連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告<br>第7回——事例報告⑥ 強盗致傷被疑事件

連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告
第7回——事例報告⑥ 強盗致傷被疑事件

依頼者をサンドバッグにさせないために

髙津尚美(第二東京弁護士会)


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はじめに

 2024年6月、RAISに入会してから、黙秘する方針とした事件で取調べ拒否の弁護活動を実践してきた。本稿の強盗致傷被疑事件は、私の取調べ拒否の弁護実践の第1号事件である。

事案の概要

 友人と共謀のうえ、路上で通行人から金品を強取しようと企て、友人が被害者に因縁をつけて頭突きするなどの暴行を加え、依頼者が金を出せと脅迫し、反抗を抑圧して2万円弱を奪い、全治約1週間の傷害を負わせたという被疑事実である。

 依頼者は、友人およびそれぞれの交際相手と一緒に歩いていた際、友人の交際相手に対する被害者の言動に立腹した友人が被害者に対し暴行した、金を払わせたのはその場を収めるためだったとして否認した。

弁護実践

 私は、勾留決定日に被疑者国選で受任した。

 初回接見で依頼者から事情を聞き、供述するメリットがなかったので黙秘する方針を決めた。そして、依頼者に対し、黙秘しても取調べは直ちに終わらず、供述を求められ続ける現状があることから、黙秘するためには取調べ拒否をすることがよいと提案し、以下のことを説明した。

⃝ 黙秘するので取調べを拒否する旨の意思表明書を依頼者が書き、それを添付した弁護人名義の通知書を捜査担当警察署の刑事課長、担当検事、留置宛てに送ること。

⃝ 取調べに呼ばれたら「行きません」と言い、立ち上がらないこと。

⃝ ただし体を触られ連れて行こうとされたら抵抗せず取調室に行き、「黙秘します。取調べをやめて下さい」と言って黙秘すること。

⃝ 警察官からは取調べを拒否することは法律上できない等と言われるかもしれないが、それは彼らの解釈に過ぎず、取調べを拒否することはできること。

 もっとも、この時点では依頼者が留置係官との関係悪化を懸念し、取調べ拒否をすることを躊躇した。そこで、黙秘するものの取調べ拒否はしない方針にした。

 他方、依頼者は被害弁償することを希望したため、私は被害弁償と、刑事処罰を求めない旨の文言入りの和解契約の成立を目指して活動を開始した。

 勾留7日目、依頼者は検事調べのため地検に呼ばれた。その翌日の接見の際、依頼者は地検での待ち時間があまりに苦痛であること、検事からしつこく質問されることに嫌気がさしたと話したうえで、取調べを拒否したいと言った。そこで同日、依頼者の手書きの意思表明書を弁護人名義の通知書に添付し、警察署刑事課長、検事、留置宛てにファックス送信した(資料1)。

捜査機関の反応

 通知書送付の翌朝、私が和解契約交渉の状況について検事に報告した際、検事から「通知書いただいたのですが取調べはします。黙秘権には配慮します。」と言われた。私は「取調べは拒否しますので」と答えた。
 もっとも、検事の言葉とは異なり、通知書送付後、刑事調べの呼出しも検事調べの呼出しもなく、取調べは一切行われなかった。

結果

 私は、依頼者の認識する行為を前提として、被害者と刑事処罰を求めない旨の文言入りの和解契約をした。その結果、依頼者は処分保留釈放となり、その後不起訴となった。

その後の事件での実践継続

 強盗致傷被疑事件の後も、黙秘の方針を採る事件で取調べ拒否を依頼者に提案し、実践してきた。以下はそのうちの3件である。

1 窃盗被疑事件

⑴ 事案の概要

 氏名不詳者らと共謀のうえ、氏名不詳者らが被害者に架電し、カードが不正利用されており警察官が自宅に行く旨告げてその旨誤信させ、依頼者が被害者宅を訪れキャッシュカードを受け取り、封筒に入れて他の封筒とすり替えキャッシュカードを窃取したという被疑事実である。

 依頼者は、キャッシュカードを取りに行ったことはあるが当該被害者宅かはわからないとして否認した。

⑵ 弁護実践

 勾留決定日に被疑者国選で受任した。

 初回接見で黙秘の方針を決定した。依頼者には強盗致傷被疑事件の際と同様の説明をしたほか、実際に取調べ拒否をした事件があるという話もした。依頼者は方針に賛同したため、依頼者の書いた意思表明書添付の通知書を捜査担当警察署の刑事課長、検事、留置宛てに翌朝ファックス送信した。

⑶ 捜査機関の反応

 通知書送付の翌日、刑事調べの呼出しがあった。依頼者は留置係官から「頼むよ」等と15分程度説得され出房したというので、同日抗議書を警察署の刑事課長、検事、留置宛てにファックス送信した。

 その翌日にも刑事調べの呼出しがあり留置係官から説得され出房したというので、再び抗議書を各所にファックス送信した。

 その後は刑事調べの呼出しはなく、依頼者は検事調べに2回呼ばれたがいずれも拒否した。

⑷ 結果

 依頼者は満期に公判請求され、再逮捕された。

 再逮捕事件でも黙秘の方針を決め、再び取調べ拒否の通知書を各所に送付した。再逮捕事件では勾留決定後1度だけ刑事調べに呼ばれたが拒否したところ、その後刑事調べの呼出しはなかった。検事調べの呼出しはあったが拒否した。

 なお再逮捕事件で「被疑者取調べ未了」等を理由とする勾留延長決定がなされた。そこで通知書を資料として添付し、黙秘権行使の意思を明示して取調べを拒否しているのに、被疑者取調べ未了を理由に勾留延長することは黙秘権侵害である等として準抗告した。準抗告は棄却されたが決定書に「被疑者取調べが必要」である旨の記載はなかった。

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(2025年07月18日公開)


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