出房拒否活動に向けた具体的な活動
1 十分な指示および説明
被疑者にとって、黙秘の重要性および出房拒否の有効性を理解したとしても、勾留中に生活を管理されている留置担当の警察官の指示を拒否することは相当に勇気がいることである。このため単に房から出ないように指示するだけではなく、本件でなぜ出房拒否が必要なのか、それをすることにより、今後どのようなことが起こりうるのか、出房拒否をすることによる不利益がないのかを丁寧に説明し、納得してもらう必要がある。
また、警察官が車いすを持ち出して連行するといった有形力を行使するようなことがあれば、無理に抵抗しないように指示した。公務執行妨害等新たな被疑事実が生まれてしまうと、被疑者に多大な不利益を被らせることになるし、弁護人も、このような犯罪の共謀・教唆を疑われる危険性があるからである。
なお、出房拒否に限らず、捜査機関の言動より弁護人の助言の方を信用してもらうためには、根拠資料を提供することが重要だと考える。捜査機関は、「そのようなルールになっているから従いなさい」「君のために言っている」「私は指示に従った方が良いと思う」という曖昧かつ定型的な言葉しか発しない。このため、弁護人が豊富な根拠資料を差し入れたり、見せたりすれば、被疑者が難しい部分について全て理解しなくとも、弁護人の説明を信用してくれる可能性を上げることができる。
私は、Aさんに取調べ受忍義務に関する裁判資料、基本書、論文等をコピーして差し入れ、なぜAさんに取調べ受忍義務がないかという点を説明した。本件では、Aさんの理解力が高かったこと、私の説明に興味を持ってくれていたこともあるが、Aさんが自信を持って出房拒否をするためには必要な説明であったと思う。
以下の説明方法は、私が実際に出房拒否を指示する際に行っているものである。よりよい説明の方法もあると思うが、参考までに紹介する。
① 取調べ受忍義務についての説明
「確かに、差し入れた裁判の判決文(最大判平11・3・24民集53巻3号514頁、東京地判令6・7・18判タ1536号231頁)を見ると取調べ受忍義務を肯定するように読めるものがあります。しかしながら、この義務に違反したとしても、民事上および刑事上の法的効果(刑事罰や損害賠償義務の発生)はありません。仮に、本当に取調べ受忍義務という法的義務が存在するならば、同義務違反に対応する法的効果が必ずあるはずです。」「また、判決文をよく見ると、どれも捜査機関側の行為が違法かどうかを判断しているのであって、被疑者側の取調べ拒否(出房拒否)が違法かどうかを判断したものではありません。私だけがこのように考えているのではなく、同じことを説明している論文等もあります。」
② 警察から「大人なんだから有利か不利か自分でよく考えて」と言われた場合
「特に言い返す必要はありません。あなたには法律の専門家に助言をもらっているのだから、自分一人で思い悩む必要はありません。不安になったら一緒に考えましょう。」
③ 「取調べ拒絶、黙秘は検察(警察)の心証を悪くする」と言われた場合
「このような説明は明らかに間違っています。法的な意味でいう心証は、裁判官が証拠を取捨選択して、証拠を精査して形成されるものです。そして、検察官は、裁判官から有罪の心証を取れるかどうかで起訴するかどうか判断します。したがって『検察や警察の心証が悪くなる』という警察の言葉は無意味であり、単なる脅しの一種です。」(なお、この説明が行われた時点で抗議文を警察に送る。)
2 警察からの説得への対応
Aさんが出房拒否を開始した後、留置担当の警察官から必ず「あなたには取調べ受忍義務があるから房から出て取調室に行かなければならない」と説得されると考えた。この説得に対する対応として、あらかじめAさんにこのような説得があることを説明し「弁護士に取調室に向かう必要は無いと言われた。だから、取調室に行かない。これ以上の法的な議論については弁護士に言ってほしい」と言うように指示した。
出房拒否の効果
本件では、出房拒否を開始してすぐに効果が出た。出房拒否を開始した後、数日間は取調べに応じるよう説得が続いたが、日が経つにつれて説得も行われなくなった。
しかし、取調べ自体は無くなったものの、日ごとに弱っていくAさんを元気づけるのは非常に大変だった。仮に取調べがなくなったとしても、何もすることができないという苦痛は、非常に大きい。最終的に、同様の罪で(ただし、共犯ではなく単独犯)再逮捕・勾留されたが、処分保留釈放となり、不起訴となった。
当初から土日祝日も含め毎日接見に行き、私自身も相当苦労した事件であったが、不起訴処分となったことで報われた。
反省点
本件が終わった後に、取調べ拒否権を実現する会(RAIS)が提供する取調べ拒否マニュアルの存在を知った。このマニュアルの存在を知っていたならば、より迅速な対応ができていたかもしれない。また、すべての取調べを拒否できたわけではなく、後半は数回取調べに応じることもあった。それでも黙秘は成功し、供述調書の作成はされなかった。取調べがなくなることにより、何もできない苦痛を緩和するための工夫が必要であると思われる。
(『季刊刑事弁護』127号〔2026年〕を転載)
(2026年07月19日公開)
