2 商標法違反被疑事件
⑴ 事案の概要
勤務先の店主と共謀し、他人が商標権、専用使用権を設定登録している商標に類似した商標を付した帽子3点を販売譲渡のため所持したという被疑事実である。
依頼者は当該商標を知らず、販売していた物が類似品とも知らなかったとして否認した。
⑵ 弁護実践
逮捕日に当番要請があり、援助制度を使って受任し、その後被疑者国選に切り替えた。
初回接見時に黙秘の方針を決定し、取調べ拒否する方法について窃盗被疑事件と同様の説明をした。また、本件は要通訳事件であった。RAISのメーリングリストで日本語を母語としない被疑者が、取調べであることを告げられずに房から出された事案が報告されていたため、理由を告げられず房から出るよう言われた際には取調べなのかどうか確認する必要があるという助言もした。
依頼者は方針に賛同した。依頼者が母語で書いた意思表明書に、訳文を添付して通知書とともに関係各所にファックス送信した。
⑶ 捜査機関の反応等
勾留決定日の夜に共犯者とされる店主の弁護人が依頼者に接見し、取調べに応じ供述することを助言したとのことで、依頼者はその翌日の刑事調べには応じたという。
そこで改めて方針を確認し、取調べ拒否を助言したところ、依頼者は刑事調べについては全て拒否した(検事の呼出し時には留置係官に説得され出房)。
⑷ 結果
満期に処分保留釈放となり、その後不起訴となった。
3 凶器準備集合、傷害被疑事件
⑴ 事案の概要
18歳の依頼者が少年7名と共謀し、被害者2名に対し共同加害する目的で包丁などを準備して集合し、被害者2名に対しそれぞれ切りつける、殴る蹴るの暴行を加えてそれぞれ全治約7日の傷害、全治約2週間の傷害を負わせたという被疑事実である。
依頼者は、現場には行ったが仲裁するために行った、刃物を準備している者がいることは知らなかった、加害目的はないし暴行の共謀もなかった、被害者1名を数回殴ったがそれは友人が倒されたためで共謀に基づく行為ではないとして否認した。
⑵ 弁護実践
勾留決定日に被疑者国選で受任した。
初回接見時に黙秘の方針を決定した。本件も要通訳事件だったため、商標法違反被疑事件と同様の説明をし、依頼者の賛同を得、意思表明書添付の通知書を関係各所にファックスで送信した。
⑶ 捜査機関の反応
通知書送付後刑事調べは一切行われなかった(検事の呼出し時には留置係官に説得され出房)。
⑷ 結果
勾留15日目に家裁送致され、観護措置決定が出た。審判では事実を争った。事実認定の期日で観護措置決定は取り消され、審判では不処分となった。
まとめ
強盗致傷被疑事件では、通知書を送付しただけで取調べが一切なくなった。
凶器準備集合、傷害被疑事件では、通知書を送付しただけで刑事調べはなくなった。
商標法違反被疑事件では、取調べに呼ばれても、依頼者が行かない旨告げると拒否することができた。
窃盗被疑事件では、当初説得してきた留置係官が説得をしなくなり、刑事調べはなくなった。
そして、いずれの事件でも、取調べ拒否をすることで、確実に黙秘権が守られた。
検事調べを拒否すれば、丸一日、両手錠をされたまま長椅子に黙って座り、昼食時に両手錠のままコッペパンを食べなくともよくなった。
本稿で報告した事件を始め、これまでの実践により、黙秘の方針を選択するのであれば、取調べ拒否をすることが良いし、取調べ拒否をすることはできるとわかった。
黙秘権侵害を理由とする国家賠償請求訴訟の原告である江口大和さんは、黙秘の意思を明示した後も取調べが続けられているときのことを「サンドバッグのようだった」と語った。
私も、取調べ拒否の弁護活動をするまでは依頼者をサンドバッグにさせていた。
黙秘しても質問され続け、黙秘していることを非難される。私が検事に対し、取調べについて抗議書を送ったことについてさえ、依頼者が非難されたこともあった。
しかし、取調べ拒否をすれば依頼者を無用な供述の危険や、理不尽な非難の言葉にさらすこともない。
依頼者をサンドバッグにさせないために、取調べ拒否の弁護実践を今後も重ねていきたい。
(『季刊刑事弁護』123号〔2025年〕を転載)
(2025年07月18日公開)