漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第1回 坂根真也弁護士に聞く

天職としての刑事弁護

常に弱者の立場に立てる


裁判員裁判で何が変わったのか

 裁判員裁判で公判が劇的に変わったとよく弁護士から聞きますが、どう変わったんですか。

 一般の人がどう感じるかだと思います。法曹の常識でやってきたことが受け入れられるとは限らないので、一般の人が理解できるように、あるいは一般の人を説得できるように法的構成などを常に考えています。

 それは、言い方とかでしょうか。

 言い方もありますが、どちらかというと内容です。例えば、よく言われていたのは、罪を犯した人が未成年だったときに「未成年であることは、刑を軽くする事情」というのが法曹のこれまでの常識でした。

 でも、裁判員は必ずしもそうではなくて、「未成年のうちからそんな犯罪になっているんだから、むしろちゃんと刑務所に入れて矯正したほうがいい」と考えます。あるいは法曹にとって、被害弁償や示談は刑を軽くする当たり前の事情ですが、一般の人からすると当たり前ではないので、必ずしも軽くしなかったりする場合が出てきました。

 このことを一般の人にわかってもらうにはどうするのがいいのかということだから、言い方よりも内容ですね。

刑事弁護の中で一番力を入れているところ

 刑事弁護の中で一番力を入れているところはどこですか。

 四六時中、反対尋問のことについて考えていることですかね。例えば、法廷の活動の中で最終弁論とか反対尋問があります。民事ももちろん法廷はありますし、尋問もあります。でも、反対尋問といったら刑事事件です。刑事弁護の仕事の中では、反対尋問が一番やりがいがあって、面白い領域なんです。多分、弁護士の中でも一番考えているんじゃないかな。

 ある事件を抱えていて、反対尋問をしなければならない。そのことをずっと考えていて、普通に電車を乗り過ごします。寝ているわけじゃなくて、考えてて乗り過ごすことが珍しくないですね。

 頭の中で、具体的に法廷に立ってやりとりしている。「あらゆるパターンをやるぞ」みたいなことですか。

 こう来たら、ああしようとか。

 ドンピシャになったりすることはあるんですか。「おぉー、この質問きたぁー」みたいな瞬間って。

 ありますね。刑事弁護の仕事の中では反対尋問が一番難しいと言う人が多いんです。苦手意識を持っている人が多いと思うので、非常にやりがいのあることです。

 どんな人が証人に来るのか、事前にわからないんですか?

 わかっていますよ。

 ということは、その人が答えそうなことを想定してやるんですか。

 そうですね。

 その証人の方と事前に打合せはできないですよね。

 本人が承諾すれば、できないことはありませんが、被害者だと、まずできません。どう言ってくるかは、検察官が作った調書があるので、それを基に考えます。しかし、必ずしもそのとおりに言ってくるとは限らないので、どう言ってくるかを予測するところから始まります。

 その調書を読んで、「この人、こういう人なのかな」みたいなことも想像するんですか。

 そうです。

 それは楽しそうですね。

 何も懸かっていないなら、ただ楽しいだけですが、自分が失敗したことによって依頼人が不利益を被るから、プレッシャーです。ゲームとして「逆転裁判」みたいにやるなら楽しいですけどね。

 そこまで四六時中考えていても、予想外だったことはありますか。

 あります。全然想定もしていないような証言が出てきたこともあります。「これは勝ったな」と思っても、まったく想定もしないような理由で有罪になったりすることもあります。

 判決が出るまでわからないものですか。

 もちろんわかりません。

 判決は相当ドキドキしますか。

 しますね。

新人弁護士に対するアドバイス

 一緒に刑事弁護をやっている新人弁護士に対して、何か言いたくなることはありますか。

 何か思っても、こちちからはあまり言わないようにしています。聞かれたら答えますけど、手取り足取り教えるようなことはしませんね。

 それは「自分で考えてね」みたいな感じですか。

 弁護士は、資格を取って弁護士登録した瞬間にプロだと思うので、プロとしての自覚を持って何事にもトライして欲しいからです。

 ただ、わからないことがあったときに、新人が質問したことに対して、「そんなの自分で調べてから質問してこい」みたいなことを言う人は結構います。でも、私は、それはとてもナンセンスだと思っています。

 私は常に「わからないことがあったら、取りあえず早く聞きなさい。自分で悩んでいる暇があったら、どんな簡単なことでも、当たり前のことでもいいからすぐに聞きなさい」ということだけは言います。ですが、あとは聞いてくるまで、こちらからは押し付けないという感じです。

 では、坂根先生が「それ、ちょっと意味ないんじゃない?」みたいに思ったことを後輩がやっても、ぐっと我慢しているんですか。

 我慢します。基本的には自分が思うようにやって、「うまくいかなかったな」という体験がその人を成長させると思うので。しかし、依頼者に不利益が被るようだと、さすがに弁護士の成長より依頼者の利益のほうが大事ですから、依頼者のために言うことはあります。依頼者の利益を反しない範囲であったら黙っています。

 最後に刑事弁護を目指している人に、何かアドバイスはありますか。

 アドバイス……。私自身、こんなに素晴らしい職業はないと思っているので、「本当に刑事弁護を目指したいんだったら、悩まず目指していいよ」と言っています。もちろん簡単な道ではないですが「人生を懸ける価値がある」と。

 ありがとうございました。

(2021年02月22日公開) 


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