漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第3回 久保有希子弁護士に聞く(3)

常に謙虚であり続ける

どんな話でも決めつけず、受け止める


刑事弁護への転進のきっかけ

 企業法務の弁護士事務所から刑事事件に進んだきっかけは、何ですか。

 最初にいた事務所も刑事事件は自由にやることができました。その中で、たまたま留学する先輩弁護士から「国選の事件の判決日だけ出られないから、代わってほしい」と頼まれ、国選弁護人として代わりました。

 細かい話ですが、もともと差し戻し後の控訴審で、無罪方向で差し戻されていたので、無罪の可能性がそれなりに高い事件でした。

 責任能力が問題になった事件でしたが、先輩から「判決は無罪判決を聞くだけだから」と引き継いだのに、有罪判決で負けてしまって……。

 それは強烈な体験ですね。ショックでしたか。

 判決直前に引き継いだこともあって、その時点では強い思い入れがあったわけではありませんが、とても難しい事件でした。

 重要な先例になり得る事件でもあったので、当然上告するわけですが、弁護士になって1年目か2年目ぐらいの私が、そういう複雑な事件の上告審を一人でやるのは危険だと思いました。

 そこで当時、刑事事件をよくやっている仲の良い同期の弁護士に、誰かいい人がいないか相談しました。上告審で私が継続して弁護人になれるようにした上で、2人目の国選弁護人になってくれる人を探したい。そう頼んで紹介されたのが、今の事務所の坂根(真也〔弁護士〕)なんです。

 それが、坂根先生との出会いですか。

 坂根に会ったのも、そのときが初めてでした。これがきっかけとなって、その事件を一緒にやることになりました。

 さらに裁判員裁判が始まって、私が坂根に頼んだり、逆に坂根から頼まれたりということを何回か繰り返すようになって、刑事事件の比重が私の中で増えました。やっぱり楽しいなと。

 進路としては企業法務のほうに行きましたが、坂根と一緒に事件をやるようになって、刑事事件とか個人の事件を中心にする方が自分に合っているかもしれないと思うようになり、独立することにしました。きっかけは何かというと、主に坂根ですね。

 そうなんですね。じゃあ、坂根先生と出会わなかったら……。

(2021年07月05日公開) 

インタビュイープロフィール
久保有希子

(くぼ・ゆきこ)


2007年弁護士登録。日弁連刑事弁護センター事務局次長。共著書として、日弁連裁判員本部編『裁判員裁判の量刑』(現代人文社、2012年)、『刑事弁護ビギナーズver.2.1』(現代人文社、2014年)、日弁連刑事弁護センター編『裁判員裁判の量刑Ⅱ』(現代人文社、2017年)、科学的証拠に関する刑事弁護研究会編『刑事弁護人のための科学的証拠入門』(現代人文社、2018年)など。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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