連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告<br>第13回——事例報告⑫ 覚醒剤取締法違反被疑事件

連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告
第13回——事例報告⑫ 覚醒剤取締法違反被疑事件

はじめての取調べ拒否

上野花穂(金沢弁護士会)


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事案の概要

 本件の被疑事実は、被疑者Aさん(女性)が、法定の除外事由なく、覚醒剤(フェニルメチルアミノプロパンまたはその塩類)若干量を注射もしくは何らかの方法により自己の身体に摂取し、もって覚醒剤を使用した、というものである。

接見

 私は、勾留決定の翌日、被疑者国選で弁護人に選任され、警察署において接見を行った。接見室に入ってきたAさんは、疲れたような顔をしており、質問すると、伏し目がちに小さな声で話をするような様子だった。
 被疑事実の内容について、Aさんに確認すると、Aさんは、小さな声で、「……使ったと言われれば、使いました」と回答した。

 さらに詳しく話を聞くと、Aさんは、同居していた男性が覚醒剤を使っていたこと、男性に、覚醒剤をやめてほしいと伝えていたものの、男性が覚醒剤をやめてくれなかったこと、男性からは、むしろAさんを薬漬けにしてやる等といわれて、DVを受け、たびたび覚醒剤を注射されることがあったこと、もう死にたいと思い、死ぬ場所を探そうと思って外を歩いているところを逮捕されたこと等を話してくれた。

取調べ拒否の提案

 私は、弁護活動として取調べ拒否があることは知っていたものの、これまで行ったことはなく、当初は、Aさんの話を聞き、黙秘するべきだと考えた。

 そこで、私は、Aさんに対し、「捜査機関は、Aさんが無理やり覚醒剤を注射されたわけではなく、自分の意思で覚醒剤を使ったという供述を取りたいと考えているはず」と伝えた。また、そのような考えから、取調べにおいても、おそらく、「男性が家にいない時間はあり、男性から逃げようと思えば逃げられた」とか、「注射されるときには腕を動かす等して、抵抗することはしなかった」等の内容の調書を取ろうとしてくること、捜査機関は、調書の記載内容について、間違いないかと確認はするものの、その場で自分の認識と異なる内容や不利な内容になっていないか判断することは難しいこと、捜査機関は、「プロ」であり、自分の言い分をわかってもらおうと思って話したとしても、結局、捜査機関の考えるとおりの内容の調書が作成されてしまうこと等、普段黙秘の指示をするときに説明するようなことを伝え、取調室では入室から退室まであいさつも含めて、一言も話してはいけないこと等を何度も伝えた。

 Aさんも「黙秘してみます」と言ってくれたため、取調べの方針を黙秘とすることにして、その他の必要な事項を尋ねたり、確認したりして、この日は初回接見を終わらせることにした。

 接見の帰り際に、「他に何か気になることはありますか」とAさんに尋ねると、Aさんは、「取調べ大丈夫かな……」とつぶやいた。私が「黙秘できるかということですか」と聞くと、Aさんは頷いた。

 Aさんはとても憔悴している様子であり、確かに、捜査機関から黙秘解除の説得を受けても黙秘を続けることは困難なように思われた。

 私は、これまで取調べの拒否を提案したことがなかったため、一瞬、どうしようかと考えたものの、Aさんが黙秘できるかには不安があり、そもそも、Aさんの精神状態を考えると、取調べに耐えられる状況であるようにも思えなかった。

 そこで、私は、「それなら、もう取調べを受けること自体やめましょう」と伝えた。

 「警察官が呼びに来ても房から出なくていいし、『行かない』と伝えればいい、それでも、もしなぜ取調べを受けないのかと言われれば、弁護士に言われたと言ってください、わたしからも捜査機関に伝えておきます」と伝えると、Aさんは、房から出る必要もないことに少し驚いた様子であったものの、「わかりました」と言ってくれた。

勾留中の状況

 私は、取調べ拒否を指示したものの、まだRAISにも入っておらず、そもそも初めて指示したため、その後どうしたらよいかわからず、県内のRAISに入っている先輩弁護士に、取調べを拒否したいときはどうしたらよいのか質問した。すると、RAISのホームページに取調べ拒否の通告書の書式があり、これを捜査機関や留置されている警察署にFAXすればよいと教えてもらい、書式を参考に、それぞれにFAXを行った(通告書)。

 Aさんに、取調べ拒否の様子を聞くと、県内では、取調べを拒否する事例の数がそれほど多くないことが理由なのか、取調べを受けないことをAさんが伝えると、留置係の警察官は、「Aさんの気持ちで決めていいよ」「強制はできないから」等と言ってくれているとのことで、ストレスなく、取調べを拒否できている様子であった。

Aさんのその後

 Aさんは、勾留満期に処分保留で釈放された。相手男性も勾留中だったため、Aさんは急いで避難し、男性と離れることができた。その後、Aさんは、不起訴になった。

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(2026年04月19日公開)


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