冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第28回

冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第28回

再審制度の存在意義と証拠開示手続

再審法改正案の国会審議の動き(その2)/5月29日・衆議院法務委員会② 

葛野尋之 青山学院大学教授


123

 5月28日、再審制度を見直す刑事訴訟法改正案が審議入りした。衆議院本会議で、高市首相の趣旨説明と質疑が行われた。内閣提出の「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」と西村智奈美君外3名提出「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(議連案)の両案が一括して議題とされた。
 5月29日、衆院法務委員会で、その両法案をめぐり、参考人意見発表と質疑が行われた。参考人として池田公博・京大大学院教授、葛野尋之・青山学院大教授、上谷さくら・弁護士、そして鴨志田祐美・弁護士の4人が立った。
 以下では、質疑応答前の参考人の意見報告のうち、鴨志田弁護士と葛野教授の意見陳述原稿を掲載する。
 なお、時間の制約から、衆議院法務委員会においては割愛された部分も含まれている(刑事弁護オアシス編集部)。

 青山学院大学の葛野尋之です。私は、再審について研究してきた研究者としての立場から、「再審制度の存在意義と請求人に対する証拠開示手続の新設」について意見を述べさせていただきます。

1 再審制度の存在意義

⑴ 再審の目的—迅速・確実な誤判の発見・是正による無辜の救済

 現行の再審制度は、憲法39条の要請により、有罪判決の確定により刑を科された本人に有利な再審のみを認めています。利益再審に純化した再審制度の目的は、端的に、誤った有罪判決という意味の誤判を是正し、無実の人、無辜を救済する点にあります。誤判による刑罰は、国が個人の人権を正当な理由なくして奪うことにほかなりませんから、憲法の求める「個人として(の)尊重」、その基礎にある個人の尊厳を侵すものです。誤判は決して許されません。

⑵ 再審の有効な機能—刑事司法全体の健全性

 しかし、刑事裁判は、いかに丁寧に手続を進め、どれほど慎重に証拠を評価したとしても、誤判を完全に防ぐことができません。それゆえ、刑事司法は、誤判の防止とともに、誤判を迅速・確実に発見し、是正するためのサブシステムを備えていなければなりません。このサブシステムが再審です。誤判が決して許されないことからすれば、誤判を迅速・確実に発見・是正するという再審が有効に機能してこそ、刑事司法は、全体としての健全性を獲得することができます。通常審とのバランス、通常審の尊重を理由にして、再審の機能を限定するならば、刑事司法全体の健全性が低下することになります。

⑶ 確定力・法的安定性と再審

 再審は、しばしば、確定判決の確定力、それに基づく法的安定性と、実体的な真実、それに基づく具体的正義とが矛盾・対立するときに、両者の調和を図る制度だと説明されます。この説明は、本人に不利益な再審をも許容していた旧法時代からあるものです。

 しかし、利益再審に純化した現行憲法・刑訴法のもとでは、再審において追及すべき実体的な真実・具体的な正義とは、端的に、誤判の是正であり、無辜の救済を意味します。そうすると、再審は、確定力・法的安定性という国ないし裁判制度の利益と、誤判の是正・無辜の救済という人権の要求とが矛盾・対立するとき、両者の調和を図る制度だということになります。

 両者はどのように調和させるべきか、が問題になります。先に述べましたように、誤判は「個人の尊厳」を侵すものであり、最大の人権侵害です。確定力・法的安定性の尊重は、たしかに裁判制度を維持するために重要ですが、それを理由にして、誤判の是正を抑制し、無辜の救済を怠ることは許されません。

 再審において両者のバランスは、すでに再審の開始には無罪等を認めるべき明白な新証拠を要求する点において具体化されています。それを超えて、確定力・法的安定性を理由にして、誤判の是正・無辜の救済に制約をかけることはできません。再審においては、迅速・確実に誤判を是正し、無辜を救済する限りにおいて、確定力・法的安定性が尊重されるという関係において調和させるべきです。請求審における証拠開示の在り方、開始決定に対する検察官の不服申立ての可否など、重要論点についての解決は、通常審とのバランス、確定力・法的安定性の尊重など、一般的で抽象的な要請から演繹するのではなく、再審の機能を強化するか、法的許容性はあるかを具体的・実質的に検討して導き出さなければなりません。

2 請求人に対する証拠開示手続

⑴ 裁判所に対する証拠提出命令(閣法445条の2)

 証拠開示をめぐって、法制審再審部会においては、当初、裁判所に対する不提出証拠の提出を命じる枠組みと、請求人・弁護人に対して直接開示するよう命じる枠組みとが提案されていました。

 再審部会の多数意見は、請求審は、裁判所が請求人の主張する再審請求理由の有無を主体的に判断するという職権主義の構造をとることから、裁判所が、再審請求理由の有無を判断するための事実取調べの一形式として、検察官に対して不提出証拠の提出を命じる手続を採用すべきであって、提出命令の対象は再審請求理由に関連する、裁判所の審理に必要な証拠に限られるべきだとする立場をとりました。

 これに対して、「請求人開示」型の枠組みは、再審請求理由と関連せず、裁判所がその有無を判断するにあたり必要ではない不提出証拠までをも、請求人に直接開示すべきとするものであるから、請求審の職権主義構造に適合しない、とする意見が多数を占めました。

 こうして、裁判所に対する証拠提出命令が、法制審「答申」において採用され、閣法のなかに具体化されました。

123

(2026年06月06日公開)


こちらの記事もおすすめ