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笹倉香奈

『オアシス・インタビュー』第2回

【3/3】えん罪救済センターとSBS検証プロジェクト は何を目指すのか

実務家と研究者との連携

インタビューアー:小石勝朗(フリーライター)


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支援グループの立ち上げ

小石 個別のケースに対応していくのが基本になるのでしょうが、どういう活動を考えていますか。

笹倉 個別ケースでの弁護は大切です。そのほか、SBS事件で刑事訴追されている人、控訴審段階の人、親子分離されている人など当事者が12月に1回は集まって、体験を共有しています。自分はこういう経験をしたということで、痛みを分かち合えますし、情報の共有も可能です。そういう組織が必要なことは、スウェーデンに行って非常によく分かったので、いろいろな人と協力して「家族の会」を20184月に立ち上げています。

 SBS検証プロジェクトの活動の柱は2つあります。1つは個別事件の対応です。実際にえん罪被害に遭っている人たちの弁護活動です。ホームページを立ち上げているので、事件関係者から始終連絡が来ます。関係している弁護士が全国にいるので、それを地域ごとに振っています。もう1つは理論面で、海外の状況などの調査です。

 さらに、症例や海外の状況などについて、医師との意見交換や共同研究もしていきたいと望んでいます。ただ、残念なことにSBS仮説を推進してきた医師とはなかなか議論ができません。そこが、今、難しいと思っているところです。私たちと逆の立場にあると言われている医師でも、科学者だったら当然、科学の進歩には貢献したいと思うでしょうし、子どもを救いたいという思いはみんな一緒なので「ここまでは合意できるよね。これから先のところをどうやって研究していくか」という建設的な議論が、今後できればいいですね。いろいろな医師との意見交換や共同研究なども進めていきたいと思っています。

 SBSの問題点を広めていくには社会の啓蒙が必要です。一般の方もそうですが、虐待問題で最初に通報する児童相談所の職員や現場の医師たちに、どうやって訴えかけていくかというPR活動も必要です。

SBSをめぐる国際セミナー
2019年2月12日に行われたSBSをめぐる国際セミナー(大阪弁護士会館)

小石 例えば児童相談所だと、最初の段階でこれを食い止める糸口のようなものはありますか。

笹倉 児童相談所の職員としても、医師の判断に依存せざる得ない部分があるのだと思います。また、現代の社会的な状況を見ると、虐待の疑いがあるならば取りあえず親子分離しようという判断になりがちです。児童相談所が職員不足などで非常に忙しいところにも原因があります。

 親が本当に虐待しているかどうか、医師が診断をするときにも「脳の中に出血があります。3徴候があります」というだけではなく、ほかに虐待の徴候がないか、あるいは、鑑別診断と言いますが、除外すべき病気はないのか、を丁寧にみる必要があります。つまり、ほかの原因でこの出血が起こっていないのかを丁寧に見ることです。家庭の状況などの詳細な調査も必要になると思います。

小石 政府は児童相談所を拡充すると言っていますね。

笹倉 拡充自体はとてもいいと思いますが、家族の幸せや福祉を第一に考えて制度設計をしてほしいものです。虐待ありきの判断ではなく、いろいろな可能性も考えつつ丁寧に見てほしいのです。最近、児童相談所は警察との連携を重要視しています。児童相談所が福祉的な機能ではなく、捜査や刑事訴追的な機能をあまりに強化してしまうことに危惧を覚えます。

実務と理論の架橋

小石 SBSの事案は、刑事法の研究者と実務家、そしてえん罪被害者との連携がうまくいっている例だと思います。

笹倉 海外でこういうことが問題になっていたという知見を、日本のえん罪事件の救済にも使えるという意味では、少しは役に立てた気はします。

 研究者などが諸外国の論文を翻訳し、分析して、実務家はそれを刑事弁護に生かすということもしていて、研究者と実務家の両輪がうまく回っていると思います。『季刊刑事弁護』の目指しているところとも同じで、実務と理論の架橋は、本当に大事です。それが社会を変えていく力にもなると、この活動を通じて思っています。

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用語解説

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