call4 stories

第7回

フォトジャーナリスト・安田菜津紀さんと「カメルーン人男性死亡事件国賠訴訟」のストーリー

寄付は役に立ちます。経験から堂々と伝えていきたい


12

“共感のピース”を生み出す

 CALL4が目指すのは、当事者の声を届けるストーリー記事などを通して、縁遠いと思われがちな公共訴訟が、実は自分たちの日常の延長線上にあることを伝えて、共感の輪を広げていくことだ。安田さんは、自身の取り組みにも触れ、そのコンセプトに賛同を示してくれた。

 例えば安田さんが自ら撮った写真を掲載し、また文章も自身で綴る、WEB RONZAの連載シリーズ『記憶を宿す故郷の味──日本で生きる難民の人々』。シリアの方が丹念に淹れるコーヒーはカルダモンの香り。カンボジアの方が作る豚の角煮は、すり潰した胡椒のスパイシーな香り。取材記事はどれも見ただけで美味しい香りが漂ってくる、そんな料理の写真から始まる。

イラク北部の難民キャンプ。日常の一コマ(写真:安田菜津紀)

 「私自身が関わっているのは、海外取材で言うと、シリア難民や紛争の問題です」

 「何人が亡くなったか、爆撃があったか、それも情報としては勿論、大切。けれども、元々興味がある人でなければ、やっぱり『怖い』っていう感情の、人を遠ざけるエネルギーの方が、圧倒的に強い。もう辛いものなんて見たくない、悲しいことなんて知りたくないって、人は心の扉を閉じてしまうと思うんです」

 「じゃあ自然に無理なく、もう一度心の扉を開いてもらうためには、どうしたら」

 そんなことを、ちょうど考えていた去年、しばらく隣国の難民キャンプに接していた安田さんは、8年振りに、シリア国内の難民キャンプ入りをする。

 「キャンプの食堂で朝、コロッケを食べている時に、『これも食え』『あれも食え』と、現地の方に言われるうちに、バーッと号泣しちゃって。周りはドン引き。『俺たちの用意したコロッケは、そんなに旨くなかったか!』みたいな」

 と笑う安田さん。けれどもその時に、共感のピースを生み出せる気がしたのだという。

 「“食”は人の優しい記憶を宿している、そして呼び起こしてくれるものなんだ、って気が付いたんです」

 難民問題を知ろうとは中々思えなくても、「何? このコロッケ、美味しそう!」とページを開いてくれた人が、「こんなに美味しそうなコロッケを家族と食べていたのに、離れ離れにならなければいけなかったなんて」と、背景のエピソードまで読んでくれる。そこが、間口になる。

 どんな悲惨な場所にも、日々の暮らしがあり、大切な人がいて、食事がある。身近なところから、“私”という軸を少しずつ広げていく行為によって、理解に近づいてもらえたら。そんなまっすぐな安田さんの思いに、心が動かされる。

寄付で応援することは、ポジティブなこと

 「私はどんな問題でもまず、気になったら少額でも寄付をしてみることをお勧めしているんです」

 その理由は、たとえ少額だったとしても、寄付先の団体はお金を適正に使っているのか、その活動はその後どうなったのか、という風に、関心が持続する接点を作ることができるからだという。関心の第一歩としての、寄付。

 大きいホースで水を飲め! と言われているかのように、情報の溢れる現代。その中でも関心を流さないためには、ちょっとした寄付でも、自分の関わった軌跡を残すことが大切だと思う、と安田さんは提案する。

 「CALL4は問題を伝えることだけでなく、具体的に寄付ができる仕組みがあるというのが、さらにポジティブだと思うんです」

 「朝起きて、家から勤務先や学校に行くまで、スマホでSNSを見る感覚で、『どんなことが応援できるかな』って、CALL4のサイトを見る。自分も頑張っている人を応援できるって思えることは、勇気につながる面もあると思うから」

 どんな悲惨を前にしても、ポジティブな面を見つけ、伝え、変えていこうとする。フォトジャーナリストである安田さんは終始、飾ることなく真摯な言葉を届けてくれた。

 「そして、社会課題を自然に知れる。そんな習慣ができていったらいいな、って思います」

 そう締めくくりのメッセージを述べてから、「私も聞きたいことがあるんですけど、ちょっと聞いてもいいですか?」興味津々という様子で、こちらに顔を向けた。

(2021年06月04日) CALL4より転載

12

こちらの記事もおすすめ