本件被疑事実の概要
本件の被疑事実は、AがSと共謀のうえ、金融機関から預金契約上の地位およびキャッシュカードを詐取しようと考え、第三者に利用させる意図があったにもかかわらず、これを秘し、当時Aが代表を務めていた会社X名義の普通預金口座の開設およびこれに伴うキャッシュカード等の交付を申込み、金融機関からキャッシュカード等の送付を受け、もって人を欺いて財物を交付させるとともに財産上不法の利益を受けたものである。
弁護人選任までの経緯
1 Aさんについて
Aさんは、日本の永住権を持つ中国籍の男性である。Aさんは東京の大学を卒業後、都内において、X社とは別に、弁当販売を業とする会社の代表取締役にも就任していた。
2 逮捕および取調べの経緯
2023年10月1日午前9時頃、上記の被疑事実で東京の自宅にて逮捕され、そのまま羽田空港から小倉の警察署に飛行機にて押送された。
Aさんは、羽田空港内の警察署において、警察官に対し、「弁護士はどうなるんですか?」と尋ねた。しかし、警察官は、「北九州に着いてから詳しく話す」「ここでは何も言えない」と回答し、弁護人選任権に関する説明を行わなかった。
同日午後8時頃、Aさんは小倉の警察署に押送された。この時点で、警察官は、Aさんに対し、弁護人選任権の告知をした。その後、すぐに取調べが始まり、取調べが終了したのは翌日午前1時20分頃であった。
Aさんに対する取調べが行われた後、取調官が、作成した供述調書に誤字脱字がないか検討すると述べ、取調室のすぐ外にて他の警察官と会話をした。警察官の会話が終わった後、取調官が取調室に再度入室し、供述調書をAさんに見せた。しかし、その供述調書内には、Aさんが供述した覚えのない「私は後悔と反省をしています」という文言が入っていた。当該文章について取調官はなんら説明を行わず、供述調書の読み聞かせも行わなかった。Aさんは、この供述文言を調書の定型文言と誤解して署名押印をした。
最後に、Aさんの身体検査が行われ、Aさんが留置の房に入ったのは、午前3時30分頃であった。
弁護人選任後の活動
1 初回接見
私は、当番弁護士として出動し、初回接見は、検察庁で行った。検察官取調べが行われる直前に接見が実現し、Aさんが否認であることを確認し、黙秘を指示した。
2 出房拒否の指示
Aさんに対する取調べは長時間にわたっており、もとより会話好きなAさんが黙秘を続けることによる精神的苦痛は非常に大きいものであった。私は、Aさんがこれ以上黙秘を続けることは困難と考え、勾留決定日の朝、Aさんに取調べ自体を拒否し、房から出ないよう指示をした。
3 身体拘束からの解放について
本件では、被疑事実が特殊詐欺に近い犯罪類型であること、共犯者が存在すること、Aさんが否認している状況を考慮すると、勾留が長期化することは避けられないと考えた。しかし、Aさんが頑張って出房拒否しているのだから、私も頑張らねばと思い、勾留理由開示、勾留に対する準抗告、上記取調官の違法取調べに対する抗議および立会申入れ(内容証明郵便にて警察署に送付)を行った。
後日、これらの書面は検察官のみならず取調官も読んでいることがわかり、捜査機関側に有効な牽制となっていたことがわかった。なお、Aさんによれば、取調官は憤慨していたようである。
(2026年07月19日公開)
