1 はじめに
本特集「冤罪(誤判)と再審法改正の最前線」は、長きにわたり再審制度を研究してきた研究者たち──指宿信教授、田淵浩二教授、中川孝博教授、水谷規男教授、葛野尋之教授によるリレー執筆の形で進められてきた。
本来であれば、上記の各教授の意見は、本年3月28日に法務大臣が「再審制度の見直し」について諮問した「法制審議会─刑事法(再審関係)部会」(以下、「再審部会」)で述べられるべきものであろう。再審部会には、14名の委員と9名の幹事、関係官2名の合計25名が選任されている。このうち、委員6名、幹事2名、関係官1名の合計9名は研究者であり、全体の3分の1以上を占めている。
しかし、その中に上記執筆陣各位は一人も選任されていない。再審制度について議論する場に、再審制度のスペシャリストが呼ばれていないのである。委員の人選は、法制審議会(親会)の一任を受けた同会長から指名されるという形を取っているが、部会では議題の選定も、スケジュールの調整も、配布資料の取りまとめも、そのほとんどが事務局を担当する法務省刑事局のお膳立てのもとで進められていることからすると、研究者委員の人選がどのように行われているかは推して知るべし、である。
話が脱線したが、この特集の主眼は、本来法制審のメンバーに加えられるべきであった再審制度の専門家たちが、議事録等を手掛かりに、あるべき再審法改正の観点から再審部会の議論を批判的に検討する点にあると思われる。もっとも、再審部会の会議は非公開で行われ、後に議事録が公開されて初めて、個々の委員・幹事らの具体的な発言が判明するところ、第1回会議(4月21日)の議事録が公開されたのは、1カ月後の5月20日、第2回会議(5月30日)の議事録が公開されたのは、20日後の6月19日である。このタイムラグが、時機を得た批判的検討の障壁になってしまう。
そこで、本特集における筆者の役割は、委員として直接見聞した再審部会のリアルを、なるべく早く世に明らかにし、「蚊帳の外」に置かれた専門家たちが適時に検討できる手がかりを提示することである。
現時点で再審部会は第3回までが終了しており、第2回までは議事録も公開されている((第1回会議議事録〔https://www.moj.go.jp/content/001439134.pdf〕、第2回会議議事録〔https://www.moj.go.jp/content/001441513.pdf〕。))。そこで本コラムの前半で第1回、第2回の内容をダイジェストでお伝えし、後半では現時点で議事録公開未了の第3回会議について報告することとしたい。
2 第1回会議(2025年4月21日)
【諮問の経緯・趣旨等】
第1回会議では、部会長の選出などの事務的な手続が行われた後、法務省刑事局参事官の中野浩一幹事が諮問事項(諮問第129号)((https://www.moj.go.jp/content/001437779.pdf))を朗読したのに続き、法務省刑事局刑事法制管理官の玉本将之幹事が、諮問に至った経緯及び諮問の趣旨等を説明した。この説明には以下に示すとおり、再審制度の見直しにあたっての法務省のスタンスが色濃く出ている(特に留意すべき点について、筆者においてカギ括弧を付した)。
・再審は、「十分な手続保障と三審制の下で確定した有罪判決」について、なお事実認定の不当などがあった場合に、これを是正する制度である。
・法改正を求める意見が示され、再審制度の在り方について様々な議論がされるなど国民の関心が高まっている一方で、再審請求には「請求が不適法であるものや主張自体失当とされるものなどが相当数存在する一方で、本格的審理が必要となる事件はごく一部」であり、再審制度の在り方を検討するに当たっては、こうした実情も十分踏まえる必要がある。
・再審手続が「非常救済手続として適切に機能することを確保する観点」から審議すべき。
・規律の在り方については、「確定判決による法的安定性の要請と個々の事件における是正の必要性」の双方を考慮しつつ、「様々な角度から慎重かつ丁寧に検討」すべき。
次いで、再審手続に関する規律の在り方を検討するに当たっての視点、考え方や、今後検討すべきであると考えられる事項について、委員・幹事が一人ずつ発言した(発言の順番は五十音順)。各人の発言については公開されている議事録を参照いただくことにして、ここでは再審部会における今後の議論の展開を予測させる発言の要旨を抜粋しておく(特に問題視されるべき発言について、筆者においてカギ括弧を付した)。
【再審制度全体について】
・(再審制度の見直しは)「再審手続の構造との整合性」、「その導入が翻って通常審の在り方、取り分け確定判決の位置づけに与える影響」を考慮の上、「再審を含む刑事司法制度が、全体としてその適正を実現するものとなるべきであるとの視点」に立って検討されるべき(池田公博委員)
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(2025年07月08日公開)