「なぜ悪い人を弁護するんだ」
坂根さんは、刑事弁護に特化した法律事務所を創設しました。どんな方か興味津津でやってきました。そこで、日頃、刑事弁護や弁護士について疑問に思っていることをお聞きしたいと思います。一般の人から「こんなに悪いことをした人を、何で弁護するんだ」と聞かれたら、どうお答えしますか。
ある人が悪いことをした、あるいはそれを疑われている場合、社会がみんなしてその人を責めることになります。そうすると、多数が少数を責める構造にどうしてもなってしまいます。まして、警察つまり国家権力は早く犯人を逮捕して治安を維持したいという欲求が高いですから、そういう傾向に陥りがちです。
「悪いことをしたんだから、少しぐらい不利益を被ってもいいじゃないか」というのが一般の人の素朴な感情です。そこに、冤罪(えんざい)が生まれる素地があります。あるいは、やったこと以上の責任をその人が問われることになってしまいます。それを防ぐ役割の一翼を担っているのが弁護人です。
刑事弁護の道へのきっかけ
刑事弁護をやろうと思ったきっかけには、何かあったのですか。
私にとっては刑事弁護は天職すぎて、最初にどういうふうに目指したのかも忘れました。1980年代に免田事件など死刑再審4事件という著名な冤罪事件があって、それを学生時代に知ったときにとても大きな衝撃を受けたのが、最初のきっかけだったように記憶しています。
学生のときに、何か活動をされていたのですか。
特に、何かをしていたわけではないのですが、弁護士を目指して、勉強中にそういう本を読んではいました。
では、最初に弁護士になろうと思ったのは、法学部に入学されたからでしょうか。
弁護士になろうと思ったきっかけが何だったのか。今でははっきり覚えていないのですが、みんなから責められている人を助けるために頑張るのが何となく格好いい。そんな漠然としたイメージはありました。
小学生や中学生の頃の弁護士のイメージは刑事事件で、民事事件は念頭にありませんでした。今でこそ、いろいろな民事事件を取り扱う弁護士のドラマなどがありますが、当時、ドラマや映画、本になるテーマは大体刑事事件でしたから、「弁護士」イコール「刑事事件」というイメージはありましたね。
確かに、外国の映画やテレビドラマでもほとんど刑事事件の弁護士というイメージはありますね。日本でも本格的なものは──「99.9─刑事専門弁護士─」(TBS、2016年)がやっと出てきました。
刑事弁護の素晴しい点
刑事弁護のどんな点が素晴らしいですか。
簡単に言うと、常に弱者の立場に立てることです。被疑者・被告人になる人というのは、総理大臣でも、億万長者でも、あるいはホームレスであっても、要するにどんな立場の人でも、被疑者・被告人という立場に置かれたら、権力を敵に回して、あるいは市民を敵に回して圧倒的に弱い立場になります。刑事弁護で携わる依頼者は、絶対に弱い立場に立っています。だから、必ず弱い者の味方になれる。そういうことです。
「弱い人の味方になろう」みたいな原体験って、あるんですか。
それはどうですかね。物心ついたら、こういう価値観だったとしか言いようがないですね。刑事弁護人は「みんながそっち向くなら、俺、そっち行かない」みたいな天の邪鬼な性格の人が多くて、多数派におもねるのを良しとしない価値観、感覚の持ち主が比較的多いです。
弱者の人の味方とか、すごく格好いいですね。坂根先生は根っからの刑事弁護人というイメージになりました。まさに天職なんですね。
そう思います。
そういう仕事に出会えていいですね。
それだけは幸運でした。この仕事に就いてよかったと思うのは、刑事弁護人には、自分の私利私欲のためではなく、弱い立場の人のために一所懸命働いている人たちが非常に多いことです。本当に尊敬できる、素晴らしい人たちがいるので、そういう人たちとの出会いが、とても大きな財産だと思います。続けられる要因の一つかもしれません。
先ほど「天職だ」と言われましたが、ご自身にとって、どんな点が天職だと思われますか。
弱者の側に立って、強大な力と闘うことですかね。また、先ほど言ったように「悪い人」のために闘うには、自分の中に意義を見いださないとなかなか続けられません。マスコミや市民からバッシングを受けたり、あるいは被害者からすれば、悪いやつを弁護しているからどうしても加害者と一体に見られるわけで、きつい言葉をかけられたりすることもあります。
そういうきついことを法廷で言われたりすること、結構ありますか。
被害者も冷静な人が多いので、多くはないですけど、事件によってはあります。