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ゴーンさんの保釈はどのように獲得したのか

人質司法の原因とその打破の方策

高野隆弁護士VS大出良知九州大学名誉教授


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4 保釈を認めさせる具体的な弁護活動

大出 ところで、高野さんたちの第3次保釈請求の件ですが、保釈請求を出して決定が出るまでに5日ほどの時間がありましたが、裁判官とはどういう交渉をされたのか、伺えればと思います。

高野 私が弁護人になったのは、2月の中旬以降です。保釈を最優先に弁護活動を始めました。弁護人が代わって2週間後に保釈請求をしました。その期間で、先程お話ししたように、これまでの経験を踏まえて周到に準備をしました。

その上で、私たちが提案した保釈条件が具体的にどういう意味を持っているかということを裁判官に何度も説明に行きました。

大出 これまでの経験からして、提案内容で、保釈要件を充たすことができるという説得ですかね。

高野 説得活動もありますが、いろいろな資料を見せて補強しました。例えば、防犯カメラの機能、設置場所、撮影範囲、あるいは電話の契約が既にできていること、法律事務所の内装がこうなっていて、このぐらいの部屋が用意されていて、そこに本人は9時から17時までいること、施錠がこうなっている、弁護人の提供した通信機器しか使わないこと、など保釈条件が全部順守されるというような、具体的なイメージを裁判官に持ってもらうための資料を提供しました。

大出 監視カメラ自体の効果について批判する意見もあったのではないかと思いますが、高野さんの経験上、何か具体的にそれを利用して、いろいろと資料集めをされたような経験があったわけですか。

高野 本来の保釈について言うと、そんなことをやる必要はないと思います。まさに私生活の侵害だと思います。しかし、裁判所が一番懸念するのは、関係者と秘密に会って、口裏合わせをすることです。玄関に監視カメラが24時間あるということは、まずその玄関先に人が来たときは、相手も映りますし、それから、本人がいつ部屋を出ていって、いつ部屋に戻ってきたのか、あるいは部屋に誰が入ってきたのか、全部記録されるわけです。

 それで、いつからいつまで自宅に滞在したか、誰が来たかということがわかります。それ以外に、面談記録を付けるという条件を設定しています。それは、何月何日の何時から何時まで、誰と会いましたというのを全部チェックするわけです。それは彼自身もチェックするし、彼の身の回りの世話をしているお手伝いさんとか、あるいは子どもたちが交代で来ていますので、全部それをチェックするわけです。

 実際に面談した相手だけではなく、例えば、パソコンを使ったビデオ会議についても同じようにするわけです。そのパソコンもさっき言ったように、弁護士の提供したもので、弁護士のいる場所で9時から17時まで使用する。そこでビデオ会議をしたときも、誰と何時から何時までしたか全部記録する。それだけではなくて、パソコンのインターネットログも提供することになっていますから、いったいどこで口裏合わせをできるのかということです。

大出 そうはいっても、裁判官が納得するまでということでは、相当厄介だったのではないかという気がしますが。

高野 そのとおりですね。ですから、1回目の時には、説明に何度も会いに行きました。ということもあって、2度目のときには、私はもう、保釈は絶対認められると思っていました。検察は4月4日に、なぜかゴーンさんの制限住居に行って、彼を逮捕したんです。逮捕しただけでなくて、奥さんの携帯電話とかパソコンなどを押収しました。さらに、監視カメラのビデオをそのまま外して持っていった。この意図ははっきりしてると思います。奥さんのものまでゴーンさんの所有物とうそを言って押収しています。つまり、ゴーンさんが奥さんの携帯電話を使って第三者とコミュニケーションしているのではないか、あるいは監視カメラに何か映っているのではないか、と検察官は考えたのです。それで保釈条件違反を理由に彼を拘束しようとした。そういう意図があったことははっきりしています。

 しかし、彼らは何一つ見つけられませんでした。ゴーンさんはほんとうに誠実に条件を守っているし、彼だけでなくて、彼の家族も、みんな一所懸命保釈条件を守っているのです。

 ゴーンさんは、保釈条件でわからないことがある場合、こちらに電話をかけてきます。「箱根に2泊したいんだけど、旅行の許可は要るか」とか、「こういう人と話をしたいんだけれども、大丈夫か」というようなことです。「分からないときは遠慮なく相談してくれ」とあらかじめゴーンさんにお願いしています。一個一個チェックしました。みんな神経を使ってやっているわけです。

 2度目の保釈請求のときは、自信を持って保釈条件をずっと守ってきたし、これからも守る。今まで1回も保釈条件違反のような怪しいことはなかったと説得ができたので、絶対保釈は認められると思いました。

