漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第4回 髙橋宗吾弁護士に聞く(1)

先輩から受け継ぎ、若手が変えていく刑事弁護

地域や世代の差を無くし、いろいろな人を巻き込む


普通の人が、ある日突然巻き込まれる刑事事件

 あとは、私がインターンをしている最中に、裁判員裁判で無罪となった事件もありました。無罪の判決後に事務所でその人と先生たちが話しているところに同席したという経験は、やはりとても大きかったです。

 当時、その罪はとても量刑の相場が重く、有罪の判決が出たら懲役10年を超えるような事件でした。被告人は若くて、普通に明るい女性でした。一歩間違ったら、この人が本当に10年間刑務所だったのかと思い衝撃を受けました。

 その無罪判決が出る瞬間に立ち会ったということですか。

 その判決の期日には立ち会っていなかったと思います。ただ、一人の人が被告人として拘置所にいるところから、無罪になって、事務所に遊びに来るというところまでを見られたのが、大きかったです。

 じゃあ、出たあとに、お礼の挨拶みたいな感じで事務所に来たわけですね。それは感動しそうです。

 そうですね。Facebookで友達にもなったのですが、「無罪になってよかったな」と心から思うと同時に、刑事弁護の怖さ・プレッシャーを実感した事件でした。

 年が近いこともあって、「下手したら、そのままこの人が30代後半まで刑務所って、やばくないか」って真剣に思っていました。それまでの間に私がしたいこと、やろうと思っていることを考えたら、あまりにも刑が重いなと。

 確かに10年は大きいですね。

 特に若い人や同世代の人だったら、その人の置かれた立場を自分に置き換えて、ここから10年とか、あの時点から10年と思うことがあります。

 ですから、今の自分の依頼者に対しても、量刑を少しでも短く、あるいは否認している事件であれば、なんとかして無罪にと強く思います。どの事件でも同じように取り組みますが、やはり依頼者の世代が近いと思い入れが強くなる部分はあるかもしれません。

なぜ悪い人を弁護する必要があるのか

 はたから見たらめちゃくちゃ怪しく見えるのに、否認していて、そういう人を弁護している。友人などから「なんで、そんな人を弁護するの?」と言われたりしませんか。

 それはありますね。私たちが一番多く聞かれる質問ではないかと思います。とはいえ、私の場合は学生の頃からずっと刑事弁護をやると言ってきていたので、同業者や家族から今さら聞かれることはありませんが……。

 例えば、民事事件の依頼者とか、顧問先企業のお客さんと雑談的に話しているときに、私が刑事事件にも取り組んでいるという話をすると、聞かれたりすることはありますね。

 仕事関係の人から。

 そうですね。私は刑事100%ではなく、民事事件や企業の案件も多いので、そういうお客さんが素朴に疑問を抱くことはあるんだろうと思います。

 人によって答えを変えたりしますか。

 ニュアンスは変えますが、この質問の答え自体には迷いはありません。みんながそう思うからこそ、自分がこの人の弁護をするんだ、という気持ちでいます。

 一見、筋が通らないような否認の主張をしている人もいると思うかもしれませんが、どうしたって僕らがその事件の真実を知ることはできません。筋の通らない部分は、記憶違いをしているだけかもしれません。

 自分には絶対に真実はわからないから、依頼者の記憶に沿った言い分を、証拠と照らし合わせながら、まず素朴に検証するだけです。

 だからこそ、特に否認事件を担当するときは、ほとんど迷いがありません。物理法則上100%起こり得ないとか、そういう話じゃない限り、まずは依頼者の言い分を聞くところからスタートするように心がけています。

 迷いはないんですね。私からしたらその時点ですごいなと思います。それで質問してきた人には理解してもらえますか。

 理解されているかどうかはわかりませんが、「弁護士だからそういうもんだよね」みたいに言ってもらうことは多いです。

 あとは、そのようなドラスティックな現場である刑事事件にも取り組んでいることを、企業のお客さんなどはむしろ評価してくれることも少なくありません。企業もどんなトラブルに巻き込まれるかわからないということを、経営者の方はよくご存知です。なので、そういった万が一にも頼れるから、といってお付き合いしてくださっているお客さんもたくさんいます。

 なるほど。今は、どんなトラブルが起きるか予測不能ですし、経営者の方からみたら相談できる人がいるというのは心強そうです。

(つづく)

(2021年08月23日公開) 


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