3 第2回会議(2025年5月30日)
再審制度の見直しが法制審に諮問された2025年3月28日の法制審議会総会において、弁護士の石原真二委員から「部会においては、えん罪被害者等の関係者やその弁護人等からヒアリングを行い、被害の深刻さや再審手続の実情等を把握した上で、スピード感を持って調査審議を進めていただき、早期に要綱をお示しいただきたい」という意見が述べられた[1]ことを受け、第2回会議では再審無罪が確定した2事件の冤罪被害当事者(本人、家族)とそれぞれの事件の弁護人からのヒアリングが実施された。対象者となったのは東住吉事件で再審無罪となった青木惠子さんと同弁護団の塩野隆史弁護士、いわゆる袴田事件で再審無罪となった袴田巖さんの姉のひで子さんと同弁護団の間光洋弁護士である。
また、再審部会の第1回会議において、宇藤委員からヒアリング対象者のカテゴリーとして提案があったもののうち、「報道関係者」に該当する日本テレビ放送網株式会社報道局社会部次長の宮下哲氏に対するヒアリングも行われた。
ヒアリングにおける対象者の発言内容は、すでに公表されている議事録を参照いただくことにして、再審法改正の内容に言及した部分を以下にダイジェストで紹介する。
【青木惠子さん】
・えん罪犠牲者のことを自身のことと捉え、真剣に考えて、証拠開示、検察官の抗告の禁止、再審開始決定後の刑の執行停止、再審の三者協議への当事者本人の立会いを、再審法改正の内容に入れていただきたい。
・えん罪犠牲者が平等に裁判を受けられる権利として、通常審の裁判のように国選弁護人制度も検討すべき。
【塩野隆史弁護士】
・再審請求者には権力はもちろん資金もない。少なくとも新証拠となりうる重要な再現実験については、裁判所若しくは国の費用で行うという制度を是非とも立ち上げるべき。
・証拠開示に関する立法的整備が不可欠であることは言うまでもない。また、再審請求審で取り調べられた証拠について、再審公判では検察官が同意しないと取調べができないとされているが、これでは再審請求審での審理の結果が無駄になってしまうので、このような取扱いも改めるべき。
・再審開始決定手続と再審公判手続の双方において検察官の不服申立てを認めるのは法的に意味がない。再審開始決定に対する不服申立てを禁止すべき。
・再審開始決定が出た事件では、誤った判断をした可能性があると裁判所が認めた以上、その点について最終的な結論が出るまでは刑の執行停止を原則とすべき。
・法曹三者や研究者を交えた場で、個々の誤判原因や再発防止について検証し、公表すべき。
【袴田ひで子さん】
・巖が釈放されて11年目になるが、いまだ後遺症は癒えていない。まともな会話もできない。弟は30歳で逮捕され、一生涯を台無しにされた。この間、国は何をしていたのか。
・巖が長く苦労したということを、せめて法律の改正ということで役立ててくれるなら、私たちにとって、こんな幸せなことはない。
「法務省の皆様、弟、巖が47年7か月頑張ってきたということを、人間として考えていただけますでしょうか。再審法改正を早急にお願い申し上げます」
【間光洋弁護士】
以下の6項目について、法整備の必要性の根拠となる立法事実を示した。
① 再審請求の手続規定がないことによる審理の長期化
打合せ期日が長期間入らず、裁判所による積極的な争点や証拠の整理も行われず、基本的には当事者の主張を待つというような態度が審理を著しく長期化させた。
② 証拠開示規定の必要性
第1次再審請求では検察官は証拠開示に一切応じず、第2次再審申立後も当初の2年間は証拠開示に応じなかった。2010年5月に任意開示に応じるも、五月雨式な開示のため審理が進まず。裁判所が2011年12月に証拠開示勧告、最終的に600点に及ぶ証拠開示が実現した。
③ 証拠の管理、保管の規定の必要性
第2次請求審段階で検察官が不存在と回答していた「5点の衣類」のネガフィルムが即時抗告審段階で警察から「発見」された。
④ 検察官の不服申立てによる審理の長期化
検察官の不服申立てより、再審請求審で長期間審理し判断された内容が再審公判で蒸し返され、巖さん、ひで子さんは、実質的に2度の裁判を強いられた。検察官の即時抗告がなければ、再審開始決定後、直ちに再審公判に進んでいたはずであり、判決まで10年以上を要することはなかった。
