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第1回遠山大輔弁護士に聞く

刑事弁護が性に合っている

先人たちの知恵と努力の継承

京都の法律事務所にて。2018年12月3日


刑事弁護の現状はどうか

——1990年代終わりころから10年間くらいは、弁護士会は当番弁護士制度をつくり、捜査弁護に熱心に取り組んできました。現在、刑事弁護に関していうと、被疑者国選弁護制度が全勾留事件に拡大されたように量としては確保されていると思うのですが、質に不安があります。『季刊刑事弁護』では特集「黙秘が武器になる」79号9頁して「黙秘が原則だ」ということをいつも言っているのですが、「しゃべったほうがいいよ」みたいに言っている弁護士が結構いるんだということを元被疑者からよく聞くんです。

遠山 それはそうでしょうね。そのほうが楽ですからね。しかし、捜査側の手の中で思いどおりにやらせて、いいことなんかひとつもありません。その理由のひとつは、先輩の先生と一緒にやって、黙秘でやったら成果が出るんだってことを具体的に知らないからでしょう。その意味で言うと、被疑者国選制度が足かせになっているのではないでしょうか。私選弁護が減りましたから、先輩と後輩が一緒に事件をやる機会がなくなったんです。簡単な覚せい剤自己使用1回目の事件も、昔はそれが当番で来たら、ボス弁とイソ弁で、私選で共同受任ができたんです。ところが、今の被疑者国選制度だと基本的に弁護士1人だと決められています。弁護人でなかったら記録をおおっぴらに読むわけにもいかないし、先輩に聞くわけにもいかないし、一緒にやれないんです。これは、質の低下の一因かもしれない。

われわれ弁護士が全体的に斜陽産業なので、まさに食いぶちのためにやっている面は否定できませんが、食いぶちのためでもちゃんとやってくれたらいいんだけれど、若干効率性を重視してやっている人もいるのだろうなと思います。

——遠山さんは、最近事務所を独立されていますが、事務所経営上における刑事弁護は、マイナスの要素が高いんですか。

遠山 それはそうだと思います。私は、刑事事件をやらない自分が想像できませんが、それなりにほかの所で稼いでおかないと、事務所経営はちゃんとできないだろうと思います。残念ながら。

——年間の報酬総額でいうと、「刑事」と「民事」と単純に分けたときのパーセンテージはどのぐらいなんですか。

遠山 刑事は多分2割、3割ぐらいです。

——弁護士10年目ぐらいになってくると、事務所経営の問題もあって、「刑事(弁護)をやめる」とはっきり宣言する人も結構います。遠山さんは刑事弁護は天職だということで続けられているのだと思いますが、何か続けられる秘訣(ひけつ)があるんですか。

遠山 刑事でもうかっているという感覚は正直言ってないです。他の人よりはもらっているという気はありますけど。だからといって、何か特別なことをやっているということもないんです。強いて言うなら、事件であれば何でもやっているということですかね。

——「何でも」っていうのはどういう意味ですか。

遠山 奈良弁護士会の髙野嘉雄先生1)が、大阪弁護士会の森直也先生が独立した直後の飲み会で言っていたことですが、「弁護士10年まじめにやっていたら、2件だけでかい事件が来る。絶対来る。だから事務所をやっていける」と言っていたんです。これは私の経験上、当たっているんです。今のところ、15年やってでかい事件が2.5件ぐらい来ましたから。

そのでかい事件は民事で、刑事ではないですが、財政的には安定できるというか、少なくとも、事務所はやっていけるだろうと思います。

——事件は何でも引き受けるといっても、やくざ関係の事件は受けないという弁護士もいます。そういうことはあまり気にしないんですか。

遠山 京都弁護士会の竹下義樹先生や、昨年亡くなられた塚本誠一先生から言われたことですが、「『何を』じゃなくて『いかに』弁護するかを考えろ」と、「やくざ守らん。新左翼は守らん。左翼は守らん。右翼は守らん」と言っていたら、最後は誰もいなくなるんです。結局、聖人君子しか守らないみたいな話になる。相手は選ばないというのが、私の特徴だと思います。もちろん、忙しくてお断りするときはありますけど。

難しい黙秘権の説明

——最後にお聞きします。昨年の秋にあった京都・当番弁護士を支える市民の会の解散式でも話題になったことですが、黙秘権を一般市民に説明するというか、理解してもらうのは、すごく難しいと思います。普通の人は、しゃべるのが当たり前だと思うわけだし、特に自分がやっていないと思っている人は積極的に捜査官に話をして無実を晴らしたいと思います。その心情は理解できます。黙秘権について聞かれたら、どんなふうに説明されるんでしょうか。

遠山 今、被疑者の人に、あるいは大学の授業では、京都弁護士会の池田良太先生のやり方をまねして、こう説明しています。つまり、「真実を明らかにしたかったら黙っていなさい。あなたが黙っていれば、警察がより客観的な証拠の収集に力ます。日本の優秀な警察が、あなたが関わっていないということを証拠で明らかにしてくれます。それなのあなたが曖昧な記憶や勘違いや言い間違いで、要らん説明を加えてしまうと、捜査が歪んでしまって、余計に危ない。むしろ害です」と説明するんですね。これが被疑者や学生の心にすーっと入り込むんです。この説明を受けた被疑者は、完黙できます。

この前、ある被疑者に、このような説明に加えて、取調べで質問への反応すらしないでください」と助言したんです。被疑者がそれを守ってずっと微動だにせずじっとしていると、検察官が黙秘権について被疑者に説明しはじめたんです。「あ、黙秘権ね。権利としてはあるよね。憲法にも書いてあるけどね」「黙秘権っていうのは、その昔、拷問みたいなことで自分に不利なことを言わされた人がいて、できたんや。だから、自分に有利なことは言っていいんですよ」って説明するんです。ちゃんちゃらおかしいですが、これにされる人もいると思うんですでも、さっきの池田メソッドでやると大丈夫なんです。

もう一つは現行犯パターンです。これも結構誤解している方が多いんです。「他人の、警察官の手を介して自分の認識とか意見を記録に残すことは無謀です。正確な記録を残したかったら、黙っていてください。証拠の開示を受けた後、資料を見ながら間違いのないようにやりましょう。これも結構被疑者の頭に入るんです。

このように、黙秘権ひとつとっても、先輩や仲間の弁護士からいろいろな刑事弁護に関する知恵を学んで育ってきたという思いがありす。特に京都弁護士会では、若松芳也先生2)がいてくれたから、接見がスムーズにできます。先輩たちが接見妨害に抗して闘ってきた、まさにその恩恵のもとに私たちは刑事弁護を十分やらせてもらっています。そういった先人たちの努力が台無しになるようなことだけは避けたいと思っています。

——どうもありがとうございます。

(終了)

注/用語解説   [ + ]

(2019年02月04日公開) 


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