⑵ 請求手続における請求人の役割と負担
しかし、請求審の手続を職権主義一色で性格づけることはできません。
再審請求審においては、唯一の当事者である再審請求人が、本質的といえる重要な役割を担っています。すなわち、①請求人の再審請求によって、請求審は始動します。②請求人は、再審請求に際して、裁判所に対して明白な新証拠を提出し、新証拠に基づき、再審開始事由に当たる具体的な事実の主張としての再審請求理由を提示しなければなりません。③請求人は、請求審において、その主張する再審請求理由を立証することを求められます。④裁判所は、請求人の主張する再審請求の理由に拘束されて、再審請求理由が認められるかどうかを判断することによって、再審開始か請求棄却かを決定します。⑤請求審の過程で、請求人は、再審請求の際に提出したものとは異なる「新たな」新証拠に基づき、再審請求理由を追加・修正することができますが、そのときは、裁判所は、請求人が追加・修正した再審請求理由の有無を判断することとなります。
法制審再審部会においては、請求人の主張する再審請求理由こそが、請求審の審判の対象だという理解も示されていました。これらの点において、請求人は、きわめて重要な役割を担っています。このことは、請求人が、重い負担を課されていることにほかなりません。請求人が担う役割の重要性からすれば、請求人がその役割を十全に果たすことができてこそ、請求手続は有効に機能することになります。
⑶ 請求人がその役割を十全に果たすことを担保する手続保障
しかし、現在、請求人は、請求準備段階でも、請求審の過程でも、捜査・訴追機関の手許に残されている不提出証拠へのアクセスを厳しく限定されており、実際に弁護人の援助を受けることも稀であるため、請求審において、その役割を十全に果たすことは困難です。請求人が課されている重い負担に配慮して、請求人がその役割を十全に果たすことを担保する手続保障が必要とされます。
請求人は、再審請求に際して、明白な新証拠を提出し、それに基づく再審請求理由を提示するよう求められていますから、本来、必要な手続保障としては、弁護人の援助を受ける権利を実質化するための公的弁護制度とともに、請求準備段階で不提出証拠への広範なアクセスを認める必要があります。しかし、これらについて、閣法も、再審議連の法案も、なんら規定をおいていません。
このような手続保障として、閣法にある裁判所に対する証拠提出命令には限界があります。提出命令の対象は、請求人の主張する再審請求理由に関連しており、裁判所の判断にとって必要とされる証拠に限られます。
福井事件においては、テレビ歌番組の放映内容に関する捜査報告書が開示され、それにより知人の目撃供述の信用性が決定的に減殺されました。この例のように、過去、請求人・弁護人が、裁判所に対して、再審請求理由と関連する範囲に限定することなく、広く不提出証拠を開示するよう勧告することを求め、裁判所がその要求に応えて、検察官に対して広く開示するよう勧告した結果、確定判決の有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠が開示され、再審開始の決定を導いた実例が多くあります。関連性・必要性の限定をかけることによって、有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠が開示されないままに終わるおそれがあります。
審理の経過に伴い、関連性があるとされる証拠の範囲が広がる可能性はあるものの、再審請求理由との関連性は、当初、請求人が再審請求に際して提示した再審請求理由を起点にして判断されます。請求人は請求準備の段階で不提出証拠にアクセスすることができず、明白な新証拠を用意して、再審請求理由を構成することが困難ですから、再審請求に際して実際に提示できた再審請求理由と関連する証拠の範囲は、限定されたものとなるでしょう。
さらに、請求人が弁護人を選任していない場合には、請求人が裁判所に提出された証拠を閲覧・謄写することは困難です。
請求人・弁護人が実際に証拠の内容を検討してこそ、提出証拠のなかに再審請求理由の立証に有用なものがあること、再審請求理由の追加・変更の基礎にすべき「新たな」新証拠があることを正しく判断することもできます。これは、再審請求の実務に携わった元裁判官らがしばしば指摘する点です。
これらからすると、請求人が担う役割を十全に果たすための手続保障として、閣法の証拠提出命令には大きな限界があるといわざるをえません。有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠が開示されないまま終わるおそれも残ります。
有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠は、日本も批准している国際自由権規約14条3項により、通常審において「防御の準備」のために開示するよう要求されています。布川事件国賠請求訴訟の判決は、裁判結果に影響を及ぼす可能性が明白な証拠については、被告人・弁護人から具体的な開示請求がなくとも、また、その可能性が明白ではない場合でも、具体的な開示請求があるときは、検察官は開示義務を負うとしていました。
通常審において開示されるべき証拠が開示されなかった場合には、有罪判決の確定後、検察官は開示義務を継続して負うというべきです。検察官が開示義務を遵守していれば、請求人は、通常審で証拠の開示を受けられたはずですから、検察官が義務に違反して開示しなかったときは、確定後、再審請求のために、開示を受ける機会を保障されるべきです。有罪認定に合理的疑いを生じさせる証拠が、より確実に開示されることを保障する手続が必要とされます。
⑷ 請求人に対する不提出証拠の開示命令手続
請求人がその役割を十全に果たすことを担保する手続保障として、請求審の過程で、裁判所が、請求人の請求または職権により、検察官に対して、請求人が開示を受ける必要のある証拠の開示を命じることができることとすべきです。このとき、不提出証拠のなかにある、確定判決の有罪認定に合理的疑いを提起する証拠は、もともと検察官が通常審において開示義務を負っていたものですから、開示命令の対象となります。
請求人は、開示された証拠にアクセスすることにより、再審請求理由の立証に役立つ証拠を獲得することができ、あるいは「新たな」新証拠を発見・獲得し、それに基づき再審請求理由を追加・修正することができます。
請求人に対する開示命令の手続は、請求人がその担う役割を十全に果たすことを担保する手続保障として働き、請求人の役割の重要性からすれば、再審請求手続を有効に機能させることとなります。
(2026年06月06日公開)
