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連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第3回

電子令状

指宿信 成城大学教授

1 はじめに

 2022年6月、法制審議会において「情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備に関する諮問第122号」が発出され、刑事手続で取り扱う書類を電子化・オンライン化することや、捜査や公判手続を遠隔によって実施することに関わる法整備について意見が求められています。いよいよ刑事手続のIT化が立法プロセスに乗ることになりました。今回は、捜査の遠隔化の中でも中心となるであろう、令状の請求・発付・執行の電子化・オンライン化(電子令状)を取り上げたいと思います1)

 警察や検察の業務で各種書類が電子的に作成されている以上、請求や発受も紙媒体ではなくオンライン上で完結させるということには一定の合理性がありますし、複写交付についても経済的なメリットが生まれます。紙の書類を持参する手間やコストを省くことができれば請求・発付・執行もスピーディーになるでしょう。

 本稿では先行する海外事例の紹介を通して、電子令状システム導入による効果や課題を明らかにするとともに、導入の与える示唆について付言しておきたいと思います。

2 電子令状システムの導入

 米国では1977年に連邦刑事訴訟規則が改正され、電話による令状請求が認められました。続いて1993年にはファックスによる令状請求が可能になり、2006年には「信頼に足る電子的手段」を利用することができるようになったのです。これが「電子令状」請求です。州レベルでも同様の改正が行われています。

 当時の改正理由の一つに、憲法上の令状要請にかかわらず無令状執行の例外が拡大されていく事態に歯止めをかけることが挙げられていました。すなわち、米国では、証拠隠滅の恐れといった緊急事態や令状裁判官への出頭が困難な遠隔地といった理由から裁判所は無令状捜索差押えの範囲を次々に拡大していました。令状請求手続をリモートで可能にすれば、そうした傾向に歯止めをかけられると期待されたわけです2)

 もっとも、遠隔請求手続には克服すべき課題がいくつかありました。アナログ(対面)を前提に設計された令状請求については、請求者(法執行官)が令状裁判官(多くは治安判事)の前で「宣誓もしくは確約」することが要件でした。合衆国憲法修正第4条は「不合理な捜索及び逮捕押収に対し、身体、住居、書類及び所有物の安全を保障される人民の権利は、これを侵害してはならない。令状はすべて、宣誓又は確約によって支持される相当な根拠に基づいていない限り、また捜索する場所及び逮捕押収する人又は物が明示されていない限り、これを発してはならない」と定めているからです。

 この要件を解決するために当初採られた方法は、宣誓や確約に代る警告手続でした。令状請求には宣誓供述書が提出されますが、提出時の宣誓に代えて相当な根拠なく令状請求した者に対して偽証罪処罰が予定されるという警告を与えるのです。一種の威嚇効果によって令状請求の正当性を確保しようとしました(true test〔真正テスト〕と呼ばれます)。この点、ネットの発達に伴い遠隔でもSkypeなどの動画通信手段を使って判事に対して宣誓可能になったことから、今ではビデオ通話による宣誓が用いられています。

 もう一つの課題は令状請求書面上の請求者による署名です。憲法上署名は要件になっていませんが、宣誓供述書には令状請求者の署名が欠かせません。これについては、当初は口頭(電話)での請求者自身による氏名の供述をもって代えていました。最近ではSkypeが使われています。近年では情報技術を使って、電子署名(electronic signature)を用いたり、アプリ上でのサインを使ったりしています。

アリゾナ州電子令状システムにおける捜索差押令状請求の宣誓供述書画面

3 電子令状システムの運用や課題

 一方で、合衆国最高裁は、2013年3)や2016年4)の判決で飲酒・薬物使用を伴う運転者の問題運転行為(DWI〔driving with influence〕などと呼ばれます)について呼気検査を無令状で行なったケースでそれぞれ憲法違反の判断を示しました。現代の情報技術(要するに電子令状)に照らすと、無令状捜索を「緊急例外」によって正当化することは困難だと考えたのです。こうした判例の動きが各州における電子令状システムの整備を加速させることになりました。連邦政府も州や地方自治体に補助金を出して令状手続の電子化を後押ししています。

 電子令状システムの導入を推進する全米保安官協会が刊行した電子令状に関する指針には5)、ミネソタ州では令状発付までの時間が平均30分短縮され、エラー率も30%から0%へと劇的に減少したことや、テキサス州では問題運転の有罪率が2015〜16年で11%上昇し、処理件数も52%増え、血液検査を拒否して公判を希望する被告人の数が30%減少するといった、効果・効用が報告されています。

