ニュースレター台湾刑事法の動き<br>第11回

ニュースレター台湾刑事法の動き
第11回

再審手続における検察官の公益的役割

呂介閔殺人冤罪事件の是正の経験を中心に

陳宏達(台湾高等検察署主任検察官)
日本語訳/呉柏蒼(信州大学経法学部准教授)


123

③ 行われたポリグラフ検査は基本的な手続要件を踏まなかったため、証拠能力がない。被疑者は当時、ポリグラフ検査に引っかかったが、その検査自体、受検者の心身・意識の状態が正常であるか否か、検査環境が良好であるか否か、外部の干渉を受けた否か、などを考慮に入れたかは疑わしい。のみならず、検査の基本的手続も踏まなかったため、証拠能力がないことは当然である。

④ 本件において、補強証拠として使える痕跡証拠(TRACE EVIDENCE)がない。法医学の「ロカールの法則」(Locard Exchange Principle=ロカールの交換原理)によれば、2つの物体が接触した瞬間、微量物質が移転する。被害者の遺体など現場にあったものは、完全に独立して存在するものは1つもなく、犯罪現場の各部分はすべて関連しているため、科学的ツールを駆使して慎重に捜査すれば、それらの関連性を見出すことができるはずである。犯人が他の人や物体と接触するたびに、どんなに偶然な接触であっても、目立たなくても、物質の交換が必ず生じる。本件の場合、犯人と被害者との激しい口論、両者の身体的接触、被害者の血液の飛散、犯人所有のスクーターで逃走、などのことがあったとされている。しかし、警察が複数回の捜査・検証を行ったにもかかわらず、凶器、犯人に取られたとされる被害者の財布やズボンなどが見つからず、また、犯人とされた呂氏の身体、衣服、スクーター、住居などに対して検証を行ったが、被害者の血液など、殺人行為を証明しうる証拠が一切見つからなかった。これは経験則や「ロカールの交換原理」に合わないことが明らかである。

3 再審手続における検察官位置づけと役割

⑴ 台湾再審法2015年の改正概要

 台湾刑事訴訟法第420条第1項に、判決を受けた者の利益のための再審請求の事由が置かれている。その第6号は、2015年の改正前には「有罪判決が確定した後、確実な証拠をあらたに発見し、有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴、刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべきとき」(は、再審請求することができる)とされていたが、2015年改正の際、「有罪判決が確定した後、新事実又は新証拠をあらたに発見し、それを単独または既存の証拠と総合して判断し、有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴、刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべきとき」と改正された。また、同改正で、同条に第3項が追加された。すなわち、「第1項第6号の新事実や新証拠とは、判決確定前に既に存在していたり成立していたが調査がなされなかった、又は判決確定後に初めて存在したり成立した事実、証拠を指す」。このように、第1項第6号にあった「確実な」という文字が削除されたうえ、同号に「新事実」や「単独または既存の証拠と総合して判断(する)」という文言が追加され、さらに、第3項も新設される大幅な改正であった。その目的は、やはり、再審開始がより容易に認められるようにすることである。

 以前の台湾の最高法院は、「証拠の確実性(顕著性)」の判断について、「単独評価説」と「総合評価説」の2種類の見解をとったことがあった。多数の裁判例は前者を、少数の裁判例が後者を取っている。例えば、最高法院89年度台抗字第463号決定(2000年)は、このように述べている:いわゆる「前訴確定判決を揺るがすことに足りる事実を基礎にして、より有利な判決が得られると認められること」について、再審請求の根拠となった新証拠だけで、そのレベルに達している場合はもちろんであるが、新証拠と確定判決で斟酌された証拠を総合的に評価して、同様のレベルに達している場合であっても、確実性(明確性)を有すると評価すべきである。同裁判所の90年度台抗字第168号決定(2001年)の趣旨も同じである。これら決定は、法改正が行われたより前に「証拠の確実性」の判断方法について「総合評価説」をとっているとわかり、旧法の再審の敷居が高すぎた問題を緩和した裁判例となった[1]。一方、確かに、過去において、再審制度は「善後策」として見ることはあった。そのうえ、実務において、長い年月を経た案件を処理する際、検察官は莫大な書類資料を処理しなければならず、新たな証拠が見つかっても、証拠の質の経年劣化に直面するだけでなく、場合によっては、証拠の紛失や処分済みという困難にも直面せざるを得ない。再審のための調査には莫大な時間とエネルギーを要し、再審手続の扉を開ける困難度が極めて高いため、多くの検察官は保守的な態度をとっている。

 しかし、筆者は、人権を守る価値が裁判所の判決の威信を守る価値より高いということは不変の事実であり、検察官は確定判決が誤っている可能性があると思ったとき、それを能動的に是正する側にならなければならないと考える。また、再審のキーワードは「発見」であり、「対抗の代わりに協力を」ということこそ、誤判の受刑者の冤罪を晴らすことに寄与すると痛感している。

注/用語解説 [ + ]

123

(2026年04月07日公開)


こちらの記事もおすすめ