大出 確かに、2度目の保釈決定で、裁判所は、1回目の保釈によって、具体的に保釈条件が順守されていることを評価して、2回目の保釈を認めるということにしていますね。

高野 ところが、「奥さんが関係している事件がある」と検察がさかんにメディアに情報を流しました。それも影響して2回目の保釈決定では、奥さんとの接触禁止という、あり得ない保釈条件を裁判官が付けてしまった。それがとても残念なところです。

大出 それは、奥さんがフランスへ出国したことも影響していたのでしょうか。

高野 それはないと思いますね。ゴーンさんが4月4日に逮捕されたあと、彼女は日本から出国しました。出国の前に、検察から奥さんのところに、「出頭してくれ、事情を聴きたい」という話がありました。しかし、私たちのほうから「出頭は拒否します」ということを言って、奥さんはフランスに一旦帰りました。彼女は夫がまた逮捕されるとは考えていませんでしたから、大変な失意で……、とにかく家に誰もいないわけですから、日本にいるのが辛かったのだと思います。

 そのあと、日経新聞がいい加減な記事を出して、彼女が逃げたみたいな報道をしています。ちょうどそれと相前後して、検察が裁判所に公判前の証人尋問請求をしてきた。そこで、私は奥さんに手続を説明して「帰ってきて証人尋問を受けてください」と言ったところ、彼女は、「はい、分かりました」と即座に返事がありました。「自分は全然この事件に関係していないし、そのことを堂々としゃべります」ということで、帰国して東京地裁で証人尋問を受けています。逃げているわけでも何でもないことははっきりしています。

大出 そういう状況であるにもかかわらず、裁判所が、なぜあの8項目の奥さんとの接触禁止という追加部分を入れたのか。また、あの条項自体の意味内容については、弁護人と裁判所の認識に齟齬があったのではないかという感じがしています。弁護人としては、当然裁判所の許可を得れば、会うことは可能だということで、あとで解除の申請をしていますね。

高野 はい。ところが全然認めない。

大出 その認めないというのが、まさに職権発動しないという言い方ですね。決定ではなく、「認めない」と言って済ましてしまったわけです。2度目の保釈申請の際も、裁判官と何度か会われて、いろいろとやりとりをされていたのだと思います。あの条項についても当然、協議があったのではないかと思ったのですが。

高野 あの条項が入ることについて、裁判官から事前に打診は全くなかったです。そういうことを考えているみたいなことが、何回目かの協議のときにありましたが、ほかの協議の中にそれは埋もれてしまった。奥さんとの接触禁止条件を付けるかどうかをめぐって、裁判所とわれわれが交渉したことは一切ないです。

大出 弁護側からすれば、不意打ちに近かったということですか。

高野 あの接触禁止条項が入った保釈許可決定をもらって非常にショックを受けました。

 この保釈が認められたのが4月25日で、その翌日から連休に入るわけです。連休期間に奥さんが日本に来ることになっていたので、その間にとにかく会わせてあげたい。この保釈条件に基き、1日1時間、弁護人の事務所で、弁護人立ち会いのもとで会うことを許可してほしいという接触許可申出書を出しました。ところが、あっさりとこれが蹴られてしまった。奥さんは日本に来ることを取りやめたわけです。文字通り泣きながら来日を断念しました。

大出 その点についての準抗告もされましたけれど、咬み合っていませんでしたね。

高野 そうです。この4月26日にやった接触許可申出書というのは、この保釈条件を適用して許可の申請をしたものです。ところが、職権発動しないと蹴られました。それで、保釈条件それ自体に対する準抗告を連休明けの5月9日付で出しました。

 そこでは、保釈条件自体が人権規約に違反するということを言っています。それは、家族生活への恣意的な介入を受けない権利を保障した国際人権規約17条に違反するから、取り消さなければいけないと準抗告しました。それに対する東京地裁の判断は、条約違反かどうかについては全く判断していないのです。罪証隠滅の可能性が否定できないから、奥さんとの接触禁止は許されるのだという答えをしている。全くこちらの問いに対して答えていません。

大出 結局、会えない状態は相変わらず続いているのですか。

高野 続いています。

5 今回の保釈と外圧論

大出 ご承知だと思いますが、保釈が認められたことについて、一部に、外圧の影響があったのではないかといった意見があります。先程からのお話を伺っている限りは、あの保釈条件であれば、裁判所は認めざるを得なかったということでしょうか。その点については、いかがですか。

高野 保釈に関しては、誰かが外圧を感じて保釈を認めたということはないと思います。外圧だったら、もっと保釈してくれるだろうと思います。
 奥さんとの接触禁止条項を最高裁までが認めてしまったわけで、当然、国連の人権理事会への申立てを既にやっています。それがどこまで機能するかは別として、外圧が高まることは、当然だと思います。

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用語解説

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