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漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第4回 髙橋宗吾弁護士に聞く(1)

先輩から受け継ぎ、若手が変えていく刑事弁護

地域や世代の差を無くし、いろいろな人を巻き込む


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尋問でのマスク着用問題

 コロナ渦になって、裁判長からマスク着用での尋問をするように言われ、被告人や証人の口元の動きが見えなくなっています。表情全体の把握がとても難しいので、マスクを外して尋問するようにという要求があるようですが、マスクは尋問にとって障害になりますか。

 障害にはなると思います。証人や被告人がマスクをしてしまうと、その人から本来得られるはずの視覚情報が大きく失われます。口の動きとか、表情とか。そうなると、裁判官や裁判員は、その証人の証言が信用できるかを、ほぼ言語情報だけで判断しなければならなくなります。

 一方、尋問をする私たちにとっても、大きな弊害です。私たちは、証人の表情や仕草を見ながら、どういう言葉づかいで質問するか、どこまで強く踏み込むかを考えます。その際に、マスクで顔の大部分が隠れているというのは、非常にやりにくいと言わざるを得ません。

 感染防止の観点から、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。

 今、また状況が変わりつつありますが……。マスクの代わりにマウスガードを装着して対処したりしている弁護人が多くいます。

 昨年の感染状況がやや落ち着いていた時期には、私たちが証言台の前に立って弁論などをするときに、アクリル板を設置して、その後ろでマスクをせずに弁論をすることもありました。

 被告人に対しては、裁判所がフェイスシールドやマウスガードを用意して貸与してくれたこともありました。

 他の地域では、証言台の周りをコの字型にアクリル板で囲って、証人や被告人にマスクを外して証言してもらったという事例も耳にしました。法廷の換気や、提出書面の手渡しも極力避けるといった対策もとられています。

 刑事裁判は1人の人の人生に大きな影響を与えうる場です。感染対策を重視しつつも、刑事裁判の本質的な機能が損なわれないことを第一に考えるべきだと思っています。

はじめから刑事弁護でいく

 髙橋先生は、現在32歳ということですが、最初から刑事弁護でいこうという感じでしたか。

 私は、もともと刑事弁護をやりたくて弁護士を選んでいるので、最初の頃からやっています。事務所に刑事弁護のチームがあり、1年目から比較的多くの事件に取り組むことができました。もう6年目になりました。

 6年目なんですね。きっかけは何だったんですか。

 最初はたぶん高校生の頃、漠然と「弁護士=刑事弁護人」というイメージを持っていたんです。弁護士というのは、そもそも「刑事裁判で悪い人の弁護をする人」という職業だと勝手に理解していました。なんとなく、社会の中で弱い立場にある人の助けになれる仕事に憧れの気持ちがありました。

 ただ、そのときはすごく曖昧で、その後に早稲田大学のロースクールに進学し、「弁護士といってもいろいろあるんだ」「裁判官とか検察官という道もあるんだ」ということを知りました。そういう中で出会った先生の一人が高野隆先生でした。自分からお願いをして、高野先生の事務所でインターンをすることになりました。

 当時、高野事務所にいた趙誠峰(チョウ・セイホウ)弁護士にずっとくっついてインターンすることになったのですが、とにかく楽しかったです。刺激的だったし、すごく大きな事件も扱っているのに、前向きに戦っているような感じがして、裁判所の実務を自分たちが変えていくという雰囲気をすごく強く感じていました。

 「僕がやりたかった弁護士の仕事は、これで間違いない。このまま、この人たちを追いかけて仕事をしたら、きっと楽しいだろうな」と思って、そこからは一直線でした。

 僕が京都で司法修習をしている間に趙さんが高野事務所から独立し、新しい事務所をつくられました。それが今、私がいる早稲田リーガルコモンズ法律事務所です。

 私は趙さんを追いかけてその事務所に入り、最初から刑事事件を一つの柱として活動する弁護士になるという気持ちでいました。

 そうなんですね。最初はインターンで行ったということでしたが、ご自身にとってどのあたりが楽しかったのでしょうか。

 裁判所とか依頼者の所とかをあちこち動き回って、自分の足でいろいろな証拠や資料を集めたり、とにかく自由に動いているスタイルが魅力的でした。もちろん、法廷での活動には圧倒されました。法廷での弁護士の一言で、裁判の結果が変わっていくことを目の当たりにした気持ちでした。

 あとは、そのとき、医師が業務上過失致死で裁判になっている事件に高野先生たちが熱心に取り組んでいて、その事件に関係する医学知識について、下手したら専門家より詳しくなっているのではないか。それぐらい研究していることにも驚きました。

 身体の構造や動脈の流れ、手術の技法に関する歴史に至るまで、細かなことまですごく深く掘り下げたうえで、証人尋問などの準備をしていました。

 その裁判のときだけかもしれないですが、医療の事件をやるときは医療の専門家になる、交通事故の事件をやるときは交通の専門家になるみたいに、事件に応じて、いろいろな知識を吸収できるということも、とても刺激的でした。

 その医師の事件というのは、具体的にどういった事件ですか。

 手術のときに起きた医療事故でした。手術の方法にはいくつかの流派・技法があって、その医師も、その部位の手術で成果をあげていました。

 ただ、日本ではあまり他の医師がやっていなかったような方法で、医学界全体の中では必ずしも承認されていたわけではないという風潮もありました。その方法で手術をした結果、動脈が傷付いて死に至ったという事件でした。

 もちろん、その先生はこのやり方でずっと手術をして、成果もあげていたので、自分はその道の第一人者であり、その技法を選択したことに「過失はない」と主張、無罪を争っていた事件でした。

 大勢の医師が証人で出てきたり、医学の専門書がたくさん証拠請求されていたりと、その記録を読むだけで何日もかかるような重い事件でした。

 それをそばで見ていて、「ここまでやるんだ」みたいな。

 そうですね。弁護士という仕事は「法律が専門」というイメージがあると思いますが、そうではなくて、刑事弁護という仕事を通じて、自分がこれまでに接したことのないさまざまな世界にも入っていける気がしたのが、大きかったですね。

(2021年08月23日公開) 

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インタビュイープロフィール
髙橋宗吾

(たかはし・そうご)


1989年、埼玉県生まれ。早稲田リーガルコモンズ法律事務所京都オフィス代表。K-Ben Next Gen運営メンバー。日弁連刑事弁護センター事務局次長。京都弁護士会刑事委員会委員。共著書として、『量刑弁護アドバンス』(現代人文社、2019年)など。刑事事件の他、中小企業の顧問業務・寺院法務・エンタメ法務にも取り組む。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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