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東京TSネット・コラム一緒に考える<障害のある人の刑事弁護>

一緒に考える〈障害のある人の刑事弁護〉第3回

捜査段階と「合理的配慮」 (その1)

山田恵太 弁護士

1 はじめに

 前回のコラムでは、刑事手続において、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供が求められていることについて触れました。

 そこで、今回は、もう少し具体的に、どのような「合理的配慮」が必要とされるのか、特に捜査段階の場面に注目して、考えていきたいと思います。

 なお、一口に障害といっても、障害の種別はさまざまなものがあります。その中でも、今回は、知的障害・発達障害を念頭において考えていきます。

2 障害のある人の特性

 障害のある人には、さまざまな障害特性があります。その障害特性は、それぞれの障害によっても異なりますし、何よりも、1人ひとりによって全く異なるものです。「○○という障害がある人は全て××という特性がある」などということはできません。実際の場面では、それぞれの人ごとに、どのような特性があるのかについて、本人や周囲の人から聴いたり、専門家に意見を聴くなどして把握する必要があります。

 しかし、ここでは、合理的配慮を考える前提として、障害特性の例をいくつかあげさせていただきます。

① 抽象的概念の理解の困難さ
 知的能力の低さや偏りから、時間・数量・空間といった事柄の理解が難しいという特性を持った方がいます。抽象度が増すにつれて困難度も増していくことになります。
 そのため、例えば、今現在起こっていることについては理解できるものの、過去や未来といった漠然としたものについては、理解・判断することが難しくなります。

② 未理解同調性
 理解できていないことであっても、あたかも理解したようにふるまい、同調してしまう傾向のことです。コミュニケーションに困難さを抱えながらも、何とか周囲との間で軋轢が生じないようにふるまう経験を重ねることで、このような傾向が生じてしまうのではないかと指摘されています。

③ 感覚鈍磨・感覚過敏
 特に自閉スペクトラム症の障害特性として、感覚刺激への反応に偏りがあることが多く、聴覚・視覚・味覚・臭覚・触覚・痛覚など全ての感覚領域で鈍感さや敏感さが生じる可能性があるといわれています。例えば、服の繊維などについて他の人が気にならないものでもチクチクするように感じたり、蛍光灯の明かりがチカチカして見えたり、小さな物音でも非常に大きく感じるなどです。
 感覚の特異性については,ストレスが高まった際に強く表出することもあります。

3 処遇における「合理的配慮」

 まず、逮捕・勾留され、刑事施設(警察の留置場や拘置所など)に収容されている場合には、どのような合理的配慮が必要となるのでしょうか。

 例えば、コミュニケーションに非常に大きな不安を感じていて、共同室(複数人で同じ部屋に収容される)にいること自体に大きな苦痛を感じてしまう人がいます。このような場合に、弁護人としては、障害者差別解消法等に基づく合理的配慮の提供として、単独室への移動を申入れすることなどが考えられます。

 また、処遇の場面では、前記③の感覚過敏に関する調整が必要になる場面が多く出てきます。例えば、以下のような事例が考えられます(実例をベースにしています)。

(A)就寝時間になっても照明が完全に消えないため、その灯りをチカチカ感じてしまい、寝ることができない。

(B)同じ部屋にいる人の声が大きく、耳に痛さを感じるほどであり、同じ部屋にいることに苦痛を感じている。

(C)貸与された衣服の素材が痛く感じてしまい、大きなストレスを感じている。

 いずれも、障害のない人からすれば、想像することが難しいかもしれません。しかし、感覚の感じ方自体が違うのだということを念頭に、一度想像してみましょう。寝るときに強いストロボを浴びせられていたり((A)の事例)、常に耳元で怒鳴られていたり((B)の事例)、内側にトゲのついた服を着させられたり((C)の事例)した場合、みなさんはどう思うでしょうか。このように考えれば、早急に何らかの調整が必要であることが分かるはずです。

 このような状態を放置することなく、弁護人としては、合理的配慮の提供を求め、刑事施設側に申入れをします。実際には、前記の各事例では以下のような合理的配慮の提供がなされたことがありました(詳しくは『障害者弁護ビギナーズ』77頁参照)。

(a)照明を消したり暗いものに変えることは叶わなかったが、なるべく照明の当たらない位置で就寝できるように調整され、寝ることができるようになった。

(b)別の部屋へ移動し、1人で過ごせるようになった。

(c)苦手な服の素材について共有し、本人が痛いと感じない素材のものを貸与してもらえた。

 弁護人としては、必要な合理的配慮が実現されるまで、粘り強く交渉等を行っていく必要があります。その際に重要なのは、刑事施設の職員にも、本人の障害について理解してもらい、本人が直面している困難さを想像してもらうことではないかと思います。

4 次回に向けて

 今回は、障害特性についての簡単な説明と処遇における合理的配慮についてみてきました。

 次回は、接見における「合理的配慮」や、取調べにおける「合理的配慮」について考えてみたいと思います。

(2022年09月07日公開) 


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