⑵ 「法廷での対抗者」から「真相の発見者」に
筆者は呂氏の事件の再審請求を行おうとしたとき、刑事警察局の司法警察官、DNA鑑定の専門家、ポリグラフ検査の専門家を招いて、各証拠資料を見直し、科学鑑定についての検討を行った。また、法医学者の意見を伺い、科学的文献についても精査した。このように、厳密で理性的、なおかつ冷静で客観的な姿勢で、判決の正誤を改めて判断した。このことで、2つの側面で、従来の検察官像の転換が図られた。すなわち、「確定判決の防衛」から「誤った判決の是正」への転換、そして、「再審の排除者」から「証拠の検証者」への転換である。そして、このことは、検察官組織内部において、検察官の再審への態度にも影響を与え、検察官の「公益の代表者」としての性格をより強化した。台湾刑事訴訟法第2条第1項は、「刑事訴訟手続を実施する公務員は、携わる事件について、被告人の有利及び不利な事情に対して等しく注意を払わなければならない」としており、判決確定前の捜査・公判手続に限らず、再審、非常上告の手続にも、この条文の適用があることは論を俟たないであろう。
他方、台湾の現状として、誤判の発見とその是正には、偶然性と不確実性が存在している[1]。それに加え、確定判決に対する非常的救済措置についても、責任を持つ人や組織が異なっており、非常上告は最高検察署の検察総長が行い、再審は事実審の検察署の検察官が行うため、意見が統一できず、誤判の発見とその是正を全うすることが難しい。是正のための審級を跨る体制は、最高検察署がそれを築くべきだと筆者は考えている。非常上告や再審に関する制度運営を統合し、新真実・新証拠の発見の協力のための専門部門を設けることにより、非常的救済措置の機能の最大化を図るべきである[2]。
4 おわりに
水谷規男教授は「再審請求と検察官」という論文において、証拠に対する懐疑ではなく、確定判決への確信の延長で事実上再審の開始を遮断している日本の検察官は、検察官が有すべき公益的役割に反していると示唆している[3]。
筆者も、呂氏の冤罪事件の是正に携わることを通じて、以下のことを痛感した。すなわち、検察官の専門的知見は時代に即して進化すべきであり、特に再審手続において、「判決の正当性の維持」のために新証拠を疑うべきではなく、争点の整理や証拠の評価への協力に方向転換を図らなければならない。検察官には、「証拠の検証可能性」について専門的感性があるだけでなく、厳密な科学的捜査や精密な鑑定技術を駆使する能力も有しているため、冤罪の不正義を取り払うことができるはずである。
台湾の最高検察庁の元首席検察官石明江氏は、「大事件の担当は大したことでなく、冤罪晴らしと名誉回復こそが難題である」と述べている。誤判は人権の災難であり、冤罪は二重の不正義である。再審手続において、検察官は、刑事司法システムに起こり得る誤りに直視する勇気があれば、検察官の「自己修正」能力が明示される。これによって、国民の司法への信頼を回復させることができるのであろう。
注/用語解説 [ + ]
(2026年04月07日公開)
