ゴーンさんの保釈はどのように獲得したのか

人質司法の原因とその打破の方策

高野隆弁護士VS大出良知九州大学名誉教授


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3 前任弁護人の保釈請求についての評価

大出 最初の弁護人も2度保釈を請求していたわけですが、2回とも認められていません。高野さんたちの請求と何が違っていたのでしょうか。

高野 ゴーンさんは第一線で社会経済活動をしている最中に逮捕されてしまったので、それだけ保釈をしてもらわなければならない立場にあるわけです。家族もみんな心配していました。最初の弁護団のとき2回保釈請求して、全然駄目でした。当時の弁護人から、公判前整理手続のめどが立つまで保釈は無理で、半年以上は勾留されることになるだろうと言い渡されて、ゴーンさんは非常に衝撃を受けたそうです。

 わたしたち新弁護団は、これはもう何とかしなければいけない、絶対に保釈を認めさせるという意気込みで対応しました。家族には、「彼の65歳の誕生日までには必ず出しますから」と言って、保釈請求をしました。

大出 最初の弁護人は、制限住居の第一がパリで、あとは在日フランス大使館ということにしていました。しかも、あとの保釈条件を裁判所が決めてくれればいいということでした。ですから、罪証の隠滅についての対応策について、具体的には、一切言及していません。高野さんたちの保釈請求書と比較すると、それで保釈が認められるとは思えません。

 彼らは、先ほどからおっしゃっていた否定的な状況を前提としてしか弁護活動をやっていません。どうせ特捜事件だし、否認事件だし、第1回公判が終わらない限り保釈は認められないという発想で対応していたのではないか。そんな気がしてなりませんが。

高野 前の弁護人たちの保釈請求は無罪主張をメインに据えていました。保釈請求書の大部分がこの事件は無罪なのだということばかり書いていて、裁判官の最大の関心事である証拠隠滅の関係についての記述がほとんどなかったのです。

 どういう意図でそうしたのか、よく分からないのですが、二重の意味で問題があります。一つは、裁判官の関心事である公判への出頭確保に問題がないことや、証拠隠滅を疑う相当な理由がないことについて、十分説得する材料を提供していない点です。特に、制限住居をフランスや在日フランス大使館にするとなると、日本の裁判管轄権の及ばない所に被告人を置くという提案です。普通の裁判所の考え方からすれば、裁判管轄がないから出頭を強制できないし、召喚もできないわけですから、それを受け入れることはほとんど不可能だと思います。

 もう一つは、無罪の主張を、まだ証拠も何も見てない段階でしたことです。それによって、検察がすごく詳細な反論を返してきています。私の刑事弁護のやり方とは随分違います。まだ証拠も見ていないのに、こういうふうに考えられるとか、こういう証拠があるはずだとかと言う。単なる予想といいますか、予測に基づいて無罪だから釈放しろというのは、保釈裁判官の考え方からは相当ずれがあるという気がしました。

 私たちの書面では、逃亡や証拠隠滅の可能性がないという部分だけに焦点を当て、裁判官が考えているであろうことに対応することだけに集中しています。

大出 前の弁護人の主張は、無罪を言うことで、言ってみれば、隠滅する証拠はないという形式的な論理で説得しようとしたかもしれませんが、今お話にあったように、証拠隠滅の可能性を具体的にどう阻止できるのかについては、一切言及していないのですから、それで裁判所の関心を呼ぶことはできないということでしょうね。

(2019年09月03日公開) 

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