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『オアシス・インタビュー』第5回 柴田守 氏に聞く

性犯罪の量刑の実証研究からみえてくるもの

裁判官や裁判員はどのように量刑を決めているのか


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3 性犯罪についての量刑判断

—— 現在、裁判所では量刑検索システムを作っていて、それを使って裁判員に説明しているようです。その問題点については、あとで話をお聞きしますので、最近の先生の研究である「性犯罪についての量刑判断」についてお尋ねします。先生は刑期判断という言い方をされていますが、まず性犯罪を対象にした理由はどんなことでしょうか。

柴田 現在は、性暴力や性犯罪について非常に興味があります。そのきっかけは、これも7年以上前ですが、刑法の性犯罪規定を全面的に見直すべきだという運動が非常に高まっていました。私どもの研究グループで、岩井先生主が代表を務める女性犯罪研究会という研究グループがあって、私は岩井先生の門下であるので、そこに入っていました。

 私の研究テーマは、そもそも性暴力・性犯罪ではなく修復的司法で、被害者のことを中心にずっと研究していました。ただ、当時は性暴力・性犯罪の被害や被害者には直接には関わっていなかったので、研究会に出て勉強するというぐらいでした。

 当時、妹弟子であった大学院生が、岩井先生から性犯罪の非親告罪化について研究テーマを与えられていたのですが、彼女は修士過程まで岩井先生の所にいましたが、ほかの大学に移ったので、研究テーマが変わりました。そうしたら、親告罪は重要なテーマの一つだったのにやる人がいないということで、私にお鉢がまわってきました。

 当時、性犯罪の非親告罪化が議論になっていましたから、そのときは非親告罪化の論拠をいろいろな形で組み立てていったのですが、実定法だけの問題ではなくて手続法的な問題などもあって、結局、性暴力・性犯罪そのものを勉強することになりました。ただ、これがきっかけとなって、性暴力・性犯罪対策について学術的関心を強くもつようになりました。いまでは、婦人保護事業との関連で性暴力被害の実態調査をしたり、ワンストップ支援センターの現状や今後のあり方などを調査しています。

 あと、そのときにもう1つ与えられたテーマが、性犯罪の公訴時効の停止制度についてでした。子どものとき虐待を受けていても長年言い出せなかった。後に訴えようとしてもそのときはもう公訴時効が成立していて、公訴を提起することができない。それでは、刑事責任を問うことができないということで、たとえば未成年の間は時効を停止させて、成人になってから進行するというものです。ドイツやフランスではすでに制度化されていますが、それについて研究しました。これもきっかけの1つです。

—— 具体的にどんな方法で性犯罪の量刑判断について調査をされたのでしょうか。

柴田 手順として、性犯罪事案の裁判例を集めることからはじめました。TKCが提供しているLEX/DBインターネット(判例情報データベース)と、裁判所のホームページに掲載されている裁判例の2つのデータベースから集めました。対象は、強姦(強制性交等)、強姦致傷(強制性交等致傷)などに関する性犯罪事案の裁判例で第一審で有罪となり、有期懲役(執行猶予を含む)に処された事案213件です。2019年5月19日までの時点で収録されているものです。ちょうど平成から令和の時代になり、区切りがいいということで平成年間のものを集めました。

 そのつぎに調査票を作りました。そこでは、現代人文社とTKCとで提供している刑事事件量刑データベース1)を参考にしています。これがよくまとまっていて、基本的なことを整理するのに非常に役立ちました。それを参考にして、先程の200件以上の判決書を読み込んで、試行錯誤して、量刑因子を分類した調査票を作りました。

 たとえば、量刑因子を大きく(1)性犯罪の犯情、(2)犯行後の行為、(3)すべての性犯罪の被害者数、(4)一般情状、と分類しました。(1)をさらに被害者との関係(子、配偶者、交際相手など)、姦淫行為、共犯関係、被害結果、動機(男女関係、自己保身。発覚のおそれ、わいせつ目的など)、犯行場所(被告人の住居、被害者の住居など)、精神症状、心神耗弱、被害者の落ち度、薬物、計画性、組織性に分類します。詳しくは表1を参照してください。