 もっとも、電子令状に関する法学論文は数多く刊行されていますが、経験的・実証的な研究はほとんど見かけません。なぜなら、地方分権の連邦国家である米国では、法執行に関して全国的な学術的調査を実施することが難しいからです。そうした中で、電子令状の数少ない調査研究の一つであるウォードの研究(2016年)6)を紹介しておきましょう。ウォードは全米から8つの自治体が運営する電子逮捕令状システムをサンプルとして選定し、紙ベースの逮捕令状実務との違いを調べ、電子令状の有効性・有用性を明らかにしようとしました。

 その結果、同じ人口規模で比較した場合、逮捕令状の執行に関しては紙も電子も変わりはなく、電子令状を採用した管轄でも執行までの時間短縮効果は見当たらなかったと報告しています。規範的には電子化による効率性や効用は十分に大きいわけですが、科学的調査によっては逮捕令状を電子化することの効果は検証できていないのが実情のようです。もっともウォードは、電子令状の効用を最大化するには、執行にあたる警察官などの訓練や習熟度合い、IT支援の手厚さなどが関連していると指摘し、安易な結論をいさめています。先の全米保安官協会の指針も、電子令状システムの導入に際して、特定のアプリやシステムの習熟訓練を重視し、訓練に関する責任の所在を明らかにして標準的なカリキュラムと教材を用意するよう促しています7)

 また、先頃、電子令状システムを導入したばかりのフィリピンにおける実態調査でも、インターネットアクセス環境や法執行官の入力するデータの不正確さなど、深刻な問題が生じていることが明らかになっており、アクセス環境の整備と法執行官に対する訓練は電子令状の導入の前提として不可欠だと考えられます8)

4 おわりに

 電子令状について日本が考えるべき点は、三つほど考えられるでしょう。一つは、令状取得の迅速化による現行の実務上の問題の解決可能性です。例えば、職務質問のために路上で延々と説得が試みられ、違法な身体拘束状態が生まれたり、所持品検査として許容されない範囲まで捜索が及んだりしています。任意捜査の名の下に身体拘束や捜索といった強制処分該当行為が頻発するのを防ぐために、現場から法執行官が迅速な令状請求ができるようになることは捜査段階における違法な手続を減少させ、司法コストを低下させることに繋がるでしょう。一方、電子令状システムが導入されれば、そうした任意捜査の名に隠れた捜査活動について裁判所は違憲違法と判断することができるでしょう。

 二つ目は、電子令状を一般化し、紙の令状をなくす方向に進むのか、電子令状をあくまで従来の令状請求の補完的役割に位置付けるのか、という方向性の問題です。米国では今のところ後者の立場のように見えます。連邦国家であるという事情もあるでしょう。一方、連邦国家でありながら刑法・刑事手続法について国内統一法を持つカナダでは、1985年に電子令状を導入して以来、対面での令状請求が「実務上の不可能(impracticable)」な場合という要件が置かれていましたが、近年その見直しが提起されています9)。すべての犯罪類型で「実務上の不可能」要件なしにデフォルトで電子令状を認めようというのです。

 電子令状を導入するとすれば、電子化を補完的に考えるのか原則的に考えるのか、態度を確定しておく必要があるでしょう。この点、消費者契約に関わる契約書面の全面電子化に関わり、書面での交付も必要とするとの勧告がなされたことが参考になります10)。いうまでもなく高齢者の消費者被害などの防止を目的としたものですが、契約書ですら書面交付の重要性が認識されているのですから、身体拘束や捜索・押収といった国家権力の行使について、電子化後も書面として令状を“可視化”しておくことの意味は決して小さくありません。

 三つ目はいわば応用問題です。米国における電子令状の導入によって無令状捜索の緊急例外問題を解決しようという考え方が、技術力による適正な刑事手続の実現可能性を示唆していることを挙げておきます。例えば、2019年から裁判員裁判事案と検察独自捜査事案における取調べの録音録画を義務付ける、いわゆる「可視化」が法制化され、全ての警察署と検察庁において環境が整いました。そうすると、可視化対象でない事案であっても、被疑者本人や弁護人が録音録画を要請した場合など、これを実施することを妨げる実質的根拠はなくなります。かかるケースで取調べの違法や自白の任意性が争われた場合、合衆国最高裁判例にならって、わが国の最高裁も法律で録音録画が義務化されていない場合であっても任意性を認めない判断をすることが可能な状況になっている、と考えられないでしょうか。

 技術的環境が整っていることが憲法や刑事訴訟法で保障されている様々な権利や自由の具現化や促進に繋がるとすれば、刑事司法におけるIT化の影響は現在予想されているよりもずっと大きく広がる可能性があるでしょう。

【次回予告】 「電子ファイル」について取り上げます。

注/用語解説   [ + ]

(2022年08月27日公開) 


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