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漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第2回 市川寛弁護士に聞く

検察の手の内を知る弁護士

信念と客観性のバランスをとる(2)


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私にとっての少年事件

 『イチケイのカラス』の監修をしてくださった片田(真志)先生は、「少年事件のほうがやりがいがある」みたいなことを言われています。市川先生もそう思いますか。

 僕は、数はそんなにこなしていませんが、検察官時代から少年は変化の度合いがダイナミックだなとは感じます。

 ダイナミック……。

 それだけ純真なのでしょうね。どうかすると、損得勘定に敏感という意味でも純真な可能性があります。早く出られる、あるいは何かが自分に有利になるという理由で変化している。このように動機が邪悪な可能性もゼロではありませんが、少年はほんのわずかな間に顔つきががらっと変わります。

 検察官をやっていたとき、勾留して1週間後ぐらいにもう1回取調べをしたら、顔つきが変わっていたことがあって、ビックリしました。言うことも変わっているのです。短い間に立派になってるなって。

 使う言葉も違うんですか。

 そうです。自分で考えたのか、親などが教えたのかは知りませんが、ビックリしたことがありました。だから、その少年が言ったことをきちんと調書に取ってあげました。まさに反省した証拠を残してあげないと、かわいそうですから。

 ただ、少なくない少年が、処分を終えて、少年院から出てしばらく経つと戻ってきてしまう。少年事件はやりがいがあると言われますが、裏切られる度合いも大きい気がします。

 また戻ってきてしまうんですか……。

 僕の経験では多いですね。「またですか」と思うことはあります。

 それは、ご自身のダメージになってしまいますか。

 無力感はありますよね。刑事弁護をやっている人は、無力感といつも背中合わせのはずです。

 それは、検察官の無力感とは別ですか。

 全然違いますね。検察官のときは、かつて担当した被疑者や被告人が再犯を犯しても、無力感を感じたことはないので。

 そうなんですね。

 「俺の知ったことじゃない」っていう感じでしょうか。犯罪に対して麻痺していたんでしょうね。

 もう淡々とみたいなことですか。

 そうですね。「ダメじゃないか」と言って終わりです。それに、検察官はいい意味で定期的に転勤していますので、自分が2年ぐらいいる間に同じ被疑者や被告人がもう1回帰ってくることは、まずありません。

 そうか、転勤かぁ。確かに、弁護士とは違いますね。

 そうです。僕は1年目に横浜地検にいましたが、あちこちの任地を回って10年目ぐらいに、横浜地検の小田原支部に転勤しました。そうしたら1年目のときに少年事件として担当した少年が、今度は成人として戻ってきたことがありました。

 へえ~、そんなことが。

 「ここで会ったが十年目」です。

 縁と言ったらなんですが、すごい運命ですね。

 ちょっと変わった名字の人だったので、「もしや?!」と思って。でも、向こうは全然覚えていませんでした。

 過去に会ったことがある人だと。

 はい。あまりにとぼけているので、「おまえ、これこれこういう事件で捕まったことがあっただろう」「なんでそんなこと知ってるんですか?」「俺はそのときの検事じゃないかよ」「えー?!」ってなって。その後、「ダメじゃないか」「すいません」なんてお互いに言って。そのときは、少年のときとは罪名が全然違っていましたけどね。

 そうなんですか。そこは覚えていてほしかったですね。

 僕が検察官時代、かつて担当した人と同じ人に取調べで再会したのは、このケースだけかもしれません。

検察官と弁護士の違い

 前に担当した人がまた来るケースはありますか。

 弁護士になってからだと、少年ならあります。成人でもなくはないかな。ごくまれにですが、再犯してしまったのは自分の弁護方針がダメだったからかなと思って、セカンドオピニオンも兼ねて、他の弁護士を紹介して担当してもらうこともあります。これを無責任と言う人もいるでしょうが。

 それで効果があったと思ったこともありますか。

 少なくとも、さらに再犯したとは聞いていませんから、効果があったのかもしれませんね。いつも弁護人が同じだと、意地悪な検察官だったら、法廷で変なことを言いかねませんからね。「あなた、前の弁護人も市川だったじゃないですか」とか法廷で言われたら、その被告人がかわいそうじゃないですか。

 へえ~、そこまで想定しているんですね。

 どんな事件でも、ただ量刑を重くしようとしか考えない検察官がいるんです。そのために法廷でどんなにひどいことでも言ってしまう、品のない人がいますから。そういう意味では、検察庁は教育が悪いのかもしれません。

 検察官のやり方と一人ひとりの弁護士のやり方は、かなり違うものですか。

 個人個人の方針のばらつきは、弁護士のほうが大きいと思います。

 やっぱり差は大きいんですか。

 弁護士の執務姿勢は自己研鑽ですし、弁護士会はいい意味で弁護士を統率していないじゃないですか。

 そうですね、組織じゃないから。

 検察官は法曹三者で最も統率されているので、個性が一番埋没していると思います。

 裁判官よりも?

 おそらく検察官の方が、ばらつき度は小さいと思います。裁判官は、なんだかんだ言って独立しているので。

 確かに。

 裁判官3人の合議制であっても、裁判長が右陪席や左陪席に「ああしろ、こうしろ」と命じることまではできないはずですから。検察官だと上司が命じることができるので、どうしても同じ色になりますよね。濃い赤なのか薄い赤なのかはともかく、赤には違いないとなっていくのが検察官でしょう。それに対して、弁護士は極端な話、赤もいれば青もいるし、白もいるみたいな。

 イメージ的には、そういう感じですね。いろんなタイプの先生がいる。

 そこが弁護士の良さですから。検察官は平均化されやすいのではないでしょうか。

(2021年04月26日公開) 

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インタビュイープロフィール
市川寛

(いちかわ・ひろし)


1965年、神奈川県生まれ。中央大学卒。1990年に司法試験(第45期)に合格し、1993年検事任官。2000年から佐賀地検に三席検事として勤務し、佐賀市農協背任事件の主任検事を務める。同事件の被疑者に不当な取調べを行ったことについて法廷で証言し、大きく報道される。その後、被告人は無罪となった。2005年に辞職し、2007年弁護士登録。
 著書に『検事失格』(毎日新聞社、2012年)、『ナリ検』(日本評論社、2020年)などがある。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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