮しないで、どんどん言わないとね」

被疑者「そう!わたしドーンさんだからね(笑)」

【追悼】
 この原稿を書いているときに、恩師の若松芳也先生(京都弁護士会)の訃報に接した(2月2日逝去、享年80歳)。ご冥福をお祈りいたします。
 最後に会ったのは確か1年半前で、京都の鴨川沿いでランチをした。ビールを飲もうと誘われて、私もグラスビールを飲んだ。若松先生はビールもランチの弁当も半分以上残して、自分が残した弁当を私に持って帰りなさいと言っていた。昔、私がイソ弁だった時にも、ご自分が食べきれない天ぷらなど、食べなさいと言って押し付けられたことが懐かしい。
 若松先生は、刑事弁護とくに接見交通権の分野で、多くの挑戦と進歩のための闘いを続けてきた。先生がやり残した仕事は、私が食べきれるところまで、食べつくさないといけないと、決意を新たにした。

久しぶりに会った若松芳也先生(左)と一緒に撮った写真(京都鴨川沿いの食事処の玄関前で。写真提供:村岡美奈)
久しぶりに会った若松芳也先生(左)と一緒に撮った写真(京都鴨川沿いの食事処の玄関前で、2017年10月14日。写真提供:村岡美奈)

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