漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第5回 石野百合子弁護士に聞く(4)

「法律家の枠をこえる」弁護士の仕事

非行を犯した少年が、自分と向き合えるように寄り添う


漫画家になった理由(わけ)

 浅見さんは、なんで漫画家になられたんですか。

 それしかなかったんですよ。就活はしたんですけど全部落ちて、たぶん会社という組織にはいられないんじゃないかって思ったんです。

 最初は少女漫画だったんですけど、漫画は趣味で描いてたので、それを就活代わりに出版社に持ち込んだんです。結局、持ち込んだ所もダメだったんですが、締切りが近かったという理由で、16ページぐらいの短編を「モーニング」に投稿したら、『イチケイのカラス』を一緒にやることになる編集担当者と巡り会ったんです。運が良かったですね。

 最初に投稿したのは、法律とは全然関係なかったんですか。

 全然関係ない話を描いてました。

 『イチケイのカラス』がすごい人気になって、ドラマ化もされ、世界が突然変わったりしないんですか。

 それが日常は変わらなすぎて……。ドラマのエンドクレジットロールに名前が出ても、どこか他人事のような感じがします。

少年事件をやってみたい若手へのアドバイス

 最後に、これから少年事件をやってみたいという若い先生たちに、何かアドバイスはありますか。

 若い先生だからこそ、少年事件をやってほしいと思います。私は弁護士を10年ぐらいやっているのですが、最近は少し歳をとってきたなと思っていて。やはり少年に年齢が近いと、少年の目線で物事を見れるし、それはすごいアドバンテージなんじゃないかと思います。

 だんだん保護者目線で物事を見るようになり、説教くさくなってくるので、「フレッシュな視点をぜひ使ってください」って思います。

 そのフレッシュな視点は、今までの話からもわかります。

 あと少年事件って、あまり法律家らしい仕事ではないんですよね。「自分は、そこにはいなかったから犯人じゃない」というような冤罪事件で、非行事実そのものの存否を争わなきゃいけない、そんな事件にぶつかれば、いわゆる刑事弁護みたいなゴリゴリの事実認定の話にはなってきます。

 だけど、割合で言えば、大部分は犯行を認めている事案が多く、やってしまったことを踏まえて、少年にとってどういう生活環境が望ましいか。どういう働きかけが必要かを考えて、模索していくことが必要です。

 例えば、その子は今回の件ですごい反省してるし、非行事実もそんなに大きくない。社会で更生させてあげるべきなんだけど、家庭環境が劣悪で家には戻せないっていう話になったとき、「じゃあ、家に戻せないから少年院に行かせますか」という究極の選択に迫られることがあります。

 そうなってくると、「住み込みの職場が見つかったら、そこで社会復帰ができるかもしれない」みたいなことになりえますし、決まった正解がありません。

 こうしなきゃいけないっていうセオリーがないので、自分の頭で柔軟に考えて、それこそ、これまでの自分の人生で培ってきたものを総動員して、その少年が働ける場所がないか探したりということになります。

 あと、性犯罪を起こす少年だと「性の認知にゆがみがある可能性もあるから、カウンセリングが必要ですよね」となって、どこにカウンセラーがいるかを調べたりしたこともあります。

 そういうことも、本来なら親に任せてやっていくのでしょうが、親の情報収集能力でむずかしいとなれば、付添人弁護士が手伝いながら一緒にやっていったりもします。

 要は、自分次第で自由に動けるので、若手の先生にはうってつけだと思います。

 自由に動けるっていうのは、一般の刑事事件と比べてもっていうことですか。

 刑事弁護でも裁判にならないで終わる場合や、執行猶予判決の見込みが高い場合など、最終的な帰住先の調整が必要になることもあります。

 少年の場合も、同様に帰住先の調整が必要となることは多いので、その面でもフットワークが軽くないとやり切れませんね。その点では同じなんですけれど、少年の場合は、少年と「一緒に考えていく」という色彩が強いでしょうか。

 帰住先の調整が多いんですね。

 居場所がないっていうのは、大変なことです。

 あと、仕事を探す場合、本人の将来につながるかどうかの問題もありますし、「自分で探さないとどうにもならない」と思うこともあります。

 じゃあ、石野先生自身が少年の居場所を探すこともあるんですか。

 探したこともありました。少年と一緒にバイトのサイトを見ながら、「どういうのだったら、やりたい?」とか言って、探したりしたことも。

 大人だってやりたくない仕事はありますからね。やる気って大事で、「これやれ!」って言われてもできないし、むずかしいですね。

 本当に。駆けずり回って、結構いろいろなことをやっています。

 じゃあ、一番やりがいがある瞬間っていうと、こういうやりとりをしながら、少年自身が希望を抱いたときになるんですか。

 その点で言うと、あとから手紙や連絡が来たときが一番うれしいかもしれません。

 少年と関わっているときじゃないんですね。

 はい。そのときは「この後、無事にちゃんと生きてくれよ」としか思っていなかったりします。

 できることなら、本人が「自分なりにもう1回立ち直ってみたい」と思うのだったら、その機会をあげてほしいと思い、保護観察とか、少年院への収容ではなく、家に帰って立ち直る機会を求めることが多いです。

 その過程で、学校を退学にならないように、学校に働きかけたこともあります。「非行が確定したら、高校としては処分します」と言われると、学校に直談判に行って、「この子がやったことは、法律的にこのように評価できるから、そんなに悪くないんです」「『もう1回やりたい』『補習もする』って言ってるから、もう一度機会を与えてもらえませんか」とお願いに行ったこともありました。

 「この環境(高校に通えること)が保持されるんだったら、在宅でもう1回チャンスを見てもいいよ」と裁判官に言ってもらって、実際に保護観察など在宅の処分が下りると、良かったなと思いますね。

 退学って、公立でも結構なるんですか。私、勝手に公立なら大丈夫って思ってたんですけど……。

 私立より公立の方が退学にはなりにくい面はありますね。ただ犯罪が重かったりすると、どうしようもありません。あと、それまでの出席状況とか、過去の停学の履歴があるかないかとか、学校の判断でも変わってきますね。

 今日はいろいろな話ができ、とても楽しかったです。少年事件について初めて知ることもたくさんあり、とても勉強になりました。ありがとうございました。

(2021年11月19日公開) 


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