
去る8月10日(日)、「第5回夏のオンライン高校生文学模擬裁判交流大会」(龍谷大学札埜研究室、オンライン高校生文学模擬裁判交流大会実行委員会主催)が開催された。
今回の題材は、芥川龍之介『藪の中』をモチーフにした内容で、全国から参加した6校の高校生が検察側・弁護側いずれかの立場の役になりきり、立証・弁護活動を展開した。
その結果、優勝したのは中央大学杉並高等学校(東京都)、2位は同点で神⼾海星⼥⼦学院⾼等学校(兵庫県)と初出場の早稲田実業学校高等部(東京都)であった。
大会を主催した龍谷大学文学部の札埜和男氏は、つぎのように大会を振り返った。
「中大杉並は今年2月に実施した第5回オンライン高校生文学模擬裁判選手権にも優勝、冬夏連覇となった。2位との点数も開きがあり圧倒的な強さだった。しかしその背景には決して秘訣やマジックがあるわけではない。丁寧に原作や教材を読み込み、丹念に事実を挙げて、時間をかけてストーリーをつくり、論証を考える地道な努力の賜物である。教材と真摯に向き合っているかどうかはジャッジをしていてよくわかる。即席で模擬裁判の準備はできない。優勝したことは、中大杉並が参加校の中で一番努力を重ねたことの証。ぜひ今度は未踏の冬夏冬の3連覇を目指してほしい。
今回の上位3校は全て弁護側であった。2位は同点で神戸海星女子学院と初出場の早稲田実業。神戸海星は反対尋問が光り、潜在力を感じさせた(ぜひ「寸止め」の習得を)。早稲田実業は2人での健闘だった。出場規定では最低3名必要だが、文学模擬裁判に出場したいという熱意に打たれ、特別に出場が許された。少人数の心配を吹き飛ばす情熱と出来栄えであった。経験者不在で臨んだ上智福岡、昨年優勝の江戸川学園取手、模擬裁判自体が初となる洛星は上位3校には及ばなかったが、捲土重来を期待したい」。
また、今回のモチーフについて、札埜教授は、つぎのように思いを語った。
「『藪の中』は専門外から読むと『真相は藪の中』といったテーマのように思われがちだが、最近の芥川研究で一番重要な箇所は『その時風の吹いた拍子(ひょうし)に、牟子(むし)の垂絹(たれぎぬ)が上ったものですから、ちらりと女の顔が見えたのです。ちらりと、……』であるという。たまたま『風の吹い』て『ちらりと』見えたところに大きな意味がある、つまり、人知を超えた、たまたまの出来事により悲惨な事件が生まれたように、たまたまの出来事に人間の運命は左右されていく。この文学上の読解は犯罪学の日常活動理論と通じるものがあるといえる。今回証人の真砂には与謝野晶子と同じ時代を生き、『新詩社』五才女の一人といわれた石上露子(いそのかみ・つゆこ。大阪・富田林出身の歌人)を重ね合わせた。教科書には掲載されないが、晶子に先駆けて日露戦争への反戦歌を詠んだ骨のある歌人である。
勝ち負けや法的思考に意識はいきがちだが、これを契機により広く教養を学び人間への洞察を深められんことを大会主催者として望む次第である」。
◎出場校(五十音順)
江⼾川学園取⼿⾼等学校(茨城県)
神⼾海星⼥⼦学院⾼等学校(兵庫県)
上智福岡⾼等学校(福岡県)
中央大学杉並高等学校(東京都)
洛星高等学校(京都府)
早稲田実業学校高等部(東京都)
(2025年08月25日公開)