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漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第2回 市川寛弁護士に聞く(1)

検察の手の内を知る弁護士

信念と客観性のバランスをとる


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「なぜ悪い人を弁護する必要があるのか」

 まず「なぜ悪い人を弁護する必要があるのか」と一般の人に質問されたら、市川先生なら、どうお答えになりますか。

 「盗人にも三分の理」じゃないですか。理屈っぽくなりますけど、「悪い人」って、その人が有罪であることが前提ですよね?

 そうですね。

 人が罪を犯すのは、その人なりの理由があるのが普通です。それは検察官をやっていればわかるはずです。悪い人は、ただでさえ分が悪いのです。被害者がいれば当然ですし、そうでなくても「世の中の秩序を乱した」という意味で、世間から責められる。非難される立場になるのは必然です。

 ですが、死刑と無期懲役でない以上、どんな悪人も必ずまた社会に戻ってくることになります。となると、戻ってくることを前提に考えなければいけない事件が大多数です。そういうときに、その罪を犯した人を一から十まで叩いてばかりで、まともに戻って来られるのか。戻ってきた後に、その人がもう一度、社会で役に立てるのが、社会にとっても有益なはずだと考えれば、非難する人が多いからこそ弁護する必要があるという感じになるのではないでしょうか。

検察官になったきっかけ

 次に、市川先生の場合、一般の弁護士の先生とは少し違って、検察官から弁護士になられました。当初、検察官を選んだきっかけは何だったんですか。

 僕は大学3年のときに、法学部で犯罪学という学問のゼミに入りました。

 犯罪学?

 今の司法試験にはこの科目はなくなりましたが、僕が受けていた頃(昭和の末期から平成の頭にかけて)は、司法試験の科目に「刑事政策」という『犯罪白書』を読んでおくと受かるような科目がありました。その絡みで、大学3年生のときに犯罪学のゼミに入りました。

 そこの指導担当教授が、アメリカの1970年代の理論らしいのですが、「ラベリング理論」を日本に初めて持ち込んだ人でした。

 どうして、人は再び、あるいは三度、四度と罪を犯してしまうのか。

 それは、罪を犯して服役から帰ってきた後に、「あの人はムショ帰りだよ」「あの人は前科者だよ」とか、周りから後ろ指を指されて白眼視される。あるいは「あの人は起訴されたんだよ」「あの人、捕まったことがあるんだよ」と言われると、どうしても再就職が困難になりますし、元々住んでいた所に戻ってきても地域社会から疎まれ、どうかすると家族からも見放される。

 そうやって孤立化していって、食べることができなくなり、果てはまた泥棒などをしてしまう。こういうことが原因だと考えるのです。つまり、人が再び罪を犯す原因は、社会からラベル、レッテルを貼られることだという理屈を立てます。すると、二度目、三度目の再犯を防ぐにはどうすればいいのか。

 それは、なるべく社会がその人に貼るレッテルを穏やかにすればいい。実刑と執行猶予で迷ったら、なるべく執行猶予にする。そうすれば、「あの人、ムショ帰りだよ」と言われなくなる。懲役と罰金だったら罰金にする。そのほうがレッテルの貼られ方が穏やかになるでしょう。

 もっと進めると、起訴と不起訴(起訴猶予)ならなるべく不起訴にしてあげる。つまり、刑事手続のなるべく早い段階で、罪を犯した人を社会に戻してあげる道を選ぶ考え方です。これを「ダイバージョン」と言います。僕のゼミの指導教授は、アメリカからこういう理論を持ってきた先生でした。

 僕はこの先生のラベリング理論に非常に影響を受け、法律家を目指しました。ここで、ラベリング理論を実践できる法律家は、裁判官、弁護士、検察官のどれか。当時、僕は「検察官」と考えました。検察官は起訴・不起訴を決定できる。勾留請求しないで釈放できる。つまり、検察官がダイバージョンの力を握っているはずだと考えて、検察官になろうと考えました。

 大学で学んだことがきっかけで、自分の原動力になるというか、社会の役に立つというか、感銘を受けて検察官になろうとされたんですね。

 そうですが、それが甘かったんですけどね。いざ検察官になると、ダイバージョンとは逆に、「起訴と不起訴とで迷ったら起訴」と上司から命じられることが多く、困惑しました。

(2021年04月19日公開) 

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インタビュイープロフィール
市川寛

(いちかわ・ひろし)


1965年、神奈川県生まれ。中央大学卒。1990年に司法試験(第45期)に合格し、1993年検事任官。2000年から佐賀地検に三席検事として勤務し、佐賀市農協背任事件の主任検事を務める。同事件の被疑者に不当な取調べを行ったことについて法廷で証言し、大きく報道される。その後、被告人は無罪となった。2005年に辞職し、2007年弁護士登録。
 著書に『検事失格』(毎日新聞社、2012年)、『ナリ検』(日本評論社、2020年)などがある。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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