刑事弁護の情報と知が集まるポータルサイト

『オアシス・インタビュー』第5回 柴田守 氏に聞く

性犯罪の量刑の実証研究からみえてくるもの

裁判官や裁判員はどのように量刑を決めているのか


1234

4 量刑研究の難しさ

—— こうした調査には、基本的なデータが非常に重要になると思います。先ほどそれを入手することがすごく大変だということをおっしゃっていましたが、そのほかこの調査の中で特に苦労した点はどこでしょうか。

柴田 数は限られていますが、今は判例データベースがありますので、それによって集めるのは、比較的簡単になりました。

 集めることは前より容易になりましたが、変わっていないのは、判決書を読んで、それを調査票に記入していく作業です。これはまだ自動化ができていません。それは非常に骨の折れる、人とお金がかかる作業です。そうした汗を流すからこそ出てくるデータは非常に価値があるので感動がありますが、やっぱりこれが一番きついです。

 2つ目には、調査票を作ることです。調査票は、「こうだ」というものが示されているわけではなく、いろんな事情がある中で、解析の中で取捨選択することはできます。ただ、記入していく中で漏らしていたらそれはもう分析にかけられないので、極力多くの情報をとっていきながら作っていきます。

 そして、記入する前に200件以上の判決書全部に目を通して、仮説を立てながら因子のサブカテゴリーを設定する。これも結構骨の折れる作業です。
 仮説を立てて、検証して、あと、統計解析で結果が見えるので、「やっぱり、はまっていたな」というのは、それはかなり報われる作業です。調査票の作成と調査票の記入の2つがとても苦労するところです。

—— この調査は、データ自体はどのぐらい数があれば、十分なんでしょうか。

柴田 そのことは調査の肝です。理想は、全数調査です。分母と分子が同数であるというのが一番いいです。それは結果が全て見えるので、それが理想です。TKCから、現在、全裁判の10%ぐらいを集めていると聞いています。

 どうしても付きまとう問題は、その収集は、ランダムにサンプリングしているわけではなくて、ニュースなどで取り上げられたもの、先例として重要ものなどが選択されています、どうしても偏りが出てくる可能性はあります。  そこで、裁判員裁判に関しては最高裁が分布表を示していますので、私の集めたものについての分布表と比較してみると、母数はもちろん違いますが似たような山であるので、ばらつきはだいぶ抑えられている気はします。

5 最高裁の量刑検索システムの公開を

—— 最高裁で作っている量刑検索システムは、一般に情報公開されていないのではっきりしたことは分かりませんが、裁判員裁判の各裁判官が自分の担当した裁判の情報を入力していると言われています。本来は、比較できるという意味でも公開されているのが一番いいと思います。そのシステムと比較して、柴田先生が行った調査結果とそんなに大きな隔たりはないということですか。

柴田 ないと思っています。200件以上のサンプルを使っての今回の結果ですが、その予測モデルの当てはまりが非常によかったからです。もちろん、もっとサンプルを増やせば信頼性は高まっていくと思いますが、少なくとも当てはまりのいい予測モデルができたので、おそらくそんなに変わっていない気はしています。

 同時に、実務でもそんなに難しくは考えていないということもそこから分かるわけです。例えば、私の研究では量刑因子は40個以上ありますが、40個もあてはめながら計算することは、とても人間の頭ではできないことです。実務でも、おそらく、「被害者何人」とか、「傷害付いてるから」ということで、「これぐらいだ」と予測するしかないと思います。これまでの実務の蓄積は、そういうことだろうと考えています。

最高裁判所全景(東京・隼町)

—— その量刑検索システムですが、公開したほうが、国民がそれを見てチェックするとか、あるいは研究のためにも非常にプラスになると思います。現在は公開していませんが、その点について何か希望があれば。

柴田 そのとおりです。裁判の公開原則という面から考えても、できれば公開してほしいと思います。
 傍聴できる数は限られています。多くても100人いくかいかないかです。ニュースで、全部報道されているわけではありませんから、仮に100人に公開したからといって、「みんなに公開していますよ」ということはとても言えないと思います。

 ただ、その一方で、被告人のプライバシーに関する点で限界はあると思います。最高裁はそうした懸念を非常に広く捉えています。今はインターネットの時代で、いったん公開されると、ずっと残るし、場合によっては独り歩きしてしまう可能性があるので、その懸念とのバランスを考えなければいけないという気はします。

 参考になるのは刑事確定訴訟記録法です。その9条2項では「学術研究のために必要があるときは閲覧が認められる」ということです。少なくとも、それを参考にして、少し開放してくれてもいいのかなという気はしています。

—— 今までそれを利用したことはないですか。

柴田 この研究ではないです。事件番号が分からないと請求できないので、使い勝手がいいとは言えません。

—— 事件番号を知るのはむずかしいと思います。担当の弁護士から聞くしかないですからね。

柴田 かつて交通犯罪の量刑研究や殺人に関する研究で、未公刊の判決書を入手して実証研究を行ったことはあるのですが、しかし、これは指宿先生が本の中(指宿信『法情報学の世界』〔第一法規、2010年〕)で書いていますが、第三者があとで検証できないという限界があります。われわれは、集めた判決書を皆さんに、「どうぞ」と見せられないので、のちのちに第三者が検証できない。それは科学的かどうかという批判が出てくるのは当然です。少なくとも学術目的にもうちょっと開放するかたちがあるべきだろうとは思います。

 われわれは、非常に高い倫理観を持って調査・研究に取組んで、その結果を一般の人に分かりやすく伝えることは責務だと思ってはいますので、最高裁に検討いただきたいところです。

(2020年10月05日公開) 

1234
用語解説

こちらの記事もおすすめ