漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第5回 石野百合子弁護士に聞く(3)

「法律家の枠をこえる」弁護士の仕事

非行を犯した少年が、自分と向き合えるように寄り添う


被害弁償で少年事件と刑事事件とでは違いはあるのか

 被害弁償で少年事件と刑事事件とでは違いはあるのか

 成人の刑事事件って、今までの人生経験で、犯罪被害に対して弁償をしなければいけないこと自体を理解している方も多いので、示談の話が出たときに、その必要性自体の理解は早いと感じます。

 ただ、少年の場合は、「親に借りないと払えない」「親には迷惑をかけられない」とか、そういうことに目がいきすぎて「示談はいいです」という初期反応をする少年が多いように感じます。

 示談の話をするときには、弁償よりも先に「まず謝らなきゃいけないよね」というところから始めます。

 不遇感から被害者への謝罪まで気持ちがまわらない少年もいますから、ただ「人として、謝らなきゃいけないよね、やったことに対して」っていう感じで攻めていきます。

 確かに、一般の刑事事件だと、ある程度判決を見越したやりとりになってきますが、やっぱり少年事件は違いますね。

 判決や処分を見越して判断しないでほしい、という気持ちはあります。なんて言うんですかね、人って、空気を読むじゃないですか。

 少年も「やったこと、どう思ってる?」って言われたら、「悪いと思ってます。二度としません」って言わなきゃいけない。今まで小学校や中学校で、先生とかに散々怒られ、「『ごめんなさい。もうやりません』って言え」って教育されてきてるので、そこは結構すんなり言うんですね。

 ただ、すんなり言うけど、「気持ちがついてきているのか」どうかはきちんと検証しなければなりません。家庭裁判所の裁判官もたくさんの件数を扱っているので、本当に少年が思ってなかったら、すぐにバレますから。

 審判の前にそう少年に言うってことですね。

 そのとおりです。「『やらない』って、どうしたら、本当にもうやらないの?」と聞くと、「やらないって決めたからやりません」みたいなことを普通に言うんですよ。

 少年「僕が『やらない』って言ったら、やらない、できるんです」
  私「いや、でも、あなたが今、ここにいるのはやっちゃったからなんだよね。やっちゃたからいる人に対して、『もうやりません』って言って、そんなに簡単に信じてもらえるかな。今までやってないなら、信じてもらえるかもしれないけどさ」
 少年「えーっ、どうしたら信じてもらえますか」

 こんな禅問答みたいなやりとりをしてるんです。

 こんな話を聞くと「少年は結構、純粋なんだな」って思いますね。

 ほとんどの少年は、かなりピュアだと思います。ピュアだからこそって言うと、ちょっと語弊があるかもしれませんが、短絡的に事件を起こしてしまう少年が多い気がします。

 きちんと親から指導されなかったり、大人に大切にされた経験がなかったり、まわりが能力に合わせた関わり方を知らなかったり、何かのピースが欠けてるケースがほとんどです。

 内心、「このケースに足りないピースは、何かな。どうしたら彼のピースがはまるのかな」みたいなことを考えながら、ひたすら雑談してることが多いです。

 結構、根気のいる仕事ですね。

少年法の厳罰化について

 最近のニュースを見ていると、本当に凶悪なケースが前面に出てきますが、石野先生のような実務をされている方の実感とは程遠いところで話が進んでいると思います。少年法の厳罰化の動きについて、どう思いますか。

 もともと今回の改正の話って、公職選挙法が18歳に引き下がり、民法の成人年齢も18歳になるから、少年法も一緒に下げなきゃいけないんじゃないかという問題意識から出てきました。

 少年事件の実務をやってきた弁護士から見ると、おそらく家庭裁判所の裁判官や調査官もそうでしょうが、今の少年法がこんなにうまく機能しているのに、なんで変えなきゃいけないのかっていうのが実感です。

 「法律上、整合性を合わせる」という、それっぽい大義名分のために、なんで20歳から18歳に変えて、少年法の適用を受けられず、成人の事件として扱われ、再教育の機会を逃して制度の中からこぼれ落ちてしまう人たちをより増やさなきゃいけないのか、私には全く理解できません。

 『18・19歳非行少年は、厳罰化で立ち直れるか』(現代人文社、2021年)には、ケースとして「グレーゾーンが結構幅広かったから、自分は今、立ち直れたんだ」みたいなことが書いてありました。

 私はこの本を読んで「実は、少年法って結構いいものだったんだ」と初めて知りました。

 今回の少年法改正に対して、報道などでも、あまり反対の声が出てないんですよね。「改正したほうがいい」という人の声ばかり聞こえてきて、なんでだろうとは思っていましたが、これからがちょっと不安です。

 「こぼれ落ちる人をどうすればいいのか」という考え方から、「実務の人が頑張ればいい」みたいになってしまうと、救える少年も救えなくなるんじゃないかと思いますね。

 今回、そもそも適応年齢を20歳から18歳に引き下げるという話があり、法制審議会で「引き下げる必要はない」というところまで、いったんは押し戻しました。

 ですが、なぜかそこで18・19歳非行少年を原則逆送するという形で厳罰化が入ってきて、厳罰化で帳尻を合わせるような形になってしまったのが非常に残念ですね。

 浅見さんが言われたように、私も弁護士になるまで、少年法制について考えることは、正直ありませんでした。外から見たら、重大事件のニュースばかり目に入ってきて、自分がそんな事件の被害者になったと考えるだけで恐ろしいから、「悪いやつは刑務所に入れておけ」みたいな考え方になりやすいのかな、とは理解しています。

 今回、原則逆送対象の事件を広げることによって入ってくるものの一つに、いわゆる「強盗事件」と言われるものがあります。

 コンビニで万引きして、捕まりそうになったから逃げて、逮捕を免れようとして店員を突き飛ばしてけがをさせても強盗(事後強盗)になります。「そんな事件まで逆送してどうするのか。これって、まさに少年の未熟さが現れた事件じゃないのか」って思うんです。

 確かに、強盗って響きがすごい悪そうで、クレプトマニアの事件を描いたときに、万引きしてとがめられた奥さんが、店員をパッと転ばせた。それでも強盗になるんだって聞きました。「強盗」というイメージからくるものとは相当違うんですね。

(つづく)

(2021年11月12日公開) 


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