 そのあと、もう一度、この判決書を読んで、エクセルで作った調査票に実際に記入していくという作業です。そこはアシスタントにお願いしました。具体的には大学院生ですが、書き入れてもらって、記入漏れがないかどうかを私がチェックしていくというダブルチェックの形でやりました。

 エクセルに入力してあるので、そのローデータを統計解析していきます。そこで出てきた数字を検討してまとめたのがそれ(表2)になります。表2は、刑期判断に影響のある量刑因子(予測モデル式)を示したものです。統計解析の結果、❶すべての被害者数〔3-①、3-②、3-③、3-④〕と、犯情が最も重い性犯罪に関する傷害の有無や程度〔1-④〕によって、刑期の基本的位置づけが決定し、❷性犯罪で犯情が最も重い犯行に関する、〈被害者の落ち度(1-⑩)〉、〈飲酒(1-⑪)〉が、上記❶の犯情要素で決定した基本的な位置づけに対する修正的な要素として影響を与えて、刑期の枠を決定しており、そして、❸〈示談(4-⑥)〉、〈再犯可能性(4-⑪)〉、〈若年(4-⑭)〉などが、一般情状として、上記❶及び❷の犯情要素で決定した刑期の枠に対する修正要素として影響を与えて、最終的な決定をしているという判断構造が明らかになりました。

—— 量刑因子を一つ一つ調査票に入力して、それを解析し、そこから出てきた調査結果からどのようなことがわかりましたか。

柴田 ここからいくつか分かってきました。1つは、性犯罪の刑期(刑の期間)を決めるのは、「被害者の数」と「犯情が最も重い性犯罪に傷害があるかどうか」が中心となっていることです。

 法定刑だと、致傷罪は別類型で、傷害が付くか付かないかで罪名は変わりますが、実は非常に微妙なところではあります。ですから、同じ性犯罪というカテゴリーで、致傷が付くかどうかを点数化してみると、結構当てはまりがよくて、結果的に見ると、傷害があるかどうか、また、傷害の程度で刑の基本的な位置付けを決めているということが分かってきました。平たく言うと、1回の強姦より、何人も被害者がいるようなものを重くしていくというような、被害結果を中心とした位置付けで決めている傾向が見えてきました。

 これは2019年10月に日本犯罪社会学会で報告(「平成年間における性犯罪の量刑基準」)しました。報告内容はおおよそつぎのようなことです。  性刑法を改正する際の議論において、重罰化、厳罰化の議論がありましたが、そのときの議論の前提となっていたのが、実務においてだんだん重くなっている傾向があるということでした。

 度数分布の山が、右側というか、重い側に動いているのでそういうふうに見ていましたが、ただ、そこの問題点の1つとしては、犯罪内容を問わずに量刑だけ見ているわけですから、同じような犯罪者が、毎年、同じような犯罪を行っているという前提になるわけです。それには相当違和感があって、特定した対象から得られた相互に関連する多種類のデータ(変数)を総合的に要約したり、目的変数を決めて、将来の数値を予測したりといった統計解析作業(多変量解析)を行って見ていかなければいけないという問題意識をずっと持っていたので、ここでやってみようと思いました。

 多変量解析を用いると、具体的には、私が導き出したモデル式から予測した刑が出てくることになりますが、それによって、実際の刑との残差(実際の刑(実測値)-予測した刑(予測値))も出てくることになります(表3)。表3は、表2の予測モデル式から算出した213例の標準化残差をもとに、量刑(宣告刑)の傾向に関する平成年間(2002年-2016年)での経年変化を示したものです。❶強姦罪の法定刑の下限の引き上げ、集団強姦罪の新設、併合罪加重の上限を30年に引き上げた2004年を基準とした〈2002年‒2005年〉は、〈以降〉の平均値や中央値はいずれも上昇していること(なお、〈以前〉については、法定刑が重罰化される前であるため、低下は想定の範囲内であって、考察から除外している)、❷女性に対する暴力に関する専門調査会で性暴力/性犯罪が重点的に議論されるようになった2011年を基準とした〈2005年‒2013年〉は、〈以降〉の平均値や中央値はほぼ横ばいであるのに対して、〈以降〉の平均値や中央値はいずれも上昇していること、❸法務省の性犯罪の罰則に関する検討会が開催された2014年を基準とした〈2014年‒2016年〉は、〈以降〉及び〈以前〉の平均値や中央値が、〈2005年‒2013年〉に比べると若干上昇していることから、量刑(宣告刑)が一貫して緩やかな重罰化傾向にあったことが明らかになりました。

