連載 裁判所書記官が見た刑事弁護

裁判所書記官が見た刑事法廷 第11回

逆転(無罪)判決

中村圭一 元裁判所書記官


 刑事事件については、地方裁判所であっても簡易裁判所であっても、控訴事件は高等裁判所で審理されることになります。従って、「逆転(無罪)判決」は、最高裁判所か高等裁判所でしか見られない貴重な場面ということになります。

 私は、高裁刑事部勤務時に、2つの著名事件で、担当書記官として逆転判決を見ることができました。

 1つ目は、病院関連の刑事事件で、地元では知らない人はいないくらいの有名な事件でしたが、地裁での有罪の判決を高裁で無罪に覆したものでした。このときは、裁判長による主文を聞いた際の、被告人や弁護人の笑顔が忘れられません。一審で有罪とされていた事件が高裁で無罪とされたときは、まさに弁護人冥利に尽きるでしょうね。弁護人としてのやりがいを感じられる最高の瞬間なのではないかと思います。

 2つ目は、ある飲酒交通事故に関する刑事事件で、世間の耳目を集めた有名な事件でした。地裁での判断を覆し、より重い危険運転致死罪の適用を認めたものでした。各テレビ局が、裁判所の敷地内に中継車を準備していて、裁判長が判決の主文を伝えた途端、傍聴席の記者の皆さんが、法廷の外にすごい勢いで飛び出して行ったのが印象的でした。このときは、裁判長による主文を聞いた際の、被害者遺族の方々の表情が忘れられません。

 これらの「逆転判決」が行われる高裁において、弁護人であれば、誰でも知っている原則があります。それは、刑事事件の控訴審は、「事後審」であるということです。つまり、原則としては、第一審判決当時の証拠に基づいて判決の当否を判断することになるのです。もっと言えば、刑事事件の控訴審においては、刑事訴訟法382条の2により、「や……

(2023年02月22日公開)


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