漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第6回 金杉美和弁護士に聞く(1)

常に依頼者のために

一人の人間としてガチでぶつかる


なぜ「悪い人」を弁護するのか

 事件の被害者とか、被害者の家族から「なんでこんなヤツを弁護するんだ」みたいな感じで、ちょっと強めに言われたら、金杉先生はどういうふうに対応しますか。

 被害者に、もしそう言われたら「申し訳ありません」と言うしかありません。というのは、私たちは依頼者のことを説明しないといけない立場だと思うからです。だから、実際、そういうシチュエーションに置かれたら「申し訳ありません」と言います。

 しかし、その質問の意図が「敵対する立場の人にも弁護人の必要性をわかってもらうために、どういう説明をするのか」ということでしたら、「申し訳ないけれども、どんな人にでも適正な手続で、正しい裁判を受ける権利がある」と伝えます。

 私たちは正しい手続が行われているか、被告人の言い分をゆがめた形で受け取られていないかをチェックしていく。被告人の防波堤になることは絶対に必要だし、どんな人であっても享受されるべき権利です。それを守ることは被告人というか、自分の依頼者のためだけでは決してないと思っています。

 今は被害者という立場かもしれませんが、もしかしたら怒りのあまり、罪を犯してしまうかもしれません。アメリカの映画に、娘を殺されて、その人が犯人を殺してしまうとかありますけど、立場が変わることだってあり得ます。自分の家族がそういう罪を犯してしまうことだってあるかもしれませんから……。

 そういうときに「あなたは、自分の大切な親が何かをして裁かれてしまうとき、『適当な裁判でいいです』とは思わないですよね。だから、そこは『申し訳ない』と言わざるを得ないけれど、とても大切なことだし、必要なことだと思ってやっています」という答えになります。

プロとして弁護する

 弁護をしていく上で大切にしていることは、何ですか。

 多分、皆さん一緒だと思いますが、人として接して、プロとして弁護するという感じです。

 私は、本当に「えっ!? この人、こんな犯罪者!」とは思いません。いつも自分の延長線上に考えています。「自分だって、そういうことをしたかもしれないし、たまたま私は運が良くて、今ここにいるけど、なんでこうなっちゃったんだろうね」と。

 別にネガティブな、非難する趣旨ではなく、この人もいろいろあって、ここにいるわけで、そのことに思いを巡らし、被疑者・被告人に対して、人として尊重し、敬意を持って接するようにしています。

 だけど、ただ同情して「あぁ、そうか。それは大変だったね」と言うだけではプロではありません。そこは共感しつつも、どこかクールな視点を持っていて、「でも、それは、あなたからしたらそうかもしれないけど、それをそのまま裁判所で言うことは、理解されないかもしれない」と伝えたりします。

 「だから、言うな」ではなく、そういうデメリットを伝えた上で、「理解されないかもしれないし、かえって反発を買ってしまうかもしれない。例えば、裁判員裁判の場合、かえって刑が重く振れてしまう可能性もある。私は、それを止めるけれども、そういうリスクもあるよ。反発されるということは、リスクもあるけど、どうする?」と。

 言う、言わないという最終的な選択肢は、当事者、依頼者にあると思っていますが、そういうアドバイスはします。

山登りでストレス解消

 世間的に見れば、自分がバッシングされてしまうようなことを裁判で代弁して言うことで、苦しいとか、つらいとかありますか。

 なくはないですけど、まだそんなにつらくないかな。

 今、京都アニメーションの事件の弁護人をやっています。今の死刑求刑基準からいったら、確実に死刑でしょうし、その事件では責任能力が問題になっているので、外から見たら「そんなことで人を殺して」と言われるようなことを言わないといけなくなると思っています。

 実際、その状況に身を置いたら、その時期は、おそらくネットをあまり見ないと思います。何を言われているかは見ないほうが精神衛生上いいから、目をつぶるかもしれません。でも、仮に何か言われていたとしても、それで言うのをやめることはなく、あとは自分がどう引き受けるかの問題だと思っています。

 そういうときに、ストレス発散法といいますか、自分の中でモチベーションを保つためにやっていることって、何かありますか。

 山登りですね。私の場合は一人で登りますけど、たまに他の弁護士と登っているので、そういうときに愚痴を言い合うことはあります。

 どうせ誰もいないしみたいな。

 はい、山の中で。皆が疲れてきたら、「刑事弁護しりとり」をしたりもします。

 難しそう。

 私は遊ぶのが好きなので、疲れてきたなと思ったら「やろうよ」って、「『立証責任』は、『ん』が付くからダメ」とか言いながら。でも、刑事弁護人の中で愚痴を言うのが最大のストレス発散かもしれません。

つづく

(2022年07月25日公開) 


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