 ただそのままだと、重い犯罪だったら差が大きくなることになります。それは、実際の開きだけを並べて行列すると、ちょっと変なことになってしまうので、標準化残差を算出します。標準化残差というのは、簡潔に説明すると、近似的に平均0、分散1の標準正規分布に従って残差を計算したもので、回帰分析に利用される指標の一つで、主に外れ値の存在などをチェックするのに用いられます。それを応用して、年次別に、逆に、それがどの程度広がっているかどうかを検証しました。結果として、やはり過去より広がりができている。つまり、重くなっているという傾向が見て取れたのです。

 性犯罪に関する改正に関する議論が高まっていったのがおよそ2011年辺りですが、その時点で既に性犯罪の量刑は緩やかな重罰化、厳罰化の傾向にあったということを結論づけました。それが、分かったことの2点目です。

 3つ目として、2019年11月に専修大学で開かれた日本犯罪学会で報告(「犯行類型別にみた性犯罪事件の量刑傾向」)をしたのですが、そこでは、類型的に見てみようと考えました。どういう類型かというと、例えば、連続強姦型、幼児性愛型、配偶者犯行型というような、犯行類型別に見たものです。

 表4を見てください。表4は、表2の予測モデル式から算出した213例の標準化残差をもとに、犯行類型別にみた量刑(宣告刑)の傾向を示したものです。全体の標準化残差の平均値(0.00)、中央値(-0.08)を基準に、❶全体標準化残差の平均値and/or 中央値に近似する犯行類型、❷標準化残差の平均値and/or 中央値が0.3以上の犯行類型、❸標準化残差の平均値and/or 中央値が-0.3以下の犯行類型に分類しました。この結果から、有期刑の刑期判断基準の標準モデルが、❶を中心に組み立てられていること、そして、❷の〈性的虐待型〉、〈教師・指導者犯行型〉、〈幼児性愛型〉については、刑期(宣告刑)が比較的重くなる傾向にあり、他方で、❸〈配偶者・交際相手犯行型〉、〈対知的障害者犯行型〉、〈友人・知人犯行型〉、〈SNS 犯行型〉については、刑期(宣告刑)が比較的軽くなる傾向が明らかになりました。ここで、 非常に興味深かったのが、配偶者や交際相手であった/である者に対する犯行は、一般的な量刑よりも軽く評価されているということです。また、サンプルはちょっと少なかったのですが、知的障がい者に対する犯行も軽く評価されている傾向がありました。それに対して、性的虐待や指導者の立場を利用した犯行については少し重く評価されている傾向が見えてきました。

 関係者別での性犯罪の類型をどう作るかは、刑法改正の際も議論されました。おそらく今後も確実に議論されると思いますので、その意味では、今回出てきたことは参考にはなるデータかなという気はします。今のところは、こうしたものが分かっています。

—— 今の3つの点が分かってきたということですが、そうしたデータは、立法政策でどのように参考になるのでしょうか。

柴田 1つの例を言うならば、配偶者に対する性暴力は、他と比較すると、司法の中で軽く見られています。

 議論の中で出てきたのは、検察も裁判所も配偶者に対する性暴力、性犯罪というのは、当時は強姦罪ですけど、それは否定していませんでした。学説も、かつては、「成立しない」という学説がありましたが、現在の中心的な学説は、「否定していない」という状況です。夫婦には貞操義務がありますが、性的自己決定権までを否定するのは行き過ぎで、「嫌なものは嫌だ」と言えなければいけない。だから、夫婦間であっても、性暴力、性犯罪は成立することを明文化する必要があるのではないか。今(表4)示した一つのデータは、「そんなに軽く見ちゃいけないんじゃないか」という根拠にすることが考えられます。

注/用語解説   [ + ]

(2020年10月05日公開) 

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