連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告<br>第14回——事例報告⑬ 麻薬及び向精神薬取締法違反被疑事件

連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告
第14回——事例報告⑬ 麻薬及び向精神薬取締法違反被疑事件

取調べ拒否と「被疑者取調べ未了」

増井俊輔(東京弁護士会)


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残された諸課題の一端

1 取調べを拒否しても「説得」は続く

 当初「力ずくでも、取調室に連れていく。」などとAさんに伝えるなど、少年保護法制の健全育成理念に真っ向から反する処遇があった。警察署の留置施設という勾留場所自体が、Aさんにとり危険であって、勾留場所を少年鑑別所とするよう準抗告することまで考えるべきであったと振り返っている。

 また、留置部門の警察官が、捜査事項に言及して、出室を繰り返し求めてきた。自宅の捜索差押の結果などを告げて、それらについてAさん自ら説明をすべきである旨迫ったのである。いわゆる捜査と留置の分離は、少なくとも本件では実質的に実現されていなかった。

 捜査部門の主任警察官は「取調べではないから、話をしよう。」などと言って、留置施設の大扉の小窓までAさんを呼び出して、取調べに応じるよう「説得」した。警察官は、「取調べを受けなくても不利益がないというのは建前だ。少年法は、更生の余地があるか見極めるためだけにあり、取調べを受けないことは不利益になる可能性がある。」などとも「説得」をした。

 Aさんがそれでも取調べを断るので、警察官は、Aさんの母、また離婚して離れて暮らしていた父にまで連絡をとり、「Aさんが取調べに応じないので、このままでは反省していないことになり、心証も印象も悪く、家裁で重い処分になる可能性があるから、面会して取調べに応じるよう説得してくれないか。」などとも言った。警察官からの連絡のため、両親は、「取調べを拒否するなんて、『反省』と対極の態度をとって印象が悪くなって、保護処分が厳しくなるのではないか。」「本人の利益や更生に反する活動を弁護士はしているのではないか。」などとの「誤解」に一時陥られたように拝察している。両親の「誤解」を解き、この弁護活動がどうしてAさんのためにベストであるかの説明に苦心した。

 捜査機関による取調べの強行や「説得」に対して、抗議書は提出したものの、この「暖簾に腕押し」感は何とかならないものか。書面での通知や申入れが、噓のような滑らかさで無視される。せめて、捜査機関に取調べ拒否の通知に対する弁護人の真摯さを、生の顔つきや肉声で伝えたほうがよいのかとも思い、近時は、時間が許せば、通知書や意思表明書を接見直後に警察官に手渡し、可能であれば留置主任官やその時間帯の責任者とも面談し、通知の趣旨を説明し、くれぐれも対応いただけるよう訴えている。

2 取調べを拒否しても「被疑者取調べ未了」が延長の理由に

 取調べ拒否の通知を捜査機関に対して行ったにもかかわらず、検察官が、勾留期間延長請求の際に「被疑者取調べ未了」を主張して、延長請求審の裁判官がそれを延長理由として認めているという問題もある。

 本件では、延長請求審を担当する裁判官に「被疑者取調べ未了」が理由にならないことを含めた、延長請求却下の裁判をすべき、との意見書を出したり、電話による面接を求めたりしたが、裁判官が失念して面接の機会をもらえず、さらには意見書も確認されないまま、延長の裁判がされた。延長理由に「被疑者取調べ未了」が入った。

 延長裁判に対する準抗告も棄却された。裁判所の令状事務室で決定謄本の交付送達を受けたが、原裁判が「被疑者取調べ未了」を延長理由で掲げた点についての言及はなかった。

 その際、準抗告審の裁判長が、事務室にまで来て、決定理由や、電話面接で触れた点等について、若干の説明をさせてもらいたいと申し出てくれた。勾留期間を延長すべきやむを得ない事由の存否について、祝日にもかかわらず検察庁の日直に対して確認をとるなど、当審での事実取調べを尽くしたことなどの説明があった。「被疑者取調べ未了」が延長理由として記されていないことについて、裁判長は、弁護人の主張を踏まえて検討し、勾留延長のやむを得ない事由を認めるにあたっては、「被疑者の供述内容や供述状況」を考慮の対象としないことにした、などと伝えてきた。私は、その趣旨がいまひとつ摑めず、「準抗告審は、被疑者取調べ未了を勾留期間延長の理由として認めていないということですか。」などと問うと、そのように理解して差支えない旨教示された。また、「被疑者取調べ未了が延長理由になっていないことは、この決定からは判らない。被疑者取調べ未了が延長理由にならないことを、裁判例にもあるように、明記すべきではないか。」などと問うと、「『被疑者の供述状況や供述内容』を準抗告審で考慮対象としていないところから、理解いただきたい。」などと言われ、堂々巡りになった。

 たしかに、本件の勾留裁判の準抗告審や、第1次勾留取消請求の却下裁判の準抗告審が「被疑者の供述内容、供述状況」を考慮事情に明示的に掲げていたこととの比較では、裁判長の話の趣旨は幾分か伝わってきた。しかしながら、そうなのであれば、やはり、原裁判が「被疑者取調べ未了」を延長理由に認めた違法を、準抗告審は明確にただすべきだっただろう。裁判の正当性について、歴史の事後的検証に堪えられるかどうかは、裁判書の内容そのものにかかっている。そうだとすると、いかに裁判長の真心の込められた対応を今回得られたとはいえ、非公式の談話で濁されようとする場合に、まだ私にできることがあったかもしれない。

 現に、取調べ拒否の事案で、「被疑者取調べ未了」を勾留期間延長の理由として掲げることが相当ではない旨述べる準抗告決定が、たしかに集積されてきている。先の準抗告では、高知地決令6・10・7LEX/DB25621077を添付して準抗告審に同じく正当な判断をするよう迫ったつもりである。その後、長野地決令7・6・20LEX/DB25626876、山口地決令8・1・30LEX/DB25625963、福岡地小倉支決令8・3・13LEX/DB25626875などが続いている。

 私は、捜査機関に対して、準抗告決定と、裁判長との直接のやりとりを告げて、裁判所が、ここまでの取調べ拒否の状況を踏まえて、少なくとも延長後の被疑者取調べの必要を認めていないのだから、延長後の取調べは黙秘権を侵害するものとして違憲違法だと繰り返し述べた。捜査機関は、「弁護人の『お考え』は聞いたが、必要な捜査は必要と判断して進める。被疑者取調べも必要な捜査だ」と、裁判長の言葉をも黙殺した。

 延長後も、Aさんに対する出室要請自体は、何度も繰り返された。準抗告審が、弁護人の主張を受けて、捜査機関への警告として、「被疑者取調べ未了」を延長理由から明示的に削るべきだった。そうされなかったために、Aさんは執拗苛烈な出室要請に晒され続けた。

 なお、その後の特別抗告は棄却された。

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(2026年04月19日公開)


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