⑤ 刑と拘置の執行停止の規定の問題
巖さんは、逮捕から47年7か月を経て釈放されたが、釈放の10カ月後、重い胆嚢炎に加え心臓のカテーテル手術が必要と診断された。死刑の恐怖にさらされた長期間の拘束の中で、心だけでなく体にも大きなダメージを受けていた。拘置が続いていたら、無罪判決の前に命を失っていた可能性もあった。
⑥ 再審段階の国選弁護人制度の必要性
再審請求人には弁護人の援助が不可欠だが、長期間、手弁当の弁護活動をしてくれるような引き受け手を見つけることは極めて困難。弁護の引き受け手が見つからないために再審請求ができないという事態はあってはならない。特に、死刑事件では深刻な問題である。
【宮下哲氏】
・再審における審理の長期化について、何か一つの物事について結論を出すまでの期間としては、一般的な感覚からすると非常に、もう異常な長さと言ってもいいのではないか。
・長期化を防ぐ解決策の検討にあたっては、その原因の検証が不可欠。職権主義である以上裁判所による長期化の原因分析も必要である。
・再審請求審の手続規定については、何らかの規定を設けてもいいのではないか。裁判所による格差の是正と、審理の公開、可視化による迅速化が期待できる。
・真相究明、えん罪防止の観点から証拠開示は極めて重要。一定のルールの下で、現在の通常審の証拠開示と同じ程度には、再審請求審においてもルールがあっていいのではないか。
・再審開始決定に対する検察官抗告の制限については賛成・反対の意見を留保する。三審制という中で、再審請求の手続だけ検察官がその枠組みから外れてしまうのは、制度全体の整合性という点において疑問である。また、仮に検察官の抗告を禁止した場合、検察側の主張立証は再審公判において行っていくことになるが、そうなると再審請求審が短くて公判が長くなり、結局トータルで要する時間は余り変わらないのではないか。この論点については、事件の被害者・遺族の方の視点というのも踏まえて議論すべき。
上記のとおり、ヒアリングの結果は大変示唆に富むものであった。しかし、5人の対象者に対して与えられた時間は、一人10分から20分程度と極めて短いものだった。
対象者のうち、青木惠子さんと袴田ひで子さんは冤罪被害当事者及びその家族であり、再審制度の見直しを検討するに際し、その被害体験の深刻さにもっとも耳を傾けなければならない方々であったはずである。そもそも、再審部会の人選に対しては、前述の超党派議連が2025年2月17日に鈴木馨祐法務大臣に提出した「要望書」の中で、法制審のメンバーに加えるべき人材の筆頭に「えん罪被害に遭い、えん罪を晴らすために活動してきた当事者又はその家族」を挙げていたし、法制審議会の総会でも、日本労働組合総連合会(連合)会長の芳野友子委員が「部会の審議に当たっては、証拠開示の制度化と人権保護の立場から議論が深まるよう、冤罪被害の関係者や一般市民の感覚を持った委員の参画を検討いただきたい」と要望していた。
しかし、今回設置された再審部会には、冤罪被害当事者・家族は委員として選出されず、2016年改正刑訴法の検討のために設置された「法制審議会─新時代の刑事司法制度特別部会」においては、周防正行映画監督ら7名が選任されていた一般有識者も選出されていない。
事務当局は、第2回および次回第3回でのヒアリングを経て、再審部会で検討すべき論点整理を行うとしているが、このような短時間でのヒアリングのみで真に冤罪被害者の救済に資する法案を検討し、取りまとめることができるのか、懸念の残る第2回の進行であった。
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・第3回「再審法改正が実りあるものになるように(連載の趣旨)——再審制度を機能強化するための3つの課題①」(田淵浩二)
・第8回「法制審議会─刑事法(再審関係)部会のリアル②──第3回会議(6月20日)」(鴨志田祐美)
・第9回「再審における証拠開示の理論的構造」(斎藤司)
注/用語解説 [ + ]
(2025年07月08日公開)
