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笹倉香奈

『オアシス・インタビュー』第2回

【3/3】えん罪救済センターとSBS検証プロジェクト は何を目指すのか

実務家と研究者との連携

インタビューアー:小石勝朗(フリーライター)


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虐待問題とSBS

小石 「虐待」というテーマが社会問題としてかなり報道されるようになったことで、SBSのケースが増えてきたように思います。

笹倉 虐待は絶対に許してはいけませんが、SBS仮説によるえん罪も、家族を引き裂くなどけっして子どものためにはなりません。

小石 SBSの裁判では医師の意見がかなり影響力を持ちそうですね。

笹倉 そうです。ただし、医師といっても同じ人が繰り返し裁判に出てくることも多いのです。裁判所は、この医師は虐待の専門家だからその頭部の外傷が激しい揺さぶりによるものかどうかは分かるはずだということで、その医師たちの診断を基に有罪判決を言い渡しています。

 科学的な議論は何でもそうだと思いますが、たとえば、少し前までは、SIDS(乳幼児突然死症候群)は親が殺したと言われていました。しかし、赤ちゃんは何が原因か分からないけれども急に死んでしまうことがあるということが明らかになってきて、SIDSとされたのです。そのように、科学はどんどん進歩していっているのに、SBSやAHT(虐待による頭部挫傷)の問題は、「虐待防止」というキャンペーンの社会の流れの中で進んでしまっている面もあるので、非常に怖いところです。

 もちろん「これまでのSBS事件すべてえん罪である」ということは主張していません。ただ、不確実な診断で危うい判断がなされているのではないかということを危惧しています。

小石 未就学児がいる親は、いつ当事者になるか分かりませんから、ひとごとではありませんね。

笹倉 子どもは、いつ転んで大きなけがをするか分かりません。つかまり立ちからの転倒が典型的です。ほかにも、赤ちゃんに内因性の病気があり、それによって三徴候が生じてしまうこともあります。こういう事件が大阪であります。当時65歳の非常にか細い女性が、たまたま孫を預かっていたとき、孫が意識不明になってその後亡くなってしまったという事件です。そんなか細い人は孫を揺さぶれないだろうと普通は思います。ところが、小児科医の医師がこの事件は揺さぶりによるものだと証言します。法医学の医師は「座らせて揺さぶったらできないこともない」とさえ証言しました。裁判所も「経験ある法医学者の意見」を採用し、懲役56月の有罪を下しています。いま、控訴審中です。控訴審では、外傷ですらなく、内因性の病気であったとの医学意見書が出ています。

小石 それこそ、映像でもあればまだしもでしょうけれど。

笹倉 映像はないんです。こんなことで有罪になるのだったら、赤ちゃんのいる家庭や赤ちゃんを預かった人は、家中に監視カメラを置かなければいけないことになります。

小石 日本では、SBSの事案で無罪判決は出ているのでしょうか。

笹倉 SBS仮説そのものに疑問を投げ掛ける判決は2017年ころまではそれほど出ていませんでした。犯人性の争いで、母親ではなく父親がやったかもしれないとか、ほかの人がやり得る余地があったということで、無罪判決が出ていました。それでも日本の無罪率を考えるとかなりの割合だと思います。さらに、その後に大阪地裁で2018年の3月、11月に、2019年の1月に、子どもの死亡や傷害の原因は不明であるということで無罪判決が出されています。いずれも、SBS検証プロジェクトに関与している弁護士の事件です。このようにして無罪のケースが積み重なってくれば、スウェーデンのようにSBS仮説そのものが不確実であるとする判断が出るかもしれません。だから、これからが勝負だと思います。

 現在、スウェーデンやイギリスでは、刑事事件ではSBS事件が立件されなくなってきていますが、親子分離は以前と同じ状況だということです。日本は同じ轍(てつ)を踏まないために、刑事事件とともに、児童相談所など行政のあり方についても検討していかなければいけないと思い、子どもの権利委員会の弁護士たちとの勉強会なども始めました。

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用語解説

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