冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第28回

冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第28回

再審制度の存在意義と証拠開示手続

再審法改正案の国会審議の動き(その2)/5月29日・衆議院法務委員会② 

葛野尋之 青山学院大学教授


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⑸ 証拠一覧表の提出命令手続

 請求人が開示請求権を実効的に行使しうるようにするために、また、開示手続を円滑化・効率化させるために、裁判所が、請求人の請求または職権により、検察官に対して、検察官の保管する証拠の一覧表の提出を命じなければならないとする手続を設けるべきです。提出された一覧表については、弁護人の閲覧・謄写を認め、弁護人がいない場合には、請求人に交付すべきです。

 請求人および裁判所が、検察官がどのような証拠を保管しているのかを把握できてこそ、請求人は開示請求権を実効的に行使することができ、裁判所も開示を命じるべき対象を正確に判断することができます。過去の実務が示しているように、請求人が検察官の保管証拠を把握できないまま、保管証拠を想像していわば手探りで、開示請求をするならば、開示まで長時間を要して、非効率であり、また、開示されるべき証拠が未開示に終わるおそれを生みます。2016年の刑訴法改正により、通常審の公判前整理手続において、証拠一覧表の開示手続が設けられたことに倣うべきです。

 法制審再審部会においては、証拠一覧表の開示手続の提案に対して、裁判所が請求人の主張する再審請求理由の有無を判断するという請求審の構造に整合しないという批判がなされ、閣法は、裁判所が提出命令を発するかどうかを判断するために一覧表の「提示」を命じる手続を設けるにとどまりました。しかし、いま必要とされる一覧表の提出手続は、請求人が主張している再審請求理由と関連する証拠には限定されない、請求人のための証拠開示の手続を円滑化・効率化し、請求人の開示請求権を実効化するためのものですから、閣法の裁判所に対する証拠提出命令を前提とした先の批判は妥当しません。

 再審議連の法案は、請求人の開示請求の前提として、「送致書類目録」の開示を定めていますが(444条の4)、証拠一覧表ではなく、「送致書類目録」の提出手続とすることも可能でしょう。

 証拠一覧表の提出命令は、閣法にある証拠提出命令についても、請求人が請求権を実効的に行使することを保障し、手続を円滑化・効率化することに寄与します。この点からも、是非とも創設すべき手続です。

⑹ 訴訟指揮権による開示命令・開示勧告および任意の提出・開示との関係

 裁判長の訴訟指揮権(刑訴294条)に基づく開示命令を発することができるかについて、検察官は消極的立場をとっていますから、開示命令を定める規定をおく必要があります。

 法制審「答申」は、「附帯事項」として、裁判所に対する証拠提出命令を制度化した後も、裁判所による証拠提出・開示の勧告、検察官による任意の提出・開示が、適切に行われることが期待されるとしました。このことは、法制審「答申」が、請求人のための証拠開示が必要・有用であって、請求人の必要に応えるための証拠開示が、裁判所の判断のための証拠提出命令と併存しうることを承認したことを意味しています。

 しかし、従前の運用からみると、やはり大きな限界があります。請求人にために開示されるべき証拠が十分に開示されることを保障するためには、開示命令の手続が必要です。

 実際、提出・開示の勧告に対する積極性には、裁判所により大きな差異がありました。検察官は、裁判所の開示勧告に従わないこともありました。また、任意の提出・開示の対象についても、再審請求理由との関連性を要求することもありました。閣法における証拠提出命令の存在によって、そのような限定の可能性が、いっそう高まるかもしれません。開示命令の手続を設けることは、裁判所の提出・開示勧告、検察官の任意の提出・開示の実効的な機能を担保することとなるでしょう。

 従前の実務において、裁判所の提出・開示勧告も、検察官の任意提出・勧告も、裁判所、検察官により自発的になされていたわけではありません。請求人・弁護人の請求に応えて、行われてきました。請求人・弁護人がこれらの請求を効果的に行うことができるようにするためにも、証拠一覧表の提出命令の手続を設けるべきです。

⑺ 請求人開示命令と裁判所提出命令の併存

 新設を提案しました請求人に対する証拠開示の命令および証拠一覧表の提出命令と、閣法にある裁判所の判断のための証拠提出命令とは、目的・根拠・対象において異なるものです。それゆえ、両者は併存が可能であり、併存させるべきものです。裁判所の判断のために必要な証拠の提出を命じる閣法の証拠提出命令と、請求人が請求手続において担う重要な役割を十全に果たすことを担保するための証拠開示命令という両手続が共に働くことによって、再審請求手続の有効な機能が保障され、再審は迅速かつ確実な誤判の是正・無辜の救済という目的をよりよく果たすことができます。

 以上で、私の意見陳述を終わります。ありがとうございました。


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(2026年06月06日公開)


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