漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第4回 髙橋宗吾弁護士に聞く(3)

先輩から受け継ぎ、若手が変えていく刑事弁護

地域や世代の差を無くし、いろいろな人を巻き込む


心が動いた瞬間

 今まで刑事弁護をやっていて、一番心が動いた瞬間はいつですか。

 やっぱり無罪を主張している事件で、判決の瞬間が一番気持ちが揺れますね。不合理だと思う判断が出たときのマイナス感情の振れもそうだし、無罪の判決をその場で聞いたときの、よかったという気持ちの振れ幅もそうです。

 やはり、どこまで行っても裁判所の判断によって結果が出る仕事なので、その判断の内容は常に意識します。依頼者ともコミュニケーションがうまく取れて、尋問も滞りなくでき、満足してくれて、弁論のあとには「きちんと代弁してくれてよかった」と依頼者が言ってくれるような事件でも、こちらの主張が通らなければ、やはり自分の中では「うーん」ということになります。

 やっぱり大きいんですね。

 とても大きくて、すごく緊張します。弁論の前より判決の前のほうが緊張する事件もあります。本当に夢に出てくるとか。

 聞いているだけでこちらも緊張してきます。

 特に、これは無罪になるんじゃないかと思うと、それこそ気になってしょうがないこともあります。否認事件でのすべての活動はその判決を聞くためにやってきているので、その最後のところなんだから、当然ですけどね。

 これは大丈夫だろうみたいなことはないんですか。

 「どう理屈を立てても、これで有罪判決は絶対に書けないはず」と思っていた事件でいくつも負けているので、わからないなと思います。実際に無罪になった事件も含めて、「これは大丈夫だ」と安心して判決の日を迎えられた事件はありません。

 永遠に読めないみたいな。

 そうですね。

刑事弁護人に適する資質とは

 適性とか、資質とか、何でもいいんですけど、刑事弁護をやる上で、あったほうがいい能力みたいなものはありますか。

 ある程度、集中できる力というか、没頭できる時間を持てることでしょうか。坂根先生みたいに一生没頭しなくても、この証拠を読むといったときに、ある程度長い時間そこに集中して没頭できるのは大事ではないかと思います。

 穴の空くほどということもありますが、じっと見ていたり、あるいは、バラバラと記録の同じようなところを何回も読んでいると、ふっとアイデアが浮かぶことがあります。だから、きちんと時間をかけないといけないなと。それは、自分の反省も兼ねてですけど、思うことは多いですね。

 具体的にどういうことですか。「あっ! これって、尋問で使える」みたいな感じでしょうか。

 そんな感じです。言葉で説明するのは難しいのですが、証拠を見ているときに、事件の映像を頭で頑張って作ります。依頼者の説明もそうだし、共犯者や相手方の調書があるなら、その調書を映像に起こすように何とか自分の中で頑張ります。

 その中で人を動かしていくと、

(2021年09月06日公開) 

インタビュイープロフィール
髙橋宗吾

(たかはし・そうご)


1989年、埼玉県生まれ。早稲田リーガルコモンズ法律事務所京都オフィス代表。K-Ben Next Gen運営メンバー。日弁連刑事弁護センター事務局次長。京都弁護士会刑事委員会委員。共著書として、『情状弁護アドバンス』(現代人文社、2019年)など。刑事事件の他、中小企業の顧問業務・寺院法務・エンタメ法務にも取り組む。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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