
9月3日、国会内で、「平口洋法務大臣の死刑執行に抗議する集会」が、死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム’90、公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本、NPO法人監獄人権センターなどの主催で行われた。
8月21日に、平口法務大臣は、大阪パチンコ店放火殺人事件の高見素直さん(58歳)の死刑の執行を命令した。大阪拘置所で即日執行された。高市政権ではじめてとなる、1年2か月ぶりの死刑執行であった。
同日開いた記者会見で、この時期に執行した理由と高見さんが選ばれた理由を記者から質問された平口法務大臣は「個々の死刑執行の判断に関わる事柄についてはお答えを差し控えます」と回答しなかった。
2009年7月5日、大阪市此花区にあるパチンコ店1階の床にガソリンがまかれ放火された。客と従業員あわせて5人が死亡し、10人が負傷した。事件後、自首した高見さんは、捜査段階の精神鑑定では統合失調症との診断が出たが、検察は責任能力ありとして現住建造物等放火罪、殺人罪、殺人未遂罪で起訴した。
一審の裁判員裁判では、高見さんの責任能力と絞首刑は憲法に規定された残虐な刑罰にあたるかが争われた。責任能力に関しては、3人の鑑定人(精神科医)が証人に立った。うちの1人は責任能力はないとしたが、他の2人は責任能力ありとした。このため死刑判決が下された。裁判員裁判として10例目の死刑判決であった。
集会では、最初に挨拶に立ったフォーラム’90の安田好弘弁護士が、再審請求中の死刑執行に関する国賠、死刑の事前執行告知に関する国賠、絞首刑執行差止めに関する国賠など死刑制度に関する裁判を継続することの重要性を強調した。このあと、高見さんの弁護人であった後藤貞人弁護士が彼の事件にいたるまでの人生、事件と裁判の争点、弁護活動について、つぎのように報告した。
責任能力については、法律家と精神科医の意見書を出して最高裁まで争ったが、裁判所は完全責任能力を認めた。
死刑の合憲性に関する裁判所の判例として、刑罰としての死刑そのものが憲法36条(残虐な刑罰の禁止)に反しないとする1948年の最高裁大法廷判決と、絞首という執行方法は憲法36条に違反しないとする1955年の最高裁大法廷判決の2つがある。この2つの判決があるため、裁判では「死刑は憲法36条に反する残虐な刑罰である」と弁護側がいくら主張しても退けられてきた。
このため、絞首刑の残虐性について立証するために、2人の証人を立てた。
1人は実際に死刑執行に立ち会ったことのある元最高検察庁検事の故・土本武司氏、もう一人は自殺や絞首事例に関する研究をしている、オーストリア・インスブルック医科大学司法医学研究所副所長(オーストリア法医学会会長)のヴァルテル・ラブル博士(ラブル博士の意見については、「本当に絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?(その2)」季刊刑弁護67号〔2011年〕と中川智正弁護団+ヴァルテル・ラブル編著『絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?——新聞と法医学が語る真実』〔現代人文社、2011年〕が詳しい)。
これには公判前整理手続の段階で前哨戦があった。裁判員は法律問題には触れないと裁判員法が規定していることから、検察官は法廷で「死刑という刑罰」について証言させることに反対した。すったもんだしたが、裁判員は死刑という刑罰を知らなければ判断できないと迫って、この証人を認めさせた。2人の証言を裁判員にもきいていただくことができた。
絞首刑は残虐な刑罰であるとのラブル博士の実証的な意見に対して検察官は一言も反証しなかった。にもかかわらず、裁判所は絞首刑は残虐な刑罰でないと結論づけた。
控訴や上告するときから、彼は先生がやりたいというならどうぞということで、死刑を避けたいとか、裁判をして間違いを認めてもらいたいとかの感覚はなかった。死刑が確定してから、彼に再審請求をすすめたが、ただ沈黙するままで返事はなかった。その後、彼とはたびたび会っていたが、しばらく会っていなかった間に、今回の執行に至った。
後藤弁護士は、「残念だ」と一言静かにいって報告を終えた。
ついで、この上告審で意見書を提出している、京都大学教授の高山佳奈子氏が、国際人権論の観点から、死刑に関する世界の趨勢と今回の死刑執行について報告した。

さらに、龍谷大学名誉教授の石塚伸一氏が、戦後の死刑制度の歴史を振り返ったあと、今後の活動に関する3つの方針を力強く提起した。
①3つの裁判(前記安田弁護士の発言)を最高裁の大法廷に回付させて、死刑の合憲性、執行手続の方法について司法判断を求めること、②再審請求中の執行を停止させること、③国会に死刑制度を検討する委員会を設置させること。
最後に、法務大臣に手渡される、つぎの「集会決議」が採択され、集会は終了した。
集会決議
本年8月21日に行われた高見素直さんへの死刑執行に対し、強く抗議する。
高見素直さんは2011年10月に裁判員裁判で死刑判決を受け、控訴・上告したが、2016年2月に死刑が確定した。
犯行時、妄想があったため、弁護人は責任能力を争ったが、裁判所は認めなかった。
死刑判決では、高見さんが自首したことや、一貫して犯行を認め、捜査に協力していること、また犯行の動機形成には高見さんの妄想が影響していることを明確に認めながらも、「今回の犯行はあまりにも凶悪で重大なものである」「その生命をもってその罪を償わせるしかない」と宣告した。
高見さんが精神疾患を患い、罪を認め、捜査にも強力しているという事実や情状は捨象され、死刑へと強引に結論づけられたのである。
高見さんの裁判では絞首刑の残虐性も問われた。元最高検察庁検事の土本武司氏や、オーストリア法医学会会長のラブル博士が証人として出廷し、絞首刑の残虐性を証言したが、裁判所はそれも認めなかった。
そして8月21日、高市政権下、平口洋法務大臣の署名により、高見素直さんは、残虐な刑罰である絞首刑で処刑されてしまったのだ。
過去の死刑執行と同様に、今回の執行も死刑制度を維持するためだけのものだ。毎年ノルマのように人の命を奪うことに、社会や一般市民にとっては何の意味もないのである。死刑囚の命を奪うことで、問題は何一つ解決しない。
一昨年11月、「日本の死刑制度について考える懇談会」が提言をまとめた。日本の死刑制度にはさまざまな問題が存在していることを指摘し、この制度の存廃、改革・改善を検討し法改正を検討するための会議体を国会及び内閣のもとに設置し、その間、死刑執行を停止するよう提言している。
死刑制度があるから執行するという慣例は即刻廃止し、制度自体を見直し、その間、執行を停止するということを私たちは強く求める。
今日、私たちは平口洋法務大臣に処刑された高見素直さんに代わり、死刑の廃止を願う多くの人たちとともに今回の死刑執行に対して強く抗議するとともに、これ以上の死刑執行を行わないよう、あらためて強く求めるものである。
2026年9月3日
平口洋法務大臣の死刑執行に抗議する集会 参加者一同
(2026年09月08日公開)