連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第5回

遠隔証言

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 パンデミックの感染拡大を受けて海外の司法機関では、遠隔化、オンライン化の導入・移行が広がりました。たとえば、陪審員の選任手続や公判前の各種の聴聞手続、上訴審の弁論などが遠隔で実施されました((「コロナ初年度」であった2020年末段階での状況については、別稿「コロナと闘う世界の刑事司法──ITを駆使した取り組みとその課題」法学セミナー2021年3月号参照。))。

 感染リスクを恐れて手続を停止したり延期したりしていると被疑者被告人の拘束期間が延びて不利益を被ることになりますから、ITを用いて対応を図り、手続を進めることは感染対策と権利保障の両面で重要でしょう。もっとも、海外の司法機関で迅速にオンライン対応を進めることができた背景としてパンデミック以前から諸手続の遠隔化が導入されていたことを見逃すことはできません。日本でも21世紀初頭に行われた司法改革の時期にIT化を進めていれば、今回の感染拡大にも迅速かつ的確に対応できたと思われます((こうした問題意識については、別稿「司法のIT化と取調べの可視化」法学セミナー2022年9月号(特集「司法制度改革を振り返る」)参照。))。

 社会ではパンデミックを契機として企業活動や教育現場で非対面のツールが普及し、遠隔での会議や授業を許容する事態になったことで「リモート社会」が一気に実現しました。現在、企業はリモートワークを恒常化してオフィスを縮小したり、大学でも遠隔授業を正規の講義方法に取り入れたりするようになっています。司法手続についても、海外では遠隔での運用を恒常的に利用できるような立法が進められています ((例えば英国につき、Laura Hoyano, Posta……

(2022年10月18日公